=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「可視の闇」 ウィリアム・ゴールディング (イギリス)
<開文社出版 単行本> 【Amazon】
ロンドン大空襲の業火のなか、一人の子供が歩み出てきた。どうして死なずにすんだのか、どこの誰 なのか、なにもわからないまま収容されたその子供は、半身が火傷に覆われ、髪の毛も半分がなくなって いた。やがてその子供はマティと名づけられ、孤児の学校に進学することになった。 | |
私たちにとって3冊めのゴールディングです。「通過儀礼」がちょっとピンと来なかったから、どうしようかと思ったけど、これはおもしろかったよね! | |
でも、人には勧めづらい本だよね〜。 | |
うん、ゴールディングの謎の小説、問題小説と言われている みたいだけど、まさにその通り。表向きのストーリーはわかりやすいんだけど、裏に秘められた意味が 掴みづらくて、その掴みづらさがなんとも私にはおもしろかった。 | |
まあ、他の作品については多くを語ったゴールディングだけど、 この本に関しては亡くなるまで沈黙を守ったそうだから、そういう掴みづらさもこの本の魅力なのかもね。 | |
内容としては、三部に分かれてるのよね。 | |
第一部は「マティ」。高潔な人格と高い知能、愛されたいとい う願いを抱きながらも、醜い外見で人々に嫌われつづける少年が成長していく物語。 | |
美しい容姿なら賞賛されるはずの性格や知能も、醜いばかりに かえって嫌悪感を抱かれるのよね。 | |
最初に入った学校では、愛されたいと願ったペディグリー先生 に憎まれて事件が起こり、それからオーストラリアに旅立って、さまざまな出会いと職業を経ていくけど、 やっぱり道のりは困難。 | |
ペディグリーってのも重要人物の一人なのよね。少年を愛し、 お気に入りの美少年を前の席から順番に並べていき、隠そうともせず寵愛する、イビツな精神を持った男。 | |
第二部は「ソーフィ」。若さ、美しさ、知性のすべてがあり ながらも、愛を知らず、悪へ悪へと突き進んでいく女の子。 | |
窃盗でも、売春でも、なんでもありなのよね。べつに貧しい わけでもないのに、どうしてもそういう闇に心が惹かれていっちゃうみたい。 | |
二卵性の双子の姉がいるんだけど、母親が男と逃げ、チェスの プロである父親には愛されず、二人とも歪みまくって成長していくのよね。 | |
二人の子供時代の話は、ちょっとアゴタ・クリストフの「悪童 日記」を連想しちゃったな。 | |
でも、父親の愛を求めるソーフィの悲しい気持ちも、チラチラ と見えてたよね。 | |
大人になってからも、どんどん悪いほうに自分からはまって っちゃう。男をたぶらかし、利用するけど、最悪な男に流れ着き、そしてとうとう、とんでもない犯罪計画 をたてはじめるの。 | |
第一部、第二部でも、マティとソーフィの運命は、近づいたり 離れたりしてるんだけど、第三部「一はひとり」では、ついに完全に絡み合い、とんでもないことが起こ ります。 | |
最初、一部から三部までの題名を見たとき、あ、これはもしか して、最後には悪のソーフィが善のマティに出会って改心するってことになるのかな、なんて思ったけど、 ぜんぜん違ってた(笑) | |
ノーベル賞作家が、あなたのような浅知恵どおりの小説なんか 書くはずないでしょ(笑) | |
まあそういう、暗黒ながらも興味深い話のなかで、教えてもら わなきゃ気づかないようなレベルで、なにげなく旧約聖書が引用されてたり、なにやら象徴を匂わす数字が 繰り返し出てきたり。 | |
匂わせまくるよね(笑) | |
ストーリーじたいも、同じ登場人物が消えたかと思うとまた 違う場面で現れたり、象徴的な出来事がもう一度別の形で繰り返されたり、とにかく深読みしたくなるお もしろさがあった。 | |
心霊現象のような話もたくさん出てきたよね。あれがなんなの かも理解しきれてないな〜。 | |
ぜんぶひっくるめて、起伏と緊張感があっておもしろいストー リーながらも、謎の多い問題小説。ノーベル賞作家の差し出す謎を受けとりたければ読むべしっ。 | |