すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「アニー・ジョン」 ジャメイカ・キンケイド   <學藝書林 単行本> 【Amazon】
カリブ海に浮かぶアンティグワ島で、年老いた大工の父親と、その後妻で三十六歳年下の美しい母親の あいだに生まれた一人娘のアニー・ジョンは、大変頭が良く、そして少しばかり問題の多い少女に育った。 母親は、もうヤング・レディーなのだから、行儀作法も身につけ、それなりの相手ときちんとしたつきあいを するべきだと言うけれど、アニー・ジョンは習い事をしても続かず、母親が喜ばないような友人とこっそり会 う。学校では成績も良く、表面的には優等生だけれど、教師たちには目をつけられていた。
にえ これは作者の十代の頃の自伝的な作品。ジャメイカ・キンケイドは、 イギリスの植民地だったカリブ海のアンティグワ島で生まれ育ちました。この小説の舞台もアンティグワ。
すみ アンティグワ島は、アフリカ系島民が暮らしているんだけど、教会や 学校はイギリス式だったりする島なのよね。
にえ その島で育った、十代の少女の物語。といえば、異国情緒もたっぷりで、 自然の中で伸びやかに育っていく少女の話かなと想像するけど、ぜんぜん違ったよね。
すみ うん、アニーがあまりにも自分と近すぎてギョッとした(笑)
にえ 驚くよね〜。どうしてこんな、遠い遠い島に住んでる少女が、私とそ っくりなのよと驚かずにはいられなかった。
すみ 十代の少女の青春小説ってどれもこれも、なかなか自分と近い主人公がいなくって、 自分ってイビツなのかな、なんて思ってたから、ここでまさか近い人にめぐりあうとはって感じだよね。私たちにとって は、カーソン・マッカラーズにつづいて、やっと二人めかな。
にえ アニーは、私たちが共感できなかったような他の小説の少女とは 一線を画してるのよね。不良ぶっている子でもなければ、すごく良い子ってわけでもなく、目標に向かって 必死にがんばっている子ってわけでもなくて。
すみ けっこう裏表を使い分ける狡賢さがあるかと思うと、子供っぽい遊びから まだ抜けられなかったり、本当に等身大というか、忘れかけていた自分の十代の頃を見せられてるみたいで、 読んでて顔が赤くなりそうなほどだった。
にえ 買物を頼まれてたのに忘れてて、「ごめんなさい」と一言いえばすむこと なのに、シラッと嘘をついてごまかそうとするところなんて、なんか懐かしいやら恥ずかしいやらだったな。
すみ 大人になろうとしているのか、子供のままでいようとしているのか、 本人じたいがわかってない混乱も、そのまま書いてくれてるから共感できたよね。
にえ 中学生になってもビー玉みたいな子供っぽい遊びに夢中になってしま うようなところ、自分でも忘れてたけど、たしかにあった。
すみ アニーが変な女友達に夢中になって、親の金を盗んで物をあげて関心を 引いて、もうその子のことばっかり考えてるのに、母親に付き合っちゃダメって言われると、もう翌日からは 会わなかったりしたでしょ。ああいう、あの世代の少女独特の薄情さも、読んでて痛いぐらいよくわかったな。
にえ チャッカリ別の友だちも確保してあって、明日からはそっちと遊ぼうって 平然と考えるところなんて、忘れてた自分の姿を見せられたようで、読んでて痛いぐらいだったよね。
すみ で、この小説の核になってるのが、母と娘の関係なんだけど、これがまた、 わかる、わかると思った。
にえ そうなの、愛しあって信頼しあう母と娘って、なんか本当かなあと思って しまうところがある私たちとしては、これだ!って感じだったよね(笑)
すみ アニー・ジョンは、まだ母親に甘えたい気持ちと、もうこれから一生、母親と はわかりあえないだろうって気持ちがたえず交差して、不安定なんだよね。
にえ 母親も、自分の所有物のようだった娘が離れていき、娘を信用しきれなくな って、そのことで傷ついてるのよね。でも、もう別々の女性として離れていくべきだとも思ってるみたいだし、 憎しみあってるわけじゃないけど、単純に愛しあうこともできない、こういうジレンマってわかる。
すみ アニーが道で声をかけられた男の子たちと少しだけ話して、すぐに 逃げるんだけど、それをぐうぜん母親が見てしまうシーンがあったでしょ、あれが象徴的だったよね。
にえ うん、母親はつい「あばずれ」って言葉をアニーに使っちゃうんだよ ね。アニーはちゃんと説明すればいいんだろうけど、それができずに「この母にしてこの娘」って言い返しちゃうのよね。
すみ どうしてお母さんは私のことを信じてくれないのって思うし、私のことを そういうイヤらしい女のように見ていたのってショックだし。
にえ こういう形で女扱いされちゃうと、もう母親とうまく接することができなくなっちゃ うよね。
すみ しかもアニーと母親は、二人だけでいると気まずい空気が流れてるのに、他の人がいる と仲のいい母子を演じてしまうでしょ。こういう複雑さって、同じ女だからこそわかるって気がする。
にえ 憎みあってるわけでも、冷めた関係になったわけでもないんだよね。まだお互いに大事 な人なんだけど、もううまくつきあえない。こういう小説を書いてほしかった。というか、もっと早く読みたかった(笑)
すみ わりと短めの長編小説なので、私たちのように今までの青春ものがピンと来なかった 女性の方には、ためしに読んでみていただきたいな。