すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「黒い囚人馬車」 マーク・グレアム (アメリカ)  <ハヤカワ・ポケット・ミステリ> 【Amazon】
1876年フィラデルフィアで、アメリカ建国百年記念万国博が盛大に催されていた。世界中の国の パビリオンが建ち並ぶ会場の規模は大きく、一日ですべてをまわることは不可能なほどだった。 会場の警備に就いている警官マクリアリーは、南北戦争での兵士時代のつらい思い出と、過去の事件解決の 失敗の記憶に苦しんでいた。ある夜、マクリアリーはハインズ署長に命じられ、金持ちたちを退廃と虚飾に 彩られた歓楽街シャンティヴィルにまわるツアーへ連れていくことになった。そしてそのツアーの最後に、 少女の惨殺体を発見することになる。
にえ 2001年のアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞受賞作品です。
すみ 歴史ミステリーなんて宣伝文句だったから、歴史を探る推理小 説かと思ったら、時代設定じたいがちょっと昔ってことだったのね。
にえ ちょうどこの時代に、この作家さんの曾祖父ちゃんが刑事を やってたんだそうで、思い入れ充分の小説だったよね。
すみ そうなの〜。アメリカ建国百年記念万国博の描写なんて、すっ ごく丁寧に書いてあって、ワクワクもの。
にえ とくにその当時注目されてた日本のブースについて細かく書いて あって、それがべた褒めだから、ちょっと嬉しくなっちゃったよね。
すみ 背景の雰囲気だけじゃなくて、登場人物もよかった。主人公の マクリアリーは傷ついた心を抱えながらも、人にやさしくしなければ気がすまない男。
にえ ちょっと生意気な青年にも、精神薄弱児の子にも、好感を持 って、理解してあげようとする姿にグッときたよね。
すみ 甘いものが好きで、やたらと売店で買い食いするのよね。 どれもこれも美味しそうだったな。
にえ 脇役としては、まず署長のハインズ。彼はマクリアリーに迷惑 をかけられて、警察を辞めて欲しがってるみたいだけど、でも庇おうともしてるのよね。過去にいろいろあ ったみたい。
すみ それに警備員の青年タッド。タッドは刑事志望で、マクリアリ ーを尊敬してるのよね。一途で、なかなかいい助手です。
にえ それにキング一家。父親のハイラムは万博の財務部役員で あり、表裏の両方を牛耳る権力者なのよね。匂うわ〜。
すみ 娘のエルシーはすっごい美人なんだけど、過去になにかつらい ことがあったみたいで、ちょっと精神的におかしくなっちゃってるの。
にえ ちょっと、なのよね。正常なことを言ったり、わけのわから ないことを言ったり、微妙。なにか隠してるみたいだし。
すみ 息子のデイヴィッドは新聞記者で、好奇心旺盛のハリキリ青 年。でも、やっぱりなにか隠してるみたい。
にえ 青年独特の生意気さもあるけど、マクリアリーは好感を持ってるのよね。
すみ で、母親はデイヴィッドが子どもの頃に自殺したみたい。ここ にも謎はあるのよね。それと、キング一家の影のようにたたずむ、雇われ探偵のバート。
にえ マクリアリーは物好きな金持ちたちが歓楽街をまわるツアーの 警護を命じられるんだけど、そこで知り合うのは、爆発ヘアーで蛇を体に巻くフリークショーの女ハッティ と、見世物小屋で「学識ある豚」の世話を焼く青年ジェシー。
すみ ジェシーは感動すると詩を口ずさんじゃう感受性の強い男の子 で、人懐っこいから、マクリアリーもすぐに好きになっちゃうのよね。
にえ でも、ジェシーに誘われるように入った林で、少女の惨殺死体を発見しちゃう。
すみ そんで、ジェシーの過去を調べてみたら、表向きの愛らしさと は大違いの、とんでもないヤツなの。
にえ おまけに調べていくうちに、キング一家とも密接な関わりを持 ってることがわかるし。
すみ それで、調べていくうちに、どんどんとんでもない過去が浮か び上がってくるのよね。背筋凍りつきっ。
にえ 過去の連続殺人と、現在の連続殺人、犯人はだれなのか。キン グ一家の秘密とはなにか。秘密は掘れば掘るほど複雑になっていく感じで、もうわかったと思うと、さらに 根があったりするの。
すみ 金持ち一家の暗い秘密っていうのは、ミステリーでよくある話 だけど、この本はさすがMWA賞受賞作、一筋縄ではいかなかったよね。
にえ どんでん返し、どんでん返しで、思いっきり夢中にさせてく れたし、最後の動機づけも、ビシッと決まってた。最初っから胸を打つラストまで、ケチのつけようがないな。
すみ 南北戦争と第一次世界大戦のあいだの高度成長するアメリカの 光と影の描き出しも見事だったし、ストーリーのあいまの深い心理描写もよかったし、登場人物もよかった し、一度もページをめくる手を止めさせなかったストーリーのおもしろさも良かった。
にえ 独特の雰囲気がしっかりできあがってて、読みだしてすぐ本の 世界に入りこめたよね。時代の匂いもプンプンしてきたし。これはもう絶対オススメ! この作家さんの他の作品も読みた〜い。