すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「アフリカの海岸」 ロドリゴ・レイローサ (グアテマラ)  <現代企画室 単行本> 【Amazon】
モロッコの羊飼い少年ハムサに両親はいない。ある日、ハリッド伯父が訪ねてきて、高速艇で海岸に乗りつけるので、 警官たちや海岸線を監視する兵士たちに見つからないよう、一晩見張りをする仕事をしないかと持ちかけた。 だが、一晩中起きていられるか? ハムサはフクロウの目玉をくりぬいて、不眠のお守りにすることにした。 一方、コロンビアからモロッコに来て、パスポートをなくしてしまった男は、道端で売っていた美しいフクロウを 手に入れた。だが、滞在するホテルで動物を飼うことは許されない。フクロウが許される安ホテルに移った男は、 ジュリーという女性と知り合い、マダム・シュワゼールの邸宅に宿泊することになった。
にえ ロドリゴ・レイローサ3冊紹介の締めは、今のところ最新作の 「アフリカの海岸」です。
すみ この本は舞台がグアテマラじゃなくてモロッコ。レイローサは、 モロッコのタンジェでポール・ボウルズに出会い、それから十数年間、タンジェに住みつづけたから、 モロッコはいわば第二の故郷。
にえ 若いうちから行って、ずいぶんいろんな印象を受けたんだろうね。 グアテマラを舞台にした前2作より、土地の匂いが濃い作品だった。パスポートをなくした男が 彷徨う都会の街と、田舎で羊飼いをしているハムサの対比が、そのままモロッコの縮図って感じだし。
すみ 男はファックスとか、最新設備のホテルとかって言ってるのに、同じ 国の、すぐ近くに住むハムサの生活は、土着のイスラム教徒独特のまじないやら薬草、吉凶占いなどに まだ囚われてるのよね。
にえ 眠らないためのまじないとか、風邪をひいたときに使う薬草とか、 いまだに信じている人たちがいるんだってのが、レイローサの眼を通すと、ホントに不思議に感じるよね。
すみ うん、だってハムサは麻薬をやったり、少し異常な性欲があったりもするし、 どこか冷めてて現代っ子って感じだし。そのハムサがまじないは信じるってのに違和感があり、それが 不思議な感触になってるよね。
にえ レイローサの小説の登場人物らしく、やっぱりハムサもカサカサと乾いてたよね。 でも、牧歌的な生活の部分もあったりしたけど。
すみ 海に落ちた子羊をハムサが助けるシーンがよかったよね。汗の匂いを感じる っていうか、地で暮らすものの生活をかいま見るような感じで。
にえ ハムサに子分のように仕える年下の男の子イスマイルはちょっと可愛かった し、風邪をひいたハムサの看病をするおばあちゃんはやさしかったし、そういうのどかさもあるなかで、 すれた子供になってしまってるハムサが、なんとも今風だよね。
すみ かたやパスポートをなくした男のほうは、前2作のレイローサの小説から して、レイローサらしいなって感じの登場人物だったよね。
にえ 泥酔の末にパスポートをなくして、コロンビアに帰らなくちゃいけないけど、 このままダラダラとモロッコで暮らせたらいいな〜みたいなことも考えていて、なんかいかにもなダメ人間だったよね。
すみ 奥さんいないとか嘘ついて、ちょっとうしろめたさを感じるんだけど、 まあいいやみたいな、悪人でも善人でもない、どっちつかずな人なのよね。
にえ まあ、そういう人ですから、運命に翻弄されますわな。とりあえず パスポートを再発行してもらおうとコロンビア領事館に行くんだけど、そこにいたのはコロンビアに行った こともないというアメリカ人の名誉領事。やる気はなさそうだし、言動はあやしいし。
すみ 道で考えなしにフクロウなんて買っちゃうから、泊まってたホテルも 追いだされちゃうしね。
にえ コロンビアに長く帰れないから仕事はなくすし、奥さんとの関係も 失って、金もなくなって、まあ、ころげ落ちてく、落ちてく(笑)
すみ でも、遺跡を調べてるっていうジュリーという女性と知り合って、 ちょっと運が上向いてくるのよね。
にえ まあ、それもどうなることかしらね。あやしげな人物ラシッドなんかと 知り合いになって、変なことを頼まれちゃうし。
すみ で、この男とハムサは、運命を交差させることになるのよね。
にえ 会うことは会うけど、二人のあいだでは、文化の違いが完全に壁になっ てるって感じがしたよね。こういうことをさりげなく書けるところが、レイローサの上手さかな。
すみ そうなの、そうなの。この人の小説って、するっと読み流しちゃうこともできるけど、 おやっと思って注意しだすと、さすがに上手いなって感じるところが多いのよね。さりげな〜く書いてる上手さなんだよね。
にえ それにしても、この本の装丁はなかなか派手だったよね〜。普通の本よりちょっと縦長だし、 まさにアフリカって感じの少し土を混ぜたような明るい色をたくさん使ってて、本棚にあると、なかなか目立って良いかも。
すみ 3冊読んで、やっと良さがジワジワわかってきたような気がする。レイローサ、こ の先が気になる作家さんでした。