すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「コンタクト」 上・下  カール・セーガン (アメリカ)   <新潮社 文庫本>   【Amazon】 〈上〉 〈下〉
エリー・アロウェイは聡明で、負けず嫌い、疑問は解かなければ気がすまない子供だった。 両親の豊かな愛に育まれ、幸せに育っていたエリーだが、父親である金物屋の店主テッドを亡くし、 母親の再婚相手である物理学教授ジョン・ストートンが家に来てからは、あまり幸せとはいえなくなった。 それでも女性ながら天文学者としてのキャリアを積み、三十代後半になる頃には、地球外知的生物を探索する アメリカ政府の研究所<アーガス>の所長となっていた。ある日、<アーガス>は奇妙な電波信号を受信した。 発信元はヴェガ系惑星、地球からは26光年も離れた位置にあった。地球外知的生物がそこにいるのか。 騒然とするなか、ヴェガからは、おかしな映像が送られてきた。
にえ この本は、予想してたのとかなり違ってた。カール・セーガン博士という 天文学者が書いたSFで、題名が「コンタクト」ってぐらいだから、ばりばりのハードSFで、人類が他の星に行って、 宇宙人に会って、宇宙でいろいろあって、と、そういうのを想像してたんだけど。
すみ まず、読みはじめで驚いたのよね。SFなのに、最初っから読みやすい。 難しいうんちくでもなく、唐突にサイバーな設定からはじまってとりつくしまもないってかんじでもなく、 頭のいい女の子が科学を好きになっていく成長の物語からはじまってるの。
にえ エリーはラジオを分解して仕組みを探ったり、空を見上げて地球の自転について 考えたり、ああ、科学者となるべくして生まれた子なんだな〜とすんなり話に入っていけたよね。
すみ 実のお父さんを亡くして、義理のお父さんとの会話に傷ついたり、そういう ところで共感も持てたしね。頭がいいとはいえ、普通の女性なんだなって。
にえ で、成長して三十代後半になったエリーが<アーガス>の所長として登場、 いよいよこれからSFらしくなっていくのね、と思ったら、それもまた違ってたよね。
すみ 研究所のまわりをドライブしてうさぎたちを見つけたり、つきあってる 男性の話があったり、おやっと思ったよね。
にえ それからヴァガからの電波を受信して、いよいよ宇宙人ですか、と思ったら、 そうでもなくて。けっきょく、受信した<メッセージ>を解いていく過程がめんめんつづられて、大きく話の進展があるのが、 なんと下巻の半分過ぎてから。
すみ つまり、これは想像したSF世界を繰り広げてみせるって話じゃなくて、 未知との遭遇、ファースト・コンタクトを迎える人間たちがどのような行動をとり、どのような問題があるかっていう、 そういうお話なのよね。
にえ じゃあ、ダラダラしててつまんないんじゃないのと思うかもしれないけど、 それが、それが、溢れだすほどの知識や、人と人との駆け引きなんかがあって、飽きてる暇はないのよね。
すみ あと、人についてもすごく丁寧に書かれてたよね。いろんな国の科学者が 集まってくるんだけど、一人一人の科学者にそれぞれの人生があって、それもまた興味深く読めちゃうの。
にえ 人については人種差別の問題もかなり取り上げられてたよね。それに 東と西の対立。当然、書かれた時代が時代だから、アメリカとソビエトの問題がかなり色濃いんだけど。
すみ ヴェイゲイってとっても素敵なソビエトの電波天文学者が、エリーの親友なのよね。 この人が科学者なのにストリッパーの女友達がいたりして、楽しい人なの。
にえ エリーにしてもさあ、女性が男性と対等にわたりあっていく難しさとか、 老人ホームにいる母親と仕事を持つ娘の難しさとか、いっぱい問題を抱えてて考えさせられたよね。
すみ それにしても、<メッセージ>に対する反応は、私たちにとっては驚くばかり だったよね。宗教家が神からの交信だとか、悪魔からの誘いだとか、おかしなことを言いだすまではまだわかるにしても、 エリーという国を代表するような科学者が、その宗教家に会って説明しなきゃいけなかったりして。こういうのって 日本じゃちょっと考えられない。
にえ 神が本当に存在するという目に見える証拠を求めたがるのも、ちょっと 不思議な感じがしたよね。なんで証拠がないと神が存在することにならないのか、私の感覚からいくと理解できない。
すみ 宇宙に神を求めに行く話なのかしらってところまでいってたよね。 キリスト教国では、科学と宗教って切り離せない問題なのかな。逆に結びつけて考えられない私には、 驚くばかりだった。
にえ それにしても、カール・セーガン博士の豊富な知識には驚いたよね。 聖書について細かに書いてあるのもそうだけど、言語学について触れてみたり、考古学について古代インドの神話について、 そうかと思えばシュールレアリストの画家ルネ・マグリットについての著述があったり、挙げるときりがないけど、 本当に造詣深く、どれもこれも、知識に対して愛情さえ感じられるほどの記述だった。
すみ 日本についてもたくさん書いてあったよね。これについては、ちょっと読んでてむ ずがゆくもあり、こんなことも知ってるのと驚かされもし、でおもしろかった。
にえ そうそう、朝日新聞社が出てきたり、筑波学園都市が出てきたり、ただ北海道っていっても、輓馬 競争の話が出てきて、雪祭りの話が出てきて、アイヌ人の話が出てきて、と、よく知ってるなあと感心するばかりよね。
すみ そうかと思うと、日本人の技術者たちがここぞってときに全員ハチマキしたりして、ありゃりゃ〜と 思ったりね(笑)
にえ そんなこんなで楽しく読みながら、異星人のファースト・コンタクト にたいして、各国の政府は、経済界は、マスコミは、一般市民は、宗教家たちは、どう動いていくのか、 一つのパターンを提示されることによって、読んでるこっちも考えさせられるの。問題提起的な小説だったよね。
すみ それにしても、ラストは感動的だった。ジワ〜っと来た。いろんなことを乗り越えて、 エリーという一人の女性が成長していく物語でもあったよ。
にえ 読んでおくべき本でした。オススメで〜す。