=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「恋をする躰」 ジャネット・ウィンターソン (イギリス)
<講談社 単行本> 【Amazon】
何人かの女性、男性とつきあい、別れを繰り返した私は、動物園で働く女性ジャクリーンと暮らしはじめた。 ジャクリーンを愛することはできそうになかったが、落ち着いた、おだやかな生活がおくれると思った。友だちは みな反対したけれど、今の自分には愛よりも安定した生活が必要なはずだった。ところが、私は運命の女性 ルイーズと出会ってしまった。ルイーズは医者の夫エルギンがいて、恵まれた生活をする美しい女性だったが、 本気で私のことを欲してくれていた。それぞれ間違ったパートナーと別れ、一緒に暮らしはじめるが、そこにエルギンが現れ、 ルイーズは白血病で余命いくばくもなく、自分と一緒にたほうが幸せだと私に告げる。 ルイーズの命が長らえることを願い、姿を消す私だったが……。 | |
これは女性が女性を愛する同性愛の小説です。翻訳者さんがこの本を紹介するのに、「主人公の<私>がペニス所有者で あるのか、ヴァギナ所有者であるのか、ついに最後まであかされていない」ってなぜおっしゃるのかが私にはわからない。 | |
うん、本文を読むとわかるけど、あきらかに<私>は女性だよね。ミッキーマウスのプリントつきの ワンピースを着る男がどこにいるのよ(笑) | |
レズビアン小説といって敬遠されるのを避けたのかもしれないけど、 それがわかってないと本文中での、男性の男根崇拝をあざ笑うセリフも、社会における女性の位置づけの 低さをなげくセリフも意味をなさなくなっちゃうと思うんだけど。 | |
同性愛を認めなかったら、ジャネット・ウィンターソンを紹介できないよね。 この本がまったくの創作なのか、経験をもとにして書いたのかはわからないけど、 隠さずに女性を愛するウィンターソンという作家の姿勢が色濃く反映している作品なのはたしかだし。 | |
で、この本、あまりにも主人公の心情をセツセツと語っている小説だったから、 どうしても読んでいるこっちとしては冷静になってきて、登場人物たちの動きを分析したくなっちゃうんだけど、それが作者の狙いなのか、偶然そうなったのか、かなり疑問。 | |
え、主人公と一緒の気持ちになって読むものなんじゃないの。マルグリ ット・デュラスや「カミーユ・クローデル」あたりの、鋭敏すぎる感受性を抱えながら、命をかけて恋をする女たちの一人に加えたいような、 新しいようで古典的な恋愛小説だったよね。 | |
そうかな。ここまで思いつめる人にたいしては、どうしても冷めた気持ちで見ちゃうんだけど。まずね、主人公は夫のいる女性ばかりを 好きになってしまい、最後は悲惨な別れを繰り返してきた人なんだよね。 | |
もがいてるって感じがしたよね。どこかにたどりついて、根をはやしたいと願いながらも、いつまで経っても 根がはやせずに流されて苦しんでるような恋愛遍歴。 | |
いやいや、本気で根をはやしたかったら、あえて人妻を恋愛対象に選ばないと思うんだけど。 | |
う〜ん、まあ、相手に自分の魂をまるごと差し出すのはいやだとか、束縛されるのはいやだとか、 そういう意志は見え隠れはしてたけどね。 | |
で、この主人公、それほど美人ではないようなんだけど、逃げタイプの人のためか、けっこうもてるのよね。最初のうちは、 こういう人を恋愛の相手に選んだ場合の悪い例がエピソードとして紹介されてたみたいだったけど。夢中になりすぎて、 別れることになると逆上するような、のめりこみタイプの女、あっさり捨てられてます。かといって、自分から去っていって、長いこと放ったらかしにしちゃうような 女も、あっさり忘れられちゃってます。 | |
ああ、旦那と外国に行っちゃって、伝書鳩で連絡よこせとか言った女ね、あれは無茶だわ。あとから、やっぱり〜なんて現れるけど、もう遅いって感じ。 | |
で、主人公は本気で愛して、自分がのめり込んでしまうような相手と一緒にいるのがこわいから、ぜったい本気で好きにはなれない、ジャクリーンって女性と 同棲をはじめるでしょ。 | |
本気で人を愛したいようなことを言いながら、愛することに怯えてるのかもね。こういう矛盾はわからなくもない。 | |
でもね、このジャクリーンって女性は表には出さないんだけど、本当は心の奥に激しい愛を内在してるタイプなの。 | |
それはたしかだよね。最後には隠したものを爆発させて、そうとうスゴイ行動に出てた。 | |
主人公はその爆発を見るまで、そういう激しさを持ってる人だとは気づかなかったって言うでしょ。これはおかしい。かりにも一緒に暮らしていれば、 そういうのって感じるものだよね。よほどジャクリーンを見ないようにしてたのか、なんとなく気づいていても、気づかないふりをしていたのか。どちらにしても、この主人公にはそういう冷たいところがあるね。 | |
まあ、ジャクリーンにたいしてはちょっと冷たすぎたよね。あきらかに楽をさせてもらう対象としか考えてない。 | |
それから、ルイーズと出会うのよね。で、ルイーズを本気で愛しそうになると、主人公はとたんに及び腰になっちゃう。 | |
そうなのよね。ルイーズがエルギンと別れて一緒に暮らしたいとほのめかしても、主人公は自分から「来て」とは絶対に言わないのよね。あなたが決めてって言いはるの。ちょっと様子を見たほうがいいとか、逃げるようなことばかり言っちゃうし。 | |
ここで言ってることとやることに矛盾が起きて、本音が見える。一緒に暮らすときは相手の意志を尊重したいようなことを言ってたはずなのに、ルイーズといざ一緒に暮らしだして、愛の重みが増していくと、相手の気持ちを聞かないで、自分の意志で去っちゃうの。 | |
あれはちょっと私も、え、と思った。エルギンはルイーズを白血病だと言ったけど、ルイーズはそれを信じないで、他の医者にも診断してもらうのよね。その診断結果が待っていればすぐ出るというのに、主人公は 待たずに、ルイーズのためだって書き置きをして、姿を消しちゃうの。 | |
本当は一緒にいたいと思ってるんなら、せめて診断結果を待つよね。 でも、待たないで、逃げる理由ができたとばかりに、エルギンの嘘か本当かわからない言葉に飛びついて、さっさと重い愛からは逃げ出しちゃうの。完全に逃げタイプだ。 | |
でも、主人公は離れてもルイーズのことばかり考えちゃうのよね。そりゃまあ、離れてるからこそ安心して愛せるって解釈もできるけど。 | |
いや、私はさらにもう一度逃げてるように感じたよ。ルイーズの躰を思い出して、ひとつひとつを賞賛していくでしょ。相手の美しいところだけを挙げて崇拝し て、高い位置におくことで、さらに遠ざけているみたいだった。 | |
う〜ん、あがめたてることは遠ざけることか。まあたしかに、あんなにミューズのように相手を理想化しちゃって大丈夫かなあとは思ったけど。 | |
で、がんばって遠ざけようとするけど、やっぱり最後にはルイーズを探しに行く。でも、ルイーズはなかなか見つからない。これがルイーズの賢いところ。 | |
いくら捜してもいなかったはずのルイーズが、ここぞってところで姿を現すところ? | |
そう、ルイーズがそういう女性だってことは、最初の出会いでもわかるでしょ。何ヶ月も前から主人公に狙いをつけ、もっともロマンティックで刺激的な出会いになるように 仕組んで、はじめて主人公の前に姿を現した。あそこでもう、これは計算のうまい女性だなと思ってたよ。 | |
ロマンティックな出会いのあと、いったんは主人公の胸に飛びこみ、主人公が逃げるとそこでは手綱をゆるめ、主人公が自分を求める気持ちが最高潮に達するまで待って、 それからまた一番ロマンティックなかたちで姿を現す、それはすべてルイーズが計算した演出だ、そう言いたいわけね。 | |
そうだよ。そうやって主人公をガッチリからめとったわけだ。頭を使って、逃げタイプの恋人争奪戦にみごと勝利したってことね。こういう縛られるのがいやで、自分の内側だけ見つめて生きてるような人を愛してしまったら、 ギャアギャアわめいたり騒いだりしたってダメよ。ルイーズのように一段高いところに立って、相手を掌の上に転がさなきゃ〜。 | |
うわ、それじゃあ、あなたはルイーズを、たとえば相手が浮気をしたら、「べつにいいわよ、あの人のもとに行って」なんて口では言っておきながら、裏で手をまわして自分の もとに引き戻しちゃうような、そういう計算タイプだと思ったんだ。 | |
それしか考えられないでしょう。まあ、これが正しい読み方だなんて、口が裂けても言えないけど(笑) | |
ゆがんだ邪道読みだよ〜、なんか下世話でオバチャンくさいし。ジャネット・ウィンターソンって感受性が豊かすぎるためか、 どこか青臭さというか、精神的なフレッシュさがいつまでも残ってるようなところのある作家さんだから、それに反応してオバチャンになってしまったんじゃない? 私は素直に読んだけどね(笑) | |