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 「黒い犬」 イアン・マキューアン (イギリス)  <早川書房 単行本> 【Amazon】
戦後すぐに共産党員となったバーナードとジューンは、同志として夫婦として、深い愛で結ばれていた。しかし、かれらは袂を分かつ。互いの執着を婚姻関係という形式にとどめたまま、フランスとイギリスで別々の道を生きることにしたのだ。その後、バーナードは科学主義に徹し、ジューンは神秘主義に走った。なぜ、彼らは突然破局を迎えたのか? そこには、“黒い犬”の存在があったとジューンは言う。そんなものは、ジューンの妄想にすぎないとバーナードは言う。二人の残した言葉をもとに、孤児だった過去を持つ娘婿は、回想録を書くことにした。”黒い犬”を求めて。
にえ またまたイアン・マキューアン(笑)
すみ しかも、今度は彼の猟奇ものを読むって言ってたのに、避けて猟奇ものじゃない作品だし。
にえ だんだんわかってきたんだけど、この作家、70年代には猟奇もの、80年代には政治色の強いもの、90年代になると、シニカルタッチで、日常にひそむ狂気の世界を書きだしたみたい。
すみ なんか研究家みたいになってきたね(笑)
にえ だって、こうもとらえどころがないと、探りを入れたくなるよ。
すみ イギリスでは有名な作家みたいだけどね。あと、アメリカでも招かれて映画の脚本を2本書いてるし。
にえ 自分が原作の『イノセント』(邦題は『愛の果てに』)と、マコーレカルキン主演の『危険な遊び』。こっちはオリジナル脚本ってことだけど、原作あったら読みたいよね、おもしろそうだった。
すみ で、私たちが前に読んだ2作は、90年代の日常にひそむ狂気ものなのね。
にえ そうそう、で、これが80年代の政治色の強い作品。
すみ どうせなら、80年代の代表作『イノセント』のほうを先に読みたかったね。
にえ だって、この本を手にとったときは、知らなかったんだもん(笑)
すみ この本は、バーナードとジェーンという、信じる根元的な理論が違ってしまい、相手を理解することも、説得することも互いに出来なくなった夫婦が象徴的に扱われてるのよね。
にえ 説教くさくならずに、淡々と事実が語られていくところはよかったよね。そんなに読んでおもしろいって話でもなかったけど。
すみ 文章っていうか、書き方も前に読んだ二作とかなり違ってたよね。
にえ うん、あの長々しいウンチクたれがなくて、もっと普通の小説って感じ。
すみ なんかでも、この人の文章のせいなのか、翻訳なのか、ちょっと軽めの研究書を読んでいるような印象だった。
にえ なんか、回想録っていうより、人間観察日記みたいな雰囲気だったね(笑)
すみ それにしてもさ、なんでもよく知ってる人だよね。ビックリしちゃう。
にえ 『愛の続き』で心理学の知識を披露して、古典文学界の知られていないこぼれ話を紹介して、『アムステルダム』で音楽にも造詣が深いことを示して、この本では、政治の他に科学、昆虫なんかの知識までさりげなく出してきて、ホント、小ネタの豊富な人だね。
すみ こういう知識のひけらかしはイギリスで受けるみたいね。イギリスの他の作家でも、わりとウンチク散りばめた作品が多いみたいだし。
にえ イギリス人ってウンチクタレなんでしょうかね(笑)
すみ さてさて、どうしますか。
にえ もちろん、今度こそ、猟奇ものの極み、この人の「セメント・ガーデン」を読みましょう。