=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「世界が生まれた朝に」 エマニュエル・ドンガラ (コンゴ)
<小学館 単行本> 【Amazon】
コンゴの小さな村に、青緑色の目をした赤ん坊が生まれた。そんな色の目をみたこともない村人たちは、 不吉な子供だと忌み嫌った。しかし村の長老ルケニは、赤ん坊をマンクンクと名付け、かつて同じ目の色を した偉大な祖先がおり、その祖先は世界のすべてを見透かすことができた、マンクンクもまた村の誇りと なるであろうと予言した。ブラックアフリカ文学大賞作品。 | |
作家さんはコンゴ出身で、アメリカに渡って物理学博士となり、 ふたたびコンゴに戻って大学教授となり、しかも小説も書くし、コンゴで最も有名な劇団の主宰者でもあるという多才な方だそうです。 | |
大変な親日家でもあるそうだよね。この小説も、東京で書き上げられたそうだし。 | |
そういうアフリカにとどまらず世界を股にかけてる作家さん だからだろうね、この小説も、過去のアフリカを描き、文字も書けない男を主人公にしているわりには、 とても洗練された雰囲気があった。 | |
ドンガラさんはガルシア=マルケス『百年の孤独』 にインスピレーションを得て書いたそうで、「アフリカの百年の孤独」と言われてるそうだけど、あの濃さ、 わかりづらさはなかったよね、もっとすっきりまとまっていた。 | |
舞台をアフリカにしただけの真似っこ小説ではなかった。 まったく別の訴えかけたいものがあり、別の確立した世界観があり。 | |
うん、長い年月をひとつの小説のなかに閉じ込めてるっていう 共通点はあるけどね。そのために、『百年の孤独』の半分にも満たない長さなんだけど、この本も読んだあ とに負けず劣らずの充実感はあったよ。 | |
この小説は、マンクンクという一人の男の目を通して、コンゴ、 というかアフリカの近代史を知ることができるようになってるの。 | |
マンクンクのコンゴ人民共和国といえば、フランスの植民地と なり、それから苦労して独立した国。 | |
ちなみに旧ベルギー領だったコンゴ民主共和国は、現在では ザイール共和国となっています。 | |
あの時代の植民地だから、そりゃもうひどいものだよね。奴隷 として連れ去られたり、国に残っても人間以下の扱いを受け、過酷な労働を押しつけられたり、簡単に殺さ れていったり、挙げ句の果てには自分たちには関係のない戦争に兵士としてかりだされ。アフリカにとって は、つらい、過酷な時代。そこから革命が繰り返され、独立へと進んでいくの。 | |
でも、この小説は恨み節でもなければ、単なる苦労話でもない のよね。 | |
そこがすごく新鮮だったし、感動したところ。 | |
マンクンクは、まず自分たちが変わっていかなきゃって考える 人だったし、反省したり、後悔したり、迷いながら前に進んでいく人だったからね。 | |
マンクンクという生き方を模索する男の人生が、くっきり と浮き彫りにされてたから、単なるアフリカの近代史小説って枠には収まってはいなかった。 | |
アフリカの近代史にあまり興味がなくても、すごく 考えさせられるし、楽しめる小説だと思うよ。 | |
マンクンクは《力》と《反─力》について考えたり、物の向こ うには何があるのかという問題を常に考えていたりして、ちょっと哲学的な人でもあったしね。 | |
マンクンクは最初、文明というものがまったく届いていない ような村にいたでしょ。そのときからもう、のほほんと暮らしている他の人とは違って、多くの疑問を抱 いてるの。 | |
みんな、先祖が残したものを護っていくだけで、新しい ものを学ぼうとしない、それでいいんだろうかってね。それはアフリカが簡単に植民地にされてしまうよう な文化しか持っていなかったんじゃないかという問題提起にもなってたよね。 | |
それでマンクンクは、自分なりに新しい薬草を見つけ、新しい 効能を発見したりとか、どんどん自分なりに道を開拓していくの。 | |
それを批判的に見る村人たち、あたたかく見守る長老ルケニ。 ルケニはマンクンクの唯一の理解者なのよね。 | |
そこにいきなり異人がやってきて、マンマンクたちの生活は がらりと変わってしまう。 | |
マンマンクは、私だったら一生恨むだけで過ごしてしまうよう な、ひどい目に遭わされるのよね。それでも、都会に行き、異人たちの優れたところは学ぼうとしていくの。 | |
マンマンクは自分たちの悪いところも批判するし、もちろん 異人たちの悪いところも激しく批判するけど、元に戻るって発想はないんだよね。常に前に向かって進 んでいこうとするから、学び取れるところはどんどん学んでいこうって考えるの。 | |
それからマンマンクはコンゴの歴史の表舞台に立ち、消え去 るかと思うと、また注目され、民衆を扇動していくことになり。まさに波瀾万丈の人生。 | |
重い話ばかりじゃなくて、はじめて蓄音機を見た人々の話と か、路上の写真やさんの話とか、鉄道初期の頃の人々の熱狂ぶりとか、そういう楽しめるところも多かった よね。 | |
神の啓示を受けて立ち上がった女革命家なんかも現れたし、 独特の宗教観なんかも紹介されてたし、知らないことばかりで楽しめる部分は多かった。 | |
最後にマンマンクが得たものはなにか。コンゴは本当に変わ ったのか。考えさせられるラストだったよね〜。オススメです。 | |