すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「シティ・オヴ・グラス」 ポール・オースター (アメリカ)  <角川書店 文庫本> 【Amazon】
かつて何冊かの詩集を出し、戯曲や評論、翻訳などを手がけていたクィンは唐突に、そのすべてを投げ出した。 今のクィンは、ウィリアム・ウィルソンという名で一年に一作、5、6ヶ月かけて探偵もののシリーズ推理小説を 書き、あとの半年は友達もなく、ニューヨークの街をただぶらついて過ごしていた。ある深夜、クィンのもとに 電話がかかってきた。「ポール・オースターさんですか? オースター探偵事務所の」。それは明らかに間違い 電話だったが、クィンは偽って自分をポール・オースターだと名乗り、探偵調査の依頼を引き受けることにした。
にえ 内容の話の前に、スゴイ発見があるんですけど。
すみ スゴイ発見にはほど遠いから、発表してほしくないんですけど(笑)
にえ 文庫本の題名なんですが、カバーのね、表紙は「シティ・オヴ・グラス」って なってるのに、背表紙は「シテイ・オブ・グラス」になってるの。「イ」が大きくて、「ヴ」が「ブ」なの。で、 カバーを外して背を見ると、ちゃんと「シティ・オヴ・グラス」になってるの。びっくりでしょ?
すみ そういうのって発売当初にみんな気づいてて、とっくに話題になったりし てたと思うよ。出たばっかりの本でもないのに、そんな鬼の首を取ったみたいに(笑)
にえ え〜、でもでも、こういうのって気づくとウレシイじゃない。まだ気づい てない人もいるかもしれないから、教えてあげないと。
すみ それはともかく、この「シティ・オヴ・グラス」はニューヨーク三部作 の第一作めなんですが。
にえ おもしろかったよね〜。途中までは不思議な探偵小説?って感じで、 終わりに近づくにつれ、オースターらしい都会派幻想小説になってて。
すみ まず、主人公のクィンが探偵のポール・オースターに間違えられるって ところがふざけてておもしろい。
にえ 作家であるポール・オースターも登場して、奥さんの名前も本当の奥さん と同じシリになってたしね。実際には子供は一人娘のソフィーなのに、この小説では息子のダニエルって架空の 息子が出てくるけど。
すみ しかもこの本を書いたのは、ポール・オースターの友人ってことになってて、 その辺の設定は、この本のなかの「ドン・キホーテの冒険」についての記述と重なってて、それがまたこの本に 出てくるある本についての真実ともつながってて、と何層にもなってて、凝ってるの。
にえ で、クィンを探偵オースターだと思って仕事を依頼したのは、ヴァージニアと ピーター・スティルマンの金持ちな若夫婦。
すみ ピーターは子どもの頃、9年間も父親がアパートの一室に幽閉してたから、 13年経った今でも普通ではないの。
にえ とにかく一方的にしゃべるし、「哀れなピーター・スティルマン。それにバーン、バーン、バーン。」とか 「穴あけコツコツかけらがザクザク。歯車カチカチカチカチ。」とか、とにかく話しているあいだに変な擬音とか入ってて、 なんだコイツは?って感じなのよね。
すみ で、そのピーターから意味不明な説明を受けたあとで、クィンが言った言葉が「喜んでお手伝いする」でしょ。 うそ〜って叫びそうになったよ(笑)
にえ 普通はことわるよね。いくら探偵の真似事をしてみたくなったとしても。
すみ で、依頼は結局、そのピーターを9年間幽閉して折檻を続けていた父親が捕まって、精神病院に入れられてたんだけど、 とうとう退院してくることになって、ピーターを殺そうとするかもしれないから、監視していてほしいってことだったのよね。
にえ 子供を光を遮断した部屋に幽閉ときいて、すぐにフォイエルバッハ著「カスパー・ハウザー」を思い出して、これから アイデアをとったな、あとで紹介のときに書いてやる〜と思ったら、本のなかでしっかり記述されてたね、ガッカリ(笑)
すみ ポール・オースターさんは、あなたのようなお調子者が現れることぐらいはお見通しでしょ(笑)
にえ で、クィンは退院してきたピーター・スティルマンの父親を尾行しはじめるんだけど。父親もかなり変なやつだったよね。
すみ 例によって例のごとくで、なんだか長い時間にわたって徒労のような日々が続いていき、少しずつ現実から外れていき、とオースターの小説らしい展開。途中で謎解きとかあって、推理小説風になってるところがおもしろかったよね。
にえ ラストは凄いことになっちゃうのよね。なんかポール・オースターの紹介をすると、かならずこのセリフを言っているような(笑) でも、ほんとポール・オースターの小説のラスト、けっこう怖いです。
すみ クィンという人物についても、捜査についても、謎がいっぱい残ったよね。悪夢のような都市伝説の雰囲気で、かなり好きな感じだった。
にえ 薄めだし、文庫本になってるし、しかも内容は濃くてストーリーにメリハリがあって。オースターが初めてなら、これから読んで正解じゃないかな。
※あとからわかったことなので追記します。ダニエル君というのは実在の人物で、ポール・オースターと前妻のあいだにできた息子さんなのだそうです。(情報提供KTさん、感謝)