すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「可視の闇」 ウィリアム・ゴールディング (イギリス)  <開文社出版 単行本> 【Amazon】
ロンドン大空襲の業火のなか、一人の子供が歩み出てきた。どうして死なずにすんだのか、どこの誰 なのか、なにもわからないまま収容されたその子供は、半身が火傷に覆われ、髪の毛も半分がなくなって いた。やがてその子供はマティと名づけられ、孤児の学校に進学することになった。
にえ 私たちにとって3冊めのゴールディングです。「通過儀礼」がちょっとピンと来なかったから、どうしようかと思ったけど、これはおもしろかったよね!
すみ でも、人には勧めづらい本だよね〜。
にえ うん、ゴールディングの謎の小説、問題小説と言われている みたいだけど、まさにその通り。表向きのストーリーはわかりやすいんだけど、裏に秘められた意味が 掴みづらくて、その掴みづらさがなんとも私にはおもしろかった。
すみ まあ、他の作品については多くを語ったゴールディングだけど、 この本に関しては亡くなるまで沈黙を守ったそうだから、そういう掴みづらさもこの本の魅力なのかもね。
にえ 内容としては、三部に分かれてるのよね。
すみ 第一部は「マティ」。高潔な人格と高い知能、愛されたいとい う願いを抱きながらも、醜い外見で人々に嫌われつづける少年が成長していく物語。
にえ 美しい容姿なら賞賛されるはずの性格や知能も、醜いばかりに かえって嫌悪感を抱かれるのよね。
すみ 最初に入った学校では、愛されたいと願ったペディグリー先生 に憎まれて事件が起こり、それからオーストラリアに旅立って、さまざまな出会いと職業を経ていくけど、 やっぱり道のりは困難。
にえ ペディグリーってのも重要人物の一人なのよね。少年を愛し、 お気に入りの美少年を前の席から順番に並べていき、隠そうともせず寵愛する、イビツな精神を持った男。
すみ 第二部は「ソーフィ」。若さ、美しさ、知性のすべてがあり ながらも、愛を知らず、悪へ悪へと突き進んでいく女の子。
にえ 窃盗でも、売春でも、なんでもありなのよね。べつに貧しい わけでもないのに、どうしてもそういう闇に心が惹かれていっちゃうみたい。
すみ 二卵性の双子の姉がいるんだけど、母親が男と逃げ、チェスの プロである父親には愛されず、二人とも歪みまくって成長していくのよね。
にえ 二人の子供時代の話は、ちょっとアゴタ・クリストフの「悪童 日記」を連想しちゃったな。
すみ でも、父親の愛を求めるソーフィの悲しい気持ちも、チラチラ と見えてたよね。
にえ 大人になってからも、どんどん悪いほうに自分からはまって っちゃう。男をたぶらかし、利用するけど、最悪な男に流れ着き、そしてとうとう、とんでもない犯罪計画 をたてはじめるの。
すみ 第一部、第二部でも、マティとソーフィの運命は、近づいたり 離れたりしてるんだけど、第三部「一はひとり」では、ついに完全に絡み合い、とんでもないことが起こ ります。
にえ 最初、一部から三部までの題名を見たとき、あ、これはもしか して、最後には悪のソーフィが善のマティに出会って改心するってことになるのかな、なんて思ったけど、 ぜんぜん違ってた(笑)
すみ ノーベル賞作家が、あなたのような浅知恵どおりの小説なんか 書くはずないでしょ(笑)
にえ まあそういう、暗黒ながらも興味深い話のなかで、教えてもら わなきゃ気づかないようなレベルで、なにげなく旧約聖書が引用されてたり、なにやら象徴を匂わす数字が 繰り返し出てきたり。
すみ 匂わせまくるよね(笑)
にえ ストーリーじたいも、同じ登場人物が消えたかと思うとまた 違う場面で現れたり、象徴的な出来事がもう一度別の形で繰り返されたり、とにかく深読みしたくなるお もしろさがあった。
すみ 心霊現象のような話もたくさん出てきたよね。あれがなんなの かも理解しきれてないな〜。
にえ ぜんぶひっくるめて、起伏と緊張感があっておもしろいストー リーながらも、謎の多い問題小説。ノーベル賞作家の差し出す謎を受けとりたければ読むべしっ。