=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「小さきものたちの神」 アルンダティ・ロイ (インド)
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インド南西部のケララ州にアエメナムという屋敷があった。そこには、食品を扱うパラダイス・ピクルス社を 設立し、財をなしたが、今は盲目となった老婆ママチと、生涯独身の中年女性ベイビー、イギリスに留学していたが、 離婚して戻ってくるとパラダイス・ピクルス社を継いだママチの息子チャコ、それに離婚をして、二卵性双子の息子 エスタと娘ラヘルを連れて戻ってきたチャコの妹アムーが暮らしていた。そこに、チャコの前妻マーガレットが、 チャコの娘ソフィー・モルを連れて休暇に来た。二週間後、ソフィー・モルは亡くなった。ソフィー・モルの 死は一家に暗い影をのこした。23年後の今でも変わらない。1997年ブッカー賞受賞作品。 | |
あとがきによると、アルンダティ・ロイは、初めて書いた小説であるこの 作品がブッカー賞を受賞し、世界36ヶ国で翻訳出版され、アップダイクに「タイガー・ウッズ的デビュー」と言われた人だそうです。 | |
たしかに今までになかった小説だよね。この新鮮さは、たしかにブッカー賞受賞に値する。 | |
インド人が書いたインドの話だけど、切り口がイギリス文学的で今までにないタイプだし、 叙情的でありながら、暗いユーモアを含めた文章も目新しかったよね。 | |
独自の世界が完成されてたよね。この一冊で完全にアルンダティ・ワールドが完成されてるって気がした。 | |
ただ、問題は読んでると眠くなってくるってことなんだなあ(笑) | |
そうなのよね。「今」と「回想」が1:5ぐらいの割合で出てきて、しかも回想シーンは感傷的なムードが 漂いまくっちゃっててね。 | |
それよりねえ、どこに焦点あわせたらいいかわからないから、ボワワンと読んでしまって、それで眠くなってくるの。 解きあかしたい謎があるとか、この人はこの先どうなるんだろうとか、そういう感情移入の先があればいいんだけど。 | |
うん、感情移入する登場人物がいないよね。ただそこにいるって感じで、薄い壁の向こうの人たちを見ているみたいな、 肌で感じられない存在感だった。それで話がちぎれちぎれだからねえ、たしかにチト眠いわ(笑) | |
個性的な登場人物がそろってたんだけどね。まず、アエメナム屋敷の一家はみんな変わってておもしろかった。 | |
ママチなんて、本来私たちが好きなキャラだよね。盲目の女帝。 | |
引退した英帝国昆虫学者の夫を持ちながらも、女だてらにパラダイス・ピクルス社を設立し、財をなして、 暴力的な夫が亡くなって息子にあとを譲っても、影の権力者として君臨してて、しかも、差別されている人に優しい思いやりをみせるところもあったりしてね。 | |
あと、バイオリンを弾いたりするところもかっこよかった。アエメナムの一家はアメリカやイギリスに留学していた人たちが多くて、 ちょっとした地方のインテリ上流家庭って感じなのよね。 | |
息子のチャコはオックスフォード大学出のインテリで、いきなり古典文学の引用文を語りだしたりしちゃうのよね。 | |
だったら、おばさんのベイビーが一番すごいキャラだった。シェークスピアの話なんかしちゃうかと思えば、 ものすごく姑息で、妙に差別意識も残ってて。これが純愛を貫いた人なんだから、よけいに、わかるって気がした。片思いのなれの果てよ(笑) | |
差別といえば、「不可触民」っていう言葉を、この本で初めて見た。普通の人たちとはほんのわずかに肌が触れ合うことさえ許されず、 徹底して差別されてる人たちなのよね。 | |
で、不可触民でありながら手先が器用で頭も良い、有能な使用人の若者がこの一家に最初は愛され、それから愛されるがゆえに摩擦を引き起こしてしまうところに 悲劇が生まれるのよね。 | |
現代のインドの複雑さが、かいま見えたよね。 | |
共産党員で、労働者の権利を勝ちとろうと政治活動をしながらも、自分が食べていくためにブルジョア階級である一家に媚びるしかない印刷屋が居るんだけど、 その人も不可触民は平気で差別してて、なんだかな〜と思った。そういう状態なんだろうね。 | |
ただ、インドの人にかぎらず、そういうイビツな心の醜さって、どの人種の人間にもあるよね。 | |
アルンダティ・ロイって、そういう人の心の歪みをクローズアップして書き表すのがうまい作家さんだなと思った。それをまた子供の眼を通して描きだしてるから、よけいうまく感じる。 | |
それをまた、韻を踏ませたり、暗いユーモアをまじえて語っていくから凄い作家さんだよね。ただ…… | |
眠くなるのよね(笑) | |