すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「レ・コスミコミケ」 イタロ・カルヴィーノ  (イタリア)    <早川書房 文庫本> 【Amazon】
宇宙創生以来の生き証人Qfwfqじいさんが語る、奇想天外な12編の宇宙奇譚。
※登場人物名は、本の通りの表記です。文字化けではありません。

<月の距離>Qfwfqが近すぎる月のそばで舟をとめると、いとこの聾は 月の引力をりようしてトンボ返りを披露し、Xlthlx嬢ちゃんは、月に向かってピューと飛ぶクラゲを 捕まえようとした。
<昼の誕生>まだ真っ暗な星雲で、QfwfqはBッ’bお祖母ちゃんやミスターHWらと、平べったい星雲の回転に身をまかせてじっとしていた。
<宇宙にしるしを>通りすぎる星雲と二億年後にまた出会ったときわかるように、Qfwfqは星雲に特別な印をつけることにした。
<ただ一点に>星雲が宇宙空間に拡散する前、Qfwfqは星雲ですし詰めになっていた。
<無色の時代>灰色の地球に色が発生しはじめた頃、Qfwfqは美少女アイに出会った。
<終りのないゲーム>宇宙で大爆発が起こったとき、まだ子供だったQfwfqは、発生した水素原子アトムを使ってPfwfp少年と遊んでいた。
<水に生きる叔父>水生動物が陸上動物へと移っていくとき、水際から離れようとしないN’バ・N’ガ叔父さんにQfwfq一家は手を焼いていた。
<いくら賭ける?>宇宙に銀河系、太陽系、地球が生まれ、人類が進化していくのを、Qfwfqは、学部長(k)yKとの賭けの対象にしていた。
<恐龍族>白亜紀を経て、一人生き残った恐龍Qfwfqは、恐龍と人間の混血少女に出会った。
<空間の形>重力場で落ちつづけるQfwfqは、平衡して落ちるウルスラ・H’x嬢とフェニモア中尉が気になってしかたがない。
<光と年月>天体望遠鏡をのぞいたQfwfqは、一億光年の距離にある星雲に《見たぞ!》と書かれたプラカードが立っているのを発見した。
<渦を巻く>軟体動物だったQfwfqは、彼女と恋をして石灰を出し、殻を作って巻き貝になった。
にえ この本は前に読んだ『柔かい月』の前の作品なのよね。 でも、日本では続編の『柔かい月』のほうが7年も前に出版されてるみたいだけど。
すみ まあ、つながってる話じゃないから、問題はないけどね。 どっちも短編集で、『柔かい月』に収録された大部分の短編の主人公である「クフウフク氏」が、この本の すべての短編の主人公Qfwfqじいさんと同一人物。
にえ だけど、訳し方が違うためなのか、原文からして違うのか、 ずいぶんと雰囲気が違うよね。
すみ 『柔かい月』では理屈こねまわしてるって感じの硬質的な 喋り方だったけど、こっちのQfwfqじいさんは「わしは……じゃったんじゃ〜」てなかんじで、かなり親しみのわく語り口。
にえ ストーリーもぐっと魅力的だし、わかりやすかったよね。 冒頭に段をさげて、科学的なことが書いてあって、そこからヒントを得たように、Qfwfqじいさんが大ボラ話のような思い出を語り出す。
すみ たとえば、<宇宙にしるしを>では、冒頭に「《天の川》の 外縁部に位置する太陽は、およそ二億年を費してこの星雲を一周し終える。」と書いてあって、それに 続いてQfwfqじいさんが、通りすぎる星雲に印をつけたとか、同じ印をつけるライバルが現れたとか 語りだすの。全編がその形式になってます。
にえ なんだかね、『柔かい月』を読んだときも思ったけど、この人 の奇譚ものって、無知な子供が知識を与えられ、突飛もないことを言って笑われた話を、そのまま大人が 成熟した想像力を駆使して物語に仕立てたって感じがする。
すみ うんうん、最初の<月の距離>でまずその感じがしたよね。 「地球と月は引力でひっぱりあっている」なんて知識を与えられたら、「じゃあ、月と地球のあいだに立つ と、両方に引っぱられて宙に浮いちゃうんじゃないの?」なんて、いかにも子供が言いそう。
にえ それをそのままファンタジックな子供っぽい物語にしないで、 装飾たっぷりの、コッテリ凝った屁理屈話にしちゃってるでしょ。あいだが抜けて、ものすごく子供っぽい 部分と、育ちすぎた大人の部分とが、溶けあわずに内在してるみたいな、不思議な違和感があるよね、この人の作る話って。
すみ 『柔かい月』では、それがとっつきづらさに感じられたけど、 『レ・コスミコミケ』はストーリーがはっきりしてて読みやすいから、そういう部分が楽しさにつながって たかも。
にえ うん、奇想天外な話ばかりなのに、ちゃんとお話になってるん だよね。しかも、ノスタルジックな味わいさえあって。
すみ <終りのないゲーム>なんてモロそうよね。二人の子供のゲー ム攻防戦が、おもしろおかしく語られてて。
にえ <水に生きる叔父>で演じられる、Qfwfqとフィアンセと 叔父さんの三角関係なんて、なんか高度成長期のアメリカでありそうな話じゃなかった?
すみ <無色の時代>は描写が美しかったな。幻想的で素敵。美少女 アイに色を教えるQfwfqが切なかったりして。
にえ そういえば、<無色の時代>でもそうだったけど、この人の本 って、摩訶不思議な人たちばかり現れてひねくれまくってるみたいなのに、恋愛話だけはいたってノーマル で、笑っちゃうほどの純愛。そのギャップがとっても変なんだけど(笑)
すみ 子供と大人、ひねくれっぷりと純情っぷり、なんかいろいろな 側面が見えてきて、ホント、不思議な作家さんだよね。
にえ 他のシリーズもまだまだあるみたいだし、もっと読んでみない とわからないよね。この本は、まあ癖の強い作家さんでもあるし、あらすじ見て読みたいって思う人が読め ばいいということで(笑)