すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ザ・ギバー 記憶を伝える者」 ロイス・ローリー (アメリカ)  <講談社 単行本> 【Amazon】
少年ジョーナスが暮らすコミュニティーは、長老会で決められた規律に従って、人々は平穏な生活を 送っている。他人に対する怒りは諭され、つねに謝罪の言葉を要求され、従わないものは《リリース》され る。職業も、結婚相手もすべて決められ、性欲は抑えられて与えられた子供を育てる。さらに住民たちは知 らずにいるが、とんでもないものまで抑制されてしまっていた。それでも、やさしい父親、エリートの母親、 おしゃべりな妹、愉快な友人に囲まれ、幸せに暮らすジョーナスだったが、《十二歳の儀式》の 《職業任命》で、《記憶を受けつぐ者》に任命され、コミュニティーで唯一人、過去の記憶を受けつぐことになり、まやかしの生活に気づきはじめる。
にえ これは、ニューベリー賞受賞作品。ニューベリー賞は、アメ リカの最も権威ある児童文学賞で、ロイス・ローリーは2回受賞してますが、これは凄いことなのだそうな。ちなみに、ロイス・ローリーは女性です。
すみ 児童文学って言っても、これは中学生以上と指定されてるSFなので、読んでて児童文学読んでる〜って感じはないと思うけどね。
にえ おもしろかった。最初はまあ、ありがちな設定かなと思って 読みはじめたけど、だんだんとわかってくる事実に驚きまくった。
すみ 書き方がうまいよね。冒頭では、ただジョーナスが幸せそうに 暮らしてるの。
にえ 友達のことを心配したり、うるさい妹がちょっとうざったか ったり、両親が親身になって悩みを聞いてくれたり、ね。
すみ でも、な〜んか変なの。で、だんだんコミュニティーの暮らし のおかしさが浮き彫りになってくる。
にえ 表面的には穏やかで、幸せそうなんだけど、知っていくと だんだん気色悪くなっていくのよね。
すみ 犯罪者も、言うこときかない人も、育ちの悪い子供も、 ある程度の年齢になった老人も、《リリース》されちゃう。リリースって何? キャーってかんじ(笑)
にえ 人々の生活は全部、長老会に見られてるみたいだし、なんだか、 どうでもいいことまで、いちいち注意されてるしね。
すみ 「謝罪します」「謝罪を受け入れます」って日常用語も怖い し、こんなものまで?ってほど画一された持ち物や身なりも、なんだか怖い。
にえ その言葉は適切ではないから、使ってはだめですよって、妙に クドクドと丁寧に説明されるのも変な感じだしね。
すみ 仲良さげな家族も、なんか無理して仲良くしてるようで、だん だん気色悪くなってくる。
にえ で、《記憶を受けつぐ者》に選ばれて、ザ・ギバー(記憶を 伝える者)から、私たちなら当たり前に知ってることを、初めて教えてもらうジョーナスの感動! これ が良かった。
すみ 雪が降ったり、陽射しを浴びたり、そういう当たり前のこと が、初めて知るジョーナスを通じて新鮮に伝わってきて、なんか美しかったよね。
にえ それでだんだん事実がわかってくると、前に読んでてなんとな く違和感をかんじていたなにげない描写部分の理由がわかってきたりして、驚きの連続だった。
すみ 軽く読めるわりには、内在するテーマがけっこう重かったし、 読みごたえあったよね。
にえ ちなみに、ロイス・ローリーは第二次世界大戦直後に3年間、 日本で暮らしていて、そのときの経験をもとに、この小説を思いついたんだそうです。
すみ ロイスの父親がマッカーサー元帥の歯医者さんで、それで 少女だったロイスを連れて日本に来て、渋谷にあるワシントン・ハイツってところに住んでたんだよね。
にえ 焦土と化し、苦しい生活をする日本人たちの住む渋谷のなか で、ただひとつ、別世界のように豊かな生活をしていたワシントン・ハイツ。ハイツの外に出ることも、 日本人たちに接することも禁じられてたんだけど、ロイスはこっそり抜け出して、自転車で渋谷を走り まわっていたんだって。
すみ その頃の経験が、この本を書くきっかけになってるって 知って読むと、なるほど〜って思うよね。
にえ 『ザ・ギバー』で、なんで自転車で走るシーンがたくさん出て くるのかと思ったら、その辺の作者の思い出が盛り込まれてたのよね、そういうのも知ると感慨深かった。
すみ 予想以上におもしろかった! ロイス・ローリー、良いよ。