すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「千年医師物語U シャーマンの教え」 上・下  ノア・ゴードン (アメリカ)
                                <角川書店 文庫本> 【Amazon】 〈上〉 〈下〉

エジンバラで、優秀な医者一族コール家の一員だったロブ・J・コールは、弱い労働者の立場を護ろうと一冊の小冊子を書いたがために労働争議を巻き起こしてしまった。 いく人かが殺され、ロブ・J自身もオ−ストラリアに流刑されそうになってスコットランドを離れるしかなくなった。アメリカにたどりついたロブ・Jは新しい開拓地で医者としての 新たな生活をはじめた。そこにはソーク族という土地を追われたインディアンたちがひそかに暮らしている土地でもあった。
にえ 三部作である千年医師物語の第二部です。千年医師物語は、代々医者となって跡を継ぐ長男にロブ・J・コールという名前をつける一家の千年の物語。
すみ といっても、第一部「ペルシアの彼方へ」は11世紀初頭の物語、この本は、19世紀初頭のアメリカが舞台の物語。べつにつながってる話じゃないから、こっちからさきに読んでもまったく問題なし、です。
にえ ロブ・J・コールは患者の手を握っただけで、その人の生命力がどのくらいかわかる能力があるんだけど、それについては謎の遺伝だとしか説明されてないの。それは第一部でも同じことで、べつに第一部から読まなかったからわからないんだ〜と思わなくていいので、ご安心を。
すみ で、この第二部のできですが、良かったよね〜。三部作っていうと、第二部、第三部のできがだんだん落ちていくんじゃないかって懸念があるけど、心配ご無用。さらに良い出来だったよね!
にえ 第一部「ペルシアの彼方へ」でも、医学はもちろん、その時代のこととか、イスラム教国で暮らすユダヤ人の話とか、とにかく作者の知識の豊富さに驚かされたけど、この本でさらに、というか二倍も三倍も驚いちゃったよね。
すみ アメリカの開拓時代については、土地を分けるやりかた、安定しない政府、自分たちの土地を追われるインディアンの深刻な問題と、インディアン独特の風習、入り乱れる宗教、などなどこの一冊で教科書いらずだよね。こんなにも活き活きと、当時のことを語れるなんてスゴイ。
にえ 何もなかった土地が少しずつ発展していき、人が暮らす町になっていく過程にワクワクさせられたよね。
すみ それから、教育についての考えさせられる記述あり、黒人問題あり、で、南北戦争で引き裂かれる人間関係。よくぞここまでって感じだったよね。
にえ 医学の知識も相変わらず素晴らしくて、はじめて使われるエーテル麻酔の話とか、天然痘の予防接種のはしりとか、医学の知識なんてまるでない私たちでも夢中になれる上手な語り口でいっぱい出てきた。
すみ この話はスコットランドからアメリカに渡ってきたロブ・J・コールと、その息子で、耳が聴こえないという障害を持ちながらも、医者になるロブ・J・コール二代のお話。
にえ 父の死を知って、故郷に戻ってくる息子ロブ・Jから話ははじまるのよね。
すみ 父親のロブ・Jはマクワ・イクワというインディアンで、ソーク族のシャーマンだった女性を助手として雇っていたのだけれど、マクワ・イクワは数年前にだれかに殺されてしまっているの。父親はとうとう犯人を見つけだすことが出来なかったから、息子のロブ・Jはその捜査を引き継ぐことになります。
にえ で、父親の日記を見つけるのよね。そこには父がスコットランドから移住してきて、さまざまな人と出会い、イリノイ州に落ち着いて羊牧場を営みながらの医者となり、ソーク族の人々と交流した話など、これまでの足跡がぜんぶ書かれてるの。
すみ 父ロブ・Jは徹底的に暴力に反対し、宗教を受けつけず、迷いながらも強い意志をもって自分の信じる道を突き進んできた人なのよね。
にえ そこで産まれてきた息子ロブ・Jが耳が聴こえないことがわかり、手話も一般的じゃないし、聾唖学校もない時代に息子を育てていく姿は、そのまま障害児教育の歴史でもあるよね。
すみ 耳の聴こえないロブ・Jがピアノを使って音の高低を学んでいくところなんて、わ〜、よくこういうことをここまでリアルに描写できるなって、もうゾクゾクものだった。
にえ それから息子ロブ・Jに話が移ってからは、障害をものともせずに医学の道を進んでいくロブ・Jが描かれてるのよね。
すみ 最初は否定的だったのに彼を理解して認めるようになる教授陣の話もよかったし、母親の連れ子だった性格の違う兄との確執と、ふたたび強く結びついていく様もよかったよね。それに、年上のユダヤ人少女との幼い頃からの長い愛の話まで加わって。
にえ あとね、家族なのにうまく心が通じ合えなかったり、親しい友人なのにわかりあえない点があったり、長年信頼しあっている雇用人に隠された一面があったり、人間関係だけをとりあげても、深い、深い。
すみ 全体としては、話の内容は違っても、スタインベックの「エデンの東」とかなり雰囲気が似ていたと思わない?
にえ 作者自身も意識してるのかなって感じはあったよね。ただ、出来からいうと「エデンの東」を超えてるって言ってもいいかもしれない。
すみ 現代人にあわせた、読みやすいテンポのよさもあるしね。長い話のようでひとつひとつのシーンには長くとどまらず展開が早いから、かなり読みやすいよね。世界中ですごい売り上げをあげてるのもわかる。この本なら当然でしょ。
にえ 衝撃の真実に驚く場面も多かったし、読み物としてまずおもしろい。そして、書いてあることがなにをとっても素晴らしい。不朽の名作として未来に残っていく作品でしょ。この本を読んで、満足しなかったとは言わせない(笑)