=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「インド夜想曲」 アントニオ・タブッキ (イタリア)
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イタリア人の僕はインドで、失踪した友人シャヴィエルを捜している。売春婦たちの集まる《檻の町》 では、いかがわしいカジュラーホ・ホテルでシャヴィエルは入院したと告げられ、ゴキブリだらけの不潔な 病院では、象の顔をした神ガネシュと同じ名前の医者に、ここにはいないと告げられた。ボンベイ、マドラ ス、ゴアと捜しつづける僕は、シャビエルと出会えるのか。 | |
初タブッキです。イタリアの幻想作家、って紹介でいいのかな。 | |
ここのところ南米の濃い幻想小説がつづいてたから、ずいぶんスッキリまとまってるなって感じがした。 | |
うん、イタリア人がインドを旅するって聞くと、すごく濃い イメージがあるけど、これはかなり描写を省いて、すっきりしあげた小説だったよね。 | |
哲学的だったり宗教的だったり、妖しげだったりする、外国人 から見たインドの雰囲気は濃厚に漂ってくるんだけど、文章じたいはすっきりとしてて、行った場所、場所 の描写も極力おさえてあっさりしたものだった。 | |
それに、大きめにあいた行間で150ページ程度、これが12の章に分 かれてるから、スルスルッと読めたしね。 | |
話も単純。友人シャビエルを捜す僕が、インドのなかであっち に行ったり、こっちに行ったり。で、各章の舞台が別の場所になってて、先々で印象深い人に出会っては、別れる。 | |
出会う人々もまた、あっさりとしてるのよね。話はしてくれる けど、さっさとどっか行ってくれって感じで、素っ気ないの。 | |
素っ気ない不思議さがある人たちだよね。宗教的な、哲学的な ことをチラッと言うけど、語らない。追い払うけど、大事なヒントを与えてくれたりする。 | |
そうそう、すっとぼけたような会話をしておいて、最後に、え、 あんた実はそうだったの?と驚くようなセリフを残したりするから、気は抜けないよね。 | |
で、<僕>と一緒にシャビエルを捜す読者の私は、そのうちに シャビエルがどこにいるのか、より、シャビエルって何者なの?ってことの方が気になってくる。 | |
それより<僕>って何者よ?って方が私は気になったけど。 | |
まあ、そんなふうに気になりつつ、短編のような一章がずつが 積み重ねられていき、与えられたヒントも増えてきて、ラストに、えっ、なに、なに、そういうことなのっ てシーンがあり、さあ、いよいよ衝撃の?! | |
……と思ったら、さあ、あとは自分で考えてくださいって、作 者に、いきなり突き放されるの。 | |
そうなのよ〜。ここまで持ってきて、突き放されるとは(笑) | |
でもさ、だいたいの設定だけ書いておいて、さあ、あと は読者のご想像にお任せしますって小説はいくつか読んだことあるけど、それらとはちょっと違ったよね。 | |
うん、もうあとは結論だけってところでの突き放しだもんね。 考える情報は充分あって、答えはもうすぐそこ、手が届くところにあるって感じ。 | |
しかもさ、突き放されたあとに、不完全燃焼だわ〜、不満だわ〜って感じがしないよね。 | |
あ、ここまでですね、はい、わかりましたって、なんか清々し いような気さえしちゃったよね。 | |
とにかく読み終わってみると、不思議な余韻。 | |
読んでいるあいだも不思議な感触だったけど。ドライな感じな んだけど、パサパサに乾ききってはいないような。 | |
ほどよく湿り気を帯びた冷たさだよね。癖になりそう(笑) この作家さんの他の作品も読んでみたいな。 | |
あとがきによると、この本は「タブッキ作品のなかで、もっと も完成度の高い、そして同時に、もっともわかりやすい作品」だそうで。 | |
わかりやすいこの本で感じた「知的な冷笑」みたいなものが、 もっとハードになるのかな。 | |
うん、この高みから見下ろしたたぶらかしっていうのかな、 この手の本は好き嫌いがはっきり分かれそうだけど、他の作家さんでは味わえないものがあるから、読んで みてはいかがでしょう。ってことで、この本はオススメ。 | |