=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「キングとジョーカー」 ピータ−・ディキンスン (イギリス)
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英国王室一家の朝食中、信じられない事件が起こった。国王ビクターU世のハムが入っているはずの 皿からおおいを外すと、王子アルバートのかわいがっているカエルが飛びだしてきたのだ。テーブルからは 一枚の紙が落ちてきた。白い紙に赤いバツ3つ、それは宮廷を揺るがすジョーカーの犯行のあかしだった。 | |
今までも、ディキンスンの意外なところをついてくる小説の数々には驚かされっぱなしだったけど、これは特にビックリしたよね。 | |
ロイヤルファミリーとその従者たちが登場人物で容疑者のミステリー、舞台はもちろん宮廷内。 | |
設定がまた面白い。過去の歴史や家系、出来事などはその まま利用しているんだけど、系譜のなかで、エリザベスU世一家が入るべきところに、ディキンスン・オ リジナルのロイヤルファミリーが割り込ませてあるの。 | |
そのなかでも、王女ルイーズがこの小説の主人公であり、 謎を解く探偵役でもあるのよね。 | |
ディキンスンが造った家族は、王のビクターU世と、スペイン から輿入れしたイザベラ王妃、それに王子のアルバートと王女ルイーズ。 | |
王室にしては、一男一女と子供が少なめなのは、イザベラ王妃 が、自分に血友病の遺伝子があるのではないかと怯えているため。 | |
王室に血友病の恐怖をもってくるところが、いかにもディキンスンだよね〜。 | |
実在の人物もバシバシ盛りこまれてた。で、ロイヤルファミリ ーをおびやかすのは、悪質な冗談を繰り返す、通称ジョーカー。犯行の内容からして、身内のなかにジョー カーの正体がいるとしか思えない。 | |
ジョーカーは最初、王のハムをカエルに替えたり、庭師のズボ ンの膝下を切ったりと、まあかわいらしい悪戯をするんだけど、だんだん悪質になってくるのよね。 | |
ルイーズの部屋にペンキで残酷ないたずら書きをしたり、 小動物を惨殺したり。そして最終的には、殺人が2回起きるのよね。 | |
最初は、宿題をしたり、友だちの恋愛をからかったりする 少女、ルイーズの語り口からして、ちょっとかわいい話かな、と思ったけど、後半はかなり残酷だし、最後 はけっこう苦い終り方だった。甘口ではじまって、辛口で終ってたな。 | |
ジョーカーは誰か、殺人犯は誰かって謎だけじゃなく、王室に 隠された謎もどんどん解けていくのよね。 | |
まず、王妃と結婚する前からいる、王の愛人ナニーがおかしな 存在。第一の謎よね。 | |
王妃はわかってるのにナニーと仲良くしてるし、王はナニーも 王妃も両方愛して大事にしているみたいだし、みょうに仲のいい三人の関係が、思春期のルイーズには堪え られないみたい。 | |
でも、そこには複雑な秘密があるのよね。 | |
従者として働きながら、じつは王室の血を引いている人物まで いたり、王室の謎は解けると思うとまた複雑になり、からみあった過去がしだいにわかってくる。 | |
色情狂の王子の話が出てきたり、同性愛の話あり、私生児の 秘密あり、自殺騒動まで起きるし、よくまあ架空のロイヤルファミリーとはいえ、ここまで書けるよね。 | |
それが許されちゃうのが、イギリスならではだよね〜。 | |
でも、中心はハデハデな設定じゃなく、人気者の王女である ルイーズの心の叫び。ルイーズは、まわりに要求されるまま、ある時は大人っぽく、ある時は少女らしく ふるまってるけど、内面では、壊れそうになる自分を必死に抑えてる聡明な子なの。 | |
自分を保つために、2つの顔を持ってるのよね。「よそゆきの 顔」と「内輪の顔」って呼んでるんだけど。よそゆきの顔の手本は、愛読書、トールキンの『指輪物語』に 出てくるお姫様。『指輪物語』の話もチラチラ出てくるから、好きな人にはたまらないんじゃないかな。 | |
すべての鍵を握る、三代にわたってロイヤルファミリーの乳母 を続けてきた、寝たきり老婆ダーディの存在感も凄かったな。 | |
独身のまま生涯を終える哀しい理由も、すべてを把握してる 王室の秘密も、あかすことなく墓まで持っていこうと、ひたすら死ぬのを待ってるのよね。壮絶な生き様。 | |
とにかく架空の人物も、実在の人物も、みんな個性的で生き生 きと描かれてたし、おもしろかった部分をあげていったらきりがない。ディキンスンの作品の中でもピカイ チの素晴らしい出来。ぜったい再版してみんなに読んでほしい。なんとかならんのでしょうか〜。 | |