=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「魔女が笑う夜」 カーター・ディクスン (アメリカ→イギリス)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】
“あざ笑う後家”と呼ばれる大きな岩の石像がある、サマセット州ストーク・ドルイドは、のどかな村 だった。ところがこの地に赴任した司祭ジェームスは、村人たちが何かを隠していることに気づく。じつは、 <後家>と名乗るものが、村人たち一人一人に、事実無根の恋愛沙汰を中傷する手紙を大量に送りつけていた のだ。その嫌がらせは、とうとう一人の女性が自殺するに至ってもおさまらない。村の書店主レイフは、 名探偵ヘンリー・メルヴェール卿に助けを求めた。 <旧題名『わらう後家』> | |
3冊めのカーだけど、私はこの本が今までで一番気に入っちゃったな。 | |
静かでのんびりとして見える村にひそむ複雑な愛憎関係、もろ私たちの好みだよね〜。 | |
あなたはだれそれとできてるんだろう、みたいな内容を、やけ にひねくりまわした文章で書いた手紙が、村人たちにどんどん届くの。 | |
でも、手紙の指摘はみんな当ってないのよね。受けとった人は、 え、私はこの人とは付き合ってないよと困惑しちゃう。 | |
だいたい、なんでこんな手紙を送りまくるの?ってのが謎なん だけど、そのうちにまぐれ当たりでもしたのか、手紙が原因で自殺者が出ちゃう。 | |
で、我らがヘンリー・メリヴェール卿、登場! そして新たに殺人が!! | |
この本のメルヴェール卿、いいよね〜。最初のほうと、最後の ほうで、あわせて2回、村中を巻き込むような大騒ぎを巻き起こすんだけど、これがもう楽しくって。 | |
あとさ、精神医学のプロだって名乗ってるわりにはわかって ない医者と、子育てがわかってない母親のせいで鬱屈していた少女を理解して、助けてあげるの、あれが素敵だった。 | |
孤独な少女とおじさまの触れ合い、ジンときちゃったよね。 | |
はめのはずし方もオチャメで可愛かったし、人としての深みも 見せてくれて、この本でメルヴェール卿の大ファンになってしまった。 | |
メルヴェール卿に限らず、この本は登場人物がよかったよね。 | |
前の2冊って登場人物はコミカルというか、昔のサイレント映 画の登場人物みたいな言動で、いかにも作り物っぽかったの。それはそれでおもしろかったんだけど、この 本の登場人物はもっと血の通った人たちだったよね。 | |
普通に生活するうえでの悩みがあったり、わずかずつ嫉妬心を 持ってたり、話していくうちに少しずつ打ち解け合っていったりとか、そういう心の機微が見え隠れして、 ぐっと生身の人間っぽい人たちだった。 | |
そういう親しみやすい人たちが複雑にからみあっていくから、 もう夢中になって読めたよね。 | |
個性もあったしね。熱心で信仰心が厚いのに、テニスに夢中に なって「畜生!(ヘル)」なんて叫んじゃう司祭ジェームスなんておもしろかったな。 | |
司祭なのか、牧師なのかわかんないけどね。本文中では「司祭」 になったり、「牧師」になったり。登場人物の一覧表では「牧師」になっちゃってたけど。 | |
「司祭」はカトリック、「牧師」はプロテスタントでしょ。翻 訳家さんが区別できてないとすると、ちと痛すぎる気はするけど、とりあえず置いときましょう(笑) | |
ジェームスに対する作家ゴードンの、反感から好意に少しずつ 進んでいく課程もよかったよね。男の友情芽生えるってかんじで。 | |
メリヴェール卿が滞在するホテルの女主人ヴァーチューも 好き。お色気たっぷりで、しかも世話焼き。口が悪いけど上品。とにかく濃い人。 | |
ジョーンとか、マリオンとか、ステラとか、ごく普通の女性 たちの微妙なけんせいのしあい方もおもしろかったよね。 | |
みんなそれぞれ個性に合わせ、いいところでドヒャ〜ってこと をやってくれたから、また楽しかった。 | |
陰険な手紙、垣間見える暗い秘密、そういう陰の部分と、弾け まくった陽の部分がくっきりしてて、そのめりはりがよかったよね。読みだすと止まらない。 | |
そういえば、この本ってバカミスって言われてるみたいなんだ けど、これほど出来のいい小説を、バカミスとはひどいよね。 | |
密室トリックがちょこっと挿入されてるんだけど、あれが短絡 的すぎるっていうのよね。 | |
でもさ、あれはカーだからって期待されてのサービス部分で、 メインではないでしょ。それに、犯人の性格とか、状況とか、そもそもの犯罪の目的と か、その他もろもろを考えあわせると、稚拙なトリックであったことのほうが自然。巧妙なトリックを使わ れてたら、全体の流れからいって、おかしくなる。 | |
まあ、推理小説を「推理」で読むか、「小説」で読むかなんだ ろうね。密室の「推理」だけにこだわると、バカミスなのかもしれない。ちょこっとだけ出てくる密室は、 私もオマケだとは思ったけどね。 | |
バカミスと言われても、犯人の動機が理解できなくても(笑)、 これは小説として良かった! 前に1、2冊カーを読んで、ダメだった人にもオススメ。 | |