すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「X.」 上・下   トマス・ピンチョン (アメリカ)   <国書刊行会 単行本> 【Amazon】 (1) (2)
1955年、バージニア州ノーフォークで、ダメ男のベニー・プロフェインは海軍兵で、外出となればこれといってすることもなく、 海岸を行ったり来たりするだけの、ヨーヨー運動を繰り返していた。同じ海軍兵パピー・ホッドを夫にもつ美人妻のパオラは、なんとなくプロフェインに気がある様子。 そんなある日、昔なじみのレイチェルがニューヨークに出てこいというので、プロフェインは海兵をやめ、バスでニューヨークへ。 パオラも一緒に行くことになった。二人はニューヨークに着く前に別れることにした。プロフェインはパオラに、レイチェルのもとへ行けという。 プロフェインはニューヨークで地下鉄に乗り、またまた行ったり来たりのヨーヨー運動。そこで三人組の少年と知り合ったことがもとで、ニューヨークの下水道 に生息するワニ狩りをすることになった。一方、パオラはレイチェルのもとで、もう一人エスターという女性と三人で共同暮らしをすることになった。レイチェルのアパートの新しい住人ステンシルは、 父親の日記で知った謎の女性X.を追い求めていた。
にえ これはスンゴイ小説だったよね。おもしろかった。ラストが圧巻、鳥肌もの〜。
すみ でも、私はこれを読むために、メモ帳一冊使い切ってしまったよ(笑)
にえ そうなの、意外と話の筋はややこしくないんだけど、とにかく登場人物が多くって、 あとから、じつは私はあの時の誰それです、なんてことになるから、片っ端からメモしておくしかなかった。
すみ 登場人物の名前、その人のしたこと、きっちりメモしておかないと、あとで戻って読み かえさなきゃいけなくなると思う。メモは、たとえ彼女の祖母の名前は○○だった、みたいな簡単な著述でも、もれなくメモしておいたほうがいいよ。
にえ で、話なんですが、これは二つに分かれてるの。1950年代の現在と、19世紀後半から20世紀初頭にかけて の過去、これが激しく交差するから、振り落とされないように(笑)
すみ 現在の話は、プロフェインの海軍仲間、ニューヨークでの仲間たちの話から、パオラ、レイチェ ル、エスターの三人の女性の周辺の人々の話。これは途中からつながっていくんだけど、こっちはメモしていけば、それほど難しい話じゃないと思う。
にえ プロフェインはいかにもピンチョンの好きそうなキャラだよね〜。子供がそのまま大きくなって、戸惑ってうまく社会に 馴染めないような、エネルギー持て余してるような、そういう可愛いダメ人間。
すみ で、過去のほうがちょっとわかってくるまで、ややこしいかもね。
にえ 今まで読んだピンチョンの小説もそうだったけど、とにかくなんだかわからないまま読んでいくと、最後のほうになって、 ああそうだったのかとわかるような仕組みだから、途中までのわからなさ加減を楽しめないとキツイかも。
すみ ようするに、名前の頭に「V」のつく、さまざまな謎の女性が現れる過去の話が散りばめられていて、最初はなん でこの話が関係あるの?と思ってても、読んでいくと、とつぜんのように謎の女性Vが出てくるから、これはもうお楽しみ。
にえ 冒頭のほうで、わからな〜いって放り出しちゃった人の多くは、ヴィクトリアって女性の移動シーンがネックだと思うんだけど。
すみ ヴィクトリアはアラステア・レン卿の娘で、グッドフェローって男と恋に破れ、放浪生活へと突入するんだけど。
にえ その移動するシーンが、いろんな目撃した人の話でつづられていて、そこがちょっと凄まじいというか(笑)
すみ アレキサンドリア-カイロ間の汽車の機関手ウォルドター、カイロの運転手ゲブレイル、ビアホールのウェイトレスなどなど、 ちょっとした目撃者なのに、人生まできっちり書かれてるから、このへんの人はとりあえず書いてあることは楽しませていただいた上で、主要人物じゃないとはっきりはじいておかないと、ちょっと混乱してしまうかも。あくまで、彼らが見たわずかな事実が重要。
にえ それから進んでいくと、ウフィツィ美術館のボッティチェリ「ヴィーナス誕生」をぬすむ盗賊たちの話、戦時中にフォルプ屋敷ってと ころで隠れながら、通信をつづけるモンダウゲンの話、ファウスト・メイストラル一世〜四世の話など、とにかくこれがなんの関係があるの?って話が次々出てきます。
すみ これはねえ、最後のほうにドキッとするような著述がなにげなく書かれていたり、ずっとあとにつながりがわかってから、おおってなった りするから、気を抜かずに、でもムリムリ理解しようとせずに肩の力を抜いて読んでいけば良いと思うよ。
にえ とにかく、最初に読んでいって全部理解しようとしないほうが良いと思う。
すみ そういう読み方をしてしまうと、ああ、もうわかんないって投げ出しちゃいそうだよね。とりあえず、与えられた話をてきとうに楽しんで、きっちりメモだけしておいて最後まで読めば、おもしろさがわかるのでは?
にえ で、過去のほうはカイロ、フィレンツェ、ドイツ領南西アフリカ、パリ、マジョルカ島、マルタ島、などなど世界のあちこちに謎の女Vが姿形を変えて現れながら、 重要な歴史にからんでいくという、壮大で、ドキドキものの物語です。おもしろいよ〜。
すみ あとさあ、謎の土地ヴェイシューについてなのだけど、これはどこだったのでしょう。ヴェネズエラなのか、ヴェスヴィオス火山なのかって説も出てたけど。
にえ 私が推理するに、この本ぜんたいで、3って数にものすごくこだわってるでしょ。人が現れるとかならずといっていいほど三人組だし、例に挙げるときもたとえば、マラカス、ク ラベス、ティンパニーとか、アイゼンハワー、マレンコフ、フルシチョフとか、かならず3つで出してくる。
すみ うん、やたら3だったよね。「X」なら「5」でいいじゃん、と思ったけど。
にえ Vは3つの点に線をひいて出来る文字でしょ。だから、ポイントとなってた地名のマルタのヴァレッタと南極、それとヴェイシューであるべき場所を線で結べばVになるんじゃないかなと思ったんだけど。
すみ あ、Vの一番下の点が南極ってわけね。う〜ん、ちょっと考えすぎというか、短絡的じゃないか、その推理は(笑)
にえ じゃあ、「V.」の「.」のところを探せばいいのかな(笑)。皆様はいかがお考えでしょ〜。