すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「海の上のピアニスト」 アレッサンドロ・バリッコ (イタリア)  <白水社 単行本> 【Amazon】
1927年1月、17歳のわたしは、どうしてもトランペット奏者になりたくて、汽船ヴァージニアン号の 人員募集に応募した。いったんは断られたが、面接官の前でトランペットを吹き、見事採用されたわたしが 船で出会ったのは、世界一のピアニスト、ダニー・ブードマン・T・D・レモン・ノヴェチェントだった。 ノヴェチェントは赤ん坊のときにヴァージニアン号の一等船客用のダンス室にあるグランドピアノの上に捨て られていた。拾って育てた老ダニー・ブードマンは、ノヴェチェントを取り上げられることをおそれ、ノヴェチェントを 船から降ろさなかった。8年後に老ダニーが亡くなり、汽船ヴァージニアン号の専属ピアニストになってからも、 ノヴェチェントは船を降りていない。ノヴェチェントは一度も陸にあがったことのない、船の上のピアニストだった。
にえ 初アレッサンドロ・バリッコです。イタリアでは超人気作家らしいんだけど、 日本では、2002年1月にやっと3冊め「シティ」が白水社から出版されたばかりで、まだこれからって感じでしょうか。
すみ でも、「海の上のピアニスト」は映画で有名だよね。
にえ そうなの。アレッサンドロ・バリッコはイタリアでは超人気とはいえ賛否両論。 ちょっとストーリーがつかみづらい作風で、嫌いな人はこんなのは「たわごと」だとまで言うらしいの。だから、映画を観て、 ストーリーがわかっているこの作品から挑戦。
すみ でも、この本に関しては、映画を観てなくてもストーリーをつかみやすいよね。バリッコ作品にしては珍しいらしいけど。 かなり短くまとまってるし。もとを正せば、これは小説ではなく、一人芝居用の脚本なんだとか。
にえ 一人の男が舞台に立ち、お芝居をするというよりは、一人の男の生涯を観客に向かって語りきかせるって 感じなのよね。だから、脚本なんだけど、小説といってもいいような内容。
すみ 一人の男の生涯っていうのが、海の上のピアニスト、ダニー・ブードマン・T・D・レモン ・ノベチェントの生涯なんだよね。
にえ ノヴェチェントというのは、イタリア語で900って意味なんだそうな。 つまり、1900年に拾われたからノヴェチェントで、映画では「ナインティーン・ハンドレット」って名前になってました。
すみ 比べてみると、映画のナインティーン・ハンドレットはちょっと無理をしたなあって気は するよね。でも、ノヴェチェントのままだと、名前の不思議さが伝わらないから、これはしょうがない。
にえ ノヴェチェントはピアノを習ったわけじゃなくて、自然に覚えてしまったというから、まさに天才肌。
すみ だれかに歌ってもらえば、すぐにその曲が弾けるし、即興でつくった曲を弾けば、その美しさに感動して、 人々は涙を流すほどなのよね。
にえ なんか読んでいるあいだじゅう、頭の中でピアノの音が流れてたな。
すみ うん、本当に行間から、美しい曲が流れてくるようだった。
にえ エピソードの数々がまたどれも素敵だったよね。
すみ 大シケのなかで、ピアノのキャスターのストッパーをはずして、船のなかを クルクルとまわりながら、すべって走りまわるシーンが良かったな〜。本当に頭のなかではワルツが流れてた。
にえ ピアノを思いのままに操るといっても、ふつうは演奏だけのことだけど、ノヴェチェント はピアノを弾くだけじゃなく、操縦までできちゃうんだよね。
すみ ジャズの創始者だって名乗ってる、いばりくさったジェリー・ロール・モートンとのピアノ対決、あれも良かったよね。
にえ 腕が百本あるのかと思えるほどの早弾き。激しく、からみあうような旋律が聴こえて、ドキドキしちゃった。終ったあとの描写もキマッてたし。
すみ 映画と原作はなり近かったよね。ノヴェチェントのイメージは映画とはちょっと違ったけど。
にえ うん、映画でちょっとエピソードが加えられてたのも、あれはあれで良かったと思うし、映画では理解しづらかったところが、本で理解できて、またよかった。
すみ 私は映画だと、海に怒鳴られたおじさんの話がちょっとわかりづらかったんだけど、本ではわかりやすかった。おじさんの気持ちがよくわかったし、それに感動したノヴェチェントの気持ちもわかったし。
にえ ノヴェチェントが船から降りなくてもいいっていうのも、本のほうがわかりやすかったよね。ピアノを弾けば、ノヴェチェントの頭の中に世界中の景色がありありと浮かぶんだよね。 ロンドンの町の中、田園地帯を走る列車のなか、腰の高さまで雪が積もった高山、ジャングル……。本当に溜息が出るくらい美しい話だったな〜。
すみ 映画を観た人にも、観ていない人にもオススメです。