=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「貴婦人として死す」 カーター・ディクスン (アメリカ→イギリス)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】
第二次世界大戦突入直前のイギリスの田舎町に、リタ・ウェインライトという美貌の女性がいた。38 歳で女盛り、二十歳年上の夫である老数学教授アレックは、やさしいがおとなしく、リタには物足りない男 だった。そこに現れたのが、アメリカから来た若い俳優バリー・サリヴァン。リタとバリーはすぐに恋に落 ち、田舎町ではリタとバリーが邪魔なアレックを殺そうとしているという、まことしやかな噂が流れた。 そんなある夜、老医師リュークはアレックの屋敷に招かれた。アレック、リタ、バリー、リュークの四人で、 ゲームでもして楽しい夜を過ごそうという。ところが、アレックが日課のラジオを聴いているとき、 リタとバリーは屋敷を出ていき、探しに行ったリュークは二人が裏の海に心中したらしき形跡を見つける。 あわてて警察に報せようとするが電話線は切られ、自動車のガソリンは抜かれていた。心中事件として処理さ れそうなところ、一人、他殺を訴えるリューク。そこにヘンリー・メルヴェール卿が登場する。 | |
私たちにとって4冊めのカーです。この作品は調べてみたと ころ、カー作品のなかで好きな作品のひとつとして選ぶ人が多いみたい。 | |
カーのわりには、こざっぱりしてたよね。密室もなし、法廷 もなし、推理以外の付加部分も少なくて、純粋に推理だけを楽しめるようになってた。 | |
推理以外の付加部分が好きでミステリーを読んでる私には物足 らなかったけど、カーのくどさが嫌いっていう人にはオススメかも。ねばっこさがなくて。 | |
私はけっこう満足したけどな。ほとんどの部分が、老医師リュ ークの語りで進められていくの。第二次世界大戦前、イギリスの田舎町、まじめで無欲な老医師のやさしい 語り、なんともいい感じの古くさ〜い雰囲気が漂ってて、読みはじめから、これは好き、と思った。 | |
うん、傍観者的な立場の人の眼を通して、事件の全貌が見えて くるってパターンは私も好き。リュークはやさしくって、人をけなさないから語りが心地よいしね。 | |
とくにリタは、美人なんだけど、なんとなく仕草が芝居がかって て鼻につくから、田舎町ではあまりよく思われないタイプの女性、リュークの語りじゃないと、リタがただの 薄っぺらい悪女に見えちゃってたかも。 | |
リタの夫アレックはおとなしい人で、見かけもあまりよくなく て、なんでリタみたいな女性が結婚相手として選んだろうと不思議になるような男性なのよね。 | |
そこに現れたのが、リタより年下で、ハンサムなバリー。バリー は売れない役者で、自動車のセールスマンとかもやってるみたい。見た目が良いだけで、あんまりリタが頼れ そうな男性じゃないの。 | |
そうなると、二人で駆け落ちってわけにもいかない。やっぱり 財産のあるアレックを殺しちゃうしかないでしょ〜。 | |
ところが、実際に死んだのはリタとバリー。リュークが見た ところ、屋敷の裏口から海の断崖まで、二人の一方方向の足跡があり、どう考えても自殺としか思えない。 | |
あとで二人の死体も見つかるのよね。だから偽装じゃなく、 本当に心中したみたい。でも、リュークは信じない。 | |
たしかに、リタもバリーも自殺するタイプじゃないよね。 | |
だからって、アレックがやったって可能性もなし。だってアレ ックは、ず〜っとリュークと一緒にいたんだから。 | |
人を使って殺すにしても、友達はリュークだけだし、じつは 破産しかけててお金もないしね。 | |
そのうちに、二人が海に飛びこむ前に自分たちを撃ったらしい ピストルが見つかるんだけど、それは海からはずっと離れた、通りのまん中に落っこちてたの。 | |
さてさて、そこにはどんなトリックが隠されているのでしょう。 そこに現れるのが、我らがヘンリー・メルヴェール卿! | |
息子の友人の若い画家のモデルになるために、その田舎町に滞 在してたのよね。 | |
今回のヘンリー・メルヴェール卿は、電動車椅子で爆走します(笑) | |
純粋な推理小説としては、ちょっと余計な部分があるとした ら、唯一このヘンリー・メルヴェール卿の電動車椅子爆走だよね。 | |
でも、これがなくっちゃ、ヘンリー・メルヴェール卿じゃないよっ。 | |
カーの作品はミステリーファンにいろいろけなされてるのも あるけど、この作品は、伏線のひき方、トリック、謎解きから犯人まで、ケチのつけようがないみたい。 | |
地味だけど、良い本だったと思うよ。カーで正統派のミステリーを読みたいって人にオススメ。 | |