すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「青い犬の目」 ガルシア=マルケス (コロンビア)  <福武書店 文庫本> 【Amazon】
死をめぐる11の短編。
にえ 三冊めのガルシア=マルケスは、短編集です。
すみ 前に読んだ『百年の孤独』と『族長の秋』にも死はたくさ ん出てきたけど、印象に残るのは、しつこすぎるほどの強烈な生命力だったよね。でも、これはどれも死がテーマ。
にえ 暗い死の匂いや死霊のような存在が出てきて、南米の幻想小説 って言われたときに、頭に浮かぶイメージそのままだった。押さえぎみで、ちょっと物足りない気もした けど。
すみ 気になったのは、『百年の孤独』にも出てきたし、この本でも 2作に出てきたけど、この人の小説って土を食べるって描写がよく出てくるよね。
にえ 妊娠中に土とか壁とか食べちゃう人がいるって言うのは聞いた ことがあるけど、そういう話ではないのよね。狂気の象徴ってことでもなく、満たされない心を埋めようと する行為なの。
すみ 泣いたり、叫んだりしないで、黙々と土を食べる。これぞ南米 小説って気がしたな。
<三度目の諦め>
少年の頃に死んでから、生きた屍として棺桶で成長し続けた彼が、二十五歳となってこれ以上の成長は 期待できなくなると、母親は彼の面倒をこまめにみることをやめてしまった。
にえ 死んで棺桶に入ってるんだけど、家の中にそのまま置かれ、 成長していく息子と、かいがいしく面倒をみる母親。不気味な設定が当たり前のように書かれてるところが、 いかにもだったよね。
すみ 死んでるけど意識があるのは嬉しいことだけど、生きているの に屍のように動けないのは辛すぎる。状態は同じでも、考え方次第で180度違って感じるって著述には 納得してしまった。
<死の向こう側>
生きた屍を双子の弟に持つ彼は、朝起きてみた鏡の中に、弟の顔を見つけてぎょっとする。
にえ これはたぶん、「三度目の諦め」とセットになってるのよね。
すみ 生きた屍には双子の兄がいた。このところまた、小説読むたびに 双子が出てきて、私たちはウンザリ(笑)
<エバは猫の中に>
並はずれた美貌のために幸せになれないエバは、肉体から解き放たれることによって平穏を見つけた。
にえ なんで人並み外れて美しいのが不幸なのかわからないけど、 なんだかエバはつらそうだった。
すみ 目立つのがいやだから、体から魂が抜けて喜ぶんだけど、その 魂を猫にもぐりこませれば、知的な猫として目立てるって想像するあたりの矛盾に、女性らしいエゴを感じた な。
<三人の夢遊病者の苦しみ>
彼女がもう笑わないと宣言した、私たち三人は戸惑った。
にえ 私たちはもうアレはしないとかコレはしないとか、宣言しても すぐに挫折するけど、ガルシア=マルケスの小説に出てくる女性はかならず貫き通しちゃう。
すみ もういいやって妥協することがないのよね。これは意志薄弱な 私たちには理解しづらいけど、小説の登場人物としてはおもしろい。
<鏡の対話>
何時間も眠ったあと、仕事に行くために身支度をしながら、彼は鏡に向かって考えた。
にえ なんか、鏡に向かっていろいろ考えてます(笑)
すみ 細かすぎるほどのひげ剃りの描写あたりに、作家というのは 因果な商売だな〜と思ってしまった。
<青い犬の目>
「青い犬の目」と言ってくれる男を捜していた彼女と、ぼくは出会った。
にえ これは不思議な会話の話だよね。「ぼく」と「彼女」は互いに 言ってることがよくわかるし、理解し合えるけど、読んでる私たちは戸惑ってしまう。
すみ 初対面なのに、「青い犬の目」と言ってくれる人を捜してたの よ、「青い犬の目」を捜しているっていう人を捜してたよ、なんて感じの会話をする男女の話。
<六時に来た女>
ホセのレストランに毎日6時に来る彼女は、美しいが少しだけ歳をとりすぎている。
にえ これはおもしろかった。ホセは毎日6時に来る彼女に気がある んだけど、彼女は人を殺した女をかばう気がある?なんて訊いてくるの。
すみ で、今日だけは十五分前に来たことにしてちょうだい、町を離 れなきゃいけないの、なんてことを言いだすんだけど、ホセは全然わかってないのよね。
<天使を待たせた黒人、ナボ>
馬に蹴られた世話係のナボは、頭がおかしくなって馬小屋に閉じ込められている。
にえ この本のなかでは、これが一番の出来じゃないかな。馬小屋に 閉じ込められたナボのもとには、コーラス隊に入れと誘いに来る男が訪ねてくる。もちろん幻覚なんでしょ。 そのナボと、ナボにいつも蓄音機をかけてもらっていた精神異常の少女、二人を居てあたりまえの存在とし てたいして気にも留めない周囲の人たち。南米っぽいな。
すみ 不思議なやさしさが漂ってて、気味悪くも心地よいお話だったよね。
<誰かが薔薇を荒らす>
ぼくは薔薇をそっと盗む。彼女はもうじき、盗んでいるのが誰か気づくだろう。
にえ 死霊となったぼくと、薔薇を育てる年老いた彼女の話。
すみ これはねちっこい濃さがなくて、わりと普通の幻想小説だった な。
<イシチドリの夜>
イシチドリに襲われて目が見えなくなったおれたち三人。みんなは新聞でそのことを知っている。
にえ これはおもしろかった。イシチドリに襲われて目が見えな くなって、三人は手を繋いで町を歩くの。で、町の人たちは新聞でそれを知ってるんだけど、新聞に 書いてあることなんか嘘だと思ってる。三人と町の人たちの不毛なやりとりがいい味だしてた。
すみ イシチドリっていうのは、おもに水辺にいる、足の長い全長 30センチぐらいの鳥です。たしかに人を襲う感じはしないね。
<マコンドに降る雨を見たイザベルの独白>
永遠とも思えるほど降りやまない雨が、ゆっくりとマコンドを浸食していく。
にえ これも良かったな。南米、いつまでも降り続く雨、抑えてしっ とりとした女性の語り口、ジワジワと迫ってくる絶望感がたまらなかった。
すみ この感じは長編でも読んでみたいね。