すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「不自然な死体」 P・D・ジェイムズ (イギリス)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
ダルグリッシュ警視は一週間の休暇を得て、サフォークの叔母を訪ねた。叔母の住むモンクスミアと いう小さな地域は、海に近く、住民たちが互いのプライバシーを護りあえる住み心地のいい場所だった。 だが、推理作家モーリス・シートンが行方不明となり、手首を切断された死体となったモーリスを乗せた ボートが海岸に流れ着いたとき、平穏は崩された。
すみ 私たちにとって7冊めのP.D.ジェイムズです。
にえ で、今までことごとく絶賛してきたけど、これはイマイチだったな。好みの問題だろうけど、私にはピンと来なかった。
すみ 私たちがP.D.ジェイムズに期待してる感じと違ってたのよね。
にえ うん、まず期待するのが、表面を取り繕いながらも、内側でド ロドロしてる人間関係。この本もあるにはあったけど、なんかピンとがぼけてて、くっきり浮かび上がって こないのよね。
すみ 登場人物もいつになく、ちょっとリアルさに欠けてなかった?  とくに途中で出てくるマフィアきどりのナイトクラブのボスなんて、ハードボイルドかなにかの登場人物 みたいで、P.D.ジェイムズの小説に出てくると違和感あったな。
にえ 殺人者の狂気っぷりも、らしくなかったよね。
すみ 書き出しで驚かされたのは、おおっ!と思ったけどね。この パターンもありかって先を期待しちゃった。
にえ いきなり死体から始るのよね。ボートに乗った手首のない男 の死体の描写。ちょっとP.D.ジェイムズっぽくない文章なの。なになにっと思って先を読むと、書き 出し部分の謎が解ける、ここは巧かったよね。
すみ それから出てくるのが、孤独を愛する叔母のジェイン。この人 をもうちょっと表に出してくれてたらな。
にえ 強そうな個性があって、いいキャラなんだけど、あんまり目立たなかったね。
すみ 他のモンクスミアの住人たちも面白そうなキャラだったんだけ ど、どなたも個性を出し切れてなかった気がする。犯人も含めてね。
にえ 住人で、容疑者なのは、まず、恋愛小説家のシーリア。モンク スミアの中心的な存在で、ゴシップ好き。相手を値踏みしてつきあうか、つきあわないか決めちゃう厭な人 だけど、両親を亡くした姪を育てるやさしさもあるの。
すみ シーリアと姪のエリザベスは、互いに愛情はあるみたいだけど、 まずい会話ばかり繰り返して、うまくいってないのよね。可哀想だった。この辺をもっと掘り下げてくれたらな。
にえ あと、他の住人とのつき合いを避け、ジェインとだけ往き来し あってる文豪の大家シンクレア。これまた期待させといて、気のきいたセリフすらなかった。
すみ 演劇評論家のオリヴァーと、雑誌編集者のジャスティンは、 ちょっとキャラが近すぎて区別がつきづらかったな。
にえ あとはモーリスの秘書だったシルヴィア、元モーリスの家の 家政婦だったアリス、で、遺産を残されたモーリスの弟ディグビー。
すみ ディグビーは、いかにもミステリーに出てきそうなキャラよね。 モーリスが死ねば、遺産が手にはいる、怪しいけど完璧なアリバイがあり、第一にそこまで考えるだけの頭がない。
にえ あとさあ、モーリスの亡き妻の話が、思わせぶりに出てくるけ ど、これももっとくっきり出してきて欲しかったな。
すみ すごい美人だったけど、躁鬱病で、自殺しちゃったみたいなのよね。
にえ こうやって書いてると、おもしろい小説が期待できそうな気がするのにな〜。
すみ なんか主題を見失ってるというか、むりに、らしくない作品を書いちゃったというか……。
にえ 唯一気に入ったのは、ダルグリッシュとデボラの恋愛の結末だな。ぐふふ。