すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「叶えられた祈り」 トルーマン・カポーティ (アメリカ)  <新潮社 単行本→文庫本> 【Amazon】
孤児院出身のP.B.ジョーンズは作家志望。ニューヨークに行くと、やや小柄ながらも恵まれた自分の容姿を利用して、上流社会に寄生する存在となった。金に倦み、退廃した生活を送る彼らの生態を、冷めた目で見つめるジョーンズ。
にえ これはまいった。自分が趣味で読むぶんには構わないけど、読書サイトでこの作品だけを取り上げて紹介するってことに無理があるような気がする。
すみ 未完なのよね。カポーティの遺作。しかも、これを書くことで作家生命がたたれたような問題作でもある。
にえ とりあえず、最初の3章だけが収録されているんだけど、起承転結で言うと、起と承だけ、転と結がないのよね。
すみ まあ、それぞれの章が独立した短編のようになってるから、これはこれで読めるけどね。
にえ でもさ、やっぱり、P.D.ジョーンズにとっては放浪の旅の途中で終ってるし、最初の章の書き出しからして、最後にその答えがあるべきだっていう思いが読後に残る。
すみ まあ、基本的にはカポーティを好きな人が、彼の遺作を読みたいって意志で読む本よね、あくまでも。
にえ ただのゴシップ小説として読むなら、話は別だけどね。
すみ うん、ファンには叱られちゃうかもしれないけど、有名人がテンコモリで、その有名人たちの裏話だけで、ちょっとニンマリしちゃう。
にえ カーソン・マッカラーズやヘミングウェイ、サリンジャー、コクトーなんて名前がさりげなくポンポン出てくるよね。
すみ それに世界的に知られたお金持ち、ジャクリーン・ケネディーまで出てくるし、枚挙のいとまもありません。
にえ そういう有名な人たちの実際に言ったことやしたこと、噂になっていることなどを思いっきり書いちゃってるから、カポーティは社会的に抹殺されるような立場に追い込まれたのよね。
すみ ちなみに、ストーリーのなかでは、P.D.ジェームスが男相手、女相手の男娼として、ヒモ的な立場として、彼らをかいま見、噂話を聞くということになってるから、書いてあることはたしかに露骨で、人に知られたくないようなことばかり。怒る人の気持ちもわかります。
にえ ただね、そういうゴシップ興味を抜きにして読むと、カポーティの描こうとした彼らの姿が少し見えてくる。
すみ たしかに。リストアップされたような彼らの人生には、どこは共通点があるよね。
にえ 貧乏な低階級から成り上がった人たち、生まれついての上流階級、みんな何か、いつ自殺しても不思議じゃないような危うさとか、虚しさを引きずってる感じがした。
すみ 退廃の匂いが色濃く漂ってるよね。
にえ なにかが欠けてるのよね。
すみ 語り部であるジョーンズ自身も、どこか欠けている虚しさを漂わせてるよね。
にえ だからこそ、最後まで読んでみたかった〜。これだけでも、じゅうぶん感じさせるものはあったし、退廃ムードにもすごく心を惹かれたけど、やっぱりもう少し先まで読んで、カポーティの書きたかったことをちゃんとした形で知りたかった。
すみ 未完の遺作を読むと、いつもそのジレンマに陥っちゃうよね。
にえ この本は特に、書き出し部分の1ページめが、ほんとに、ほんとに美しい。それだけに残念。
すみ というわけで、カポーティに興味がある方はどうぞ。
にえ 巻末にアメリカの編集者から、それに日本人の解説、とこの作品が書かれる前後の経緯などが詳しく書かれています。かなり、考えさせられるものがあると思いますよ。