=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「競売ナンバー49の叫び」 トマス・ピンチョン (アメリカ)
<筑摩書房 単行本> 【Amazon】
<競売ナンバー49の叫び>ラジオDJムーチョの妻であるエディパは、ホーム・ パーティーから帰ってくると、不思議な手紙を受けとった。かつての恋人であり、カリフォルニア州不動 産業界の大立てものであるピアス・インヴェラティが亡くなり、エディパを遺言執行人に指名していると いう。ピアスとは長く連絡も途絶え、エディパにとっては完全に過去の人だった。おかしな話だと思いな がらも、精神科医のすすめもあって、ピアスの住んでいたサン・ナルシソ市に向かったエディパだが、 そこに待っていたのは、手紙をくれたハンサムな弁護士メッガーと、ピアスの遺産のひとつである偽造切手 に関する謎だった。 <殺すも生かすもウィーンでは>ユダヤ人青年シーゲルはレイチェルに誘われた パーティーに出掛けた。ところが、パーティー会場でレイチェルに電話をすると、レイチェルはは行けな くなったと言う。まったく知り合いのいないパーティーで、シーゲルは不思議な人々と会話をすることに。 ピンチョンが『スロー・ラーナー』に入れなかった大学時代の作品。 | |
「競売ナンバー49の叫び」については、まず最初に言ってお きたいことが。もし、これが最初に読むピンチョンだとしたら、最初のほうがわけわからないと思います。 | |
なにが起きてるかはわかるし、難しいことが書いてるわけじ ゃないから、文章は理解できるのよね。ただ、この小説が進む方向がわからなくて、戸惑っちゃうの。 | |
わからないまま読んでいってください。そのうちに見えてき ます。見えてくると、そこから一気におもしろくなります。 | |
3分の1ぐらいまで読んじゃえば、あとはなるほど!って感じ で、スルスル読めるようになるよね。おもしろい小説だから、その前に放り出さないでほしいな。 | |
そこまでは、登場人物とか、ちょこちょこメモしながら読めば いいんじゃないかしら。気も紛れるし、あとで謎が解けはじめたときに戻ったりしなくてすむから。 | |
で、どういう内容の小説かというと、歴史ミステリーと、悪夢 のようなダーク・ファンタジーを合わせたような感じです。 | |
エディパがピアスの遺した偽造切手から出会うことになるの は、<トライステロ・システム>っていう民間郵便配達組織の謎なの。 | |
<トライストロ・システム>は、そもそも大昔のヨーロッパで、 テュールン・タクシス家の郵便制度に反抗して、トライストロが独自にはじめた郵便配達のシステムで、 それが1853年にアメリカに渡ってきて、以降はアメリカ政府の郵便制度に抵抗し、秘密裡に続けられて いるらしい、謎の郵便集団なのよね。 | |
まずエディパは、政府発行の正式な切手を巧みに偽造して、 おかしな絵柄と、意味のわからない透かしの入った切手を発見し、ピアスの事業のひとつである煙草会社の 煙草のフィルターに人骨の炭が入っていることを知り、謎を解きたくなってきます。 | |
それから『急使の悲劇』っていう、どうやらヨーロッパの トライストロ・システムを扱ったらしき芝居を見て、女子トイレで不思議な図柄と謎のメッセージを発見 し、そこからどんどん謎にはまっていくのよね。 | |
古い文献を調べたり、謎の人物を追ったり、それだけだと、 けっこう純粋な歴史ミステリなんだけど。 | |
そこにわざわざ自分から近寄ってきて、エディパにトライステ ロの謎を告げる人が大勢出てきて、その中から死者まで出たりして、どんどんエディパは迷宮に深入りして いってしまうの。 | |
だんだんとエディパがトライステロを追っているのか、罠には められて翻弄されているのか、わからなくなっていくのよね。 | |
前置きもなく、いきなり新たな人物が現れたり、事が起こった りするから、読むだけ読んであとから理解すればいいってかんじで、どんどん進んでしまえば、それほど 難解ってこともなく、楽しめる小説でしたよ。 | |
この頭をかき回される感じは、最近読んだ本だとイタロ・カル ヴィーノの「冬の夜ひとりの旅人が」とか、ジョン・ファウルズの「魔術師」あたりに近かったな。 | |
それにヨーロッパを舞台にした歴史ミステリの味わいが絡んで くる感じだよね。おもしろかった。 | |
正しい読み方かどうかわからないけど、あんまり肩に力を入れ て一行ずつ確実に理解していこうとか考えず、あとからだんだんわかってくればいいや〜って気軽に読めば いいと思うよ。 | |
まだ3冊めだから確かなことは言えないけど、ピンチョンって 難しい小説を書いて読者を困らせようとする作家さんじゃないよね。楽しませようとして過剰にサービスし てくる作家さんのような気がする。読者を置き去りにしようとしてるわけじゃないから、それを信じてつい ていけばいいんじゃないかな。 | |
あとからわかってくるって感じで書いてあるから、あまりにも ピンチョンは難しいって先入観を持ちすぎてると、やっぱり難しいって途中で放り出しちゃうみたい。もっ たいな〜い。 | |
で、おまけでついてる「殺すも生かすもウィーンでは」ですが、 これはピンチョンが「スロー・ラーナー」のなかの「エントロピー」に設定が似すぎてて入れなかった初期 作品を、出版社の意向で日本読者に向けて、サービスで入れた短編だそうです。 | |
翻訳者さんは申し訳なさそうだったよね、ピンチョンに悪いな 〜と思いながら足したみたい。翻訳の志村正雄さん、とっても誠実な方。文章も柔らかで読みやすいし。 | |
私は「エントロピー」よりこっちの方がこざっぱりして て好きだったな。 | |
翻訳者さんで思い出したけど、「競売ナンバー49の叫び」は もともと、寺山修司さんが翻訳してたのに、寺山さんが途中でお亡くなりになって、志村さんの手に移った のだとか。そういうのって感慨深いものがあるよね。 | |