すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「魔女が笑う夜」 カーター・ディクスン (アメリカ→イギリス)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
“あざ笑う後家”と呼ばれる大きな岩の石像がある、サマセット州ストーク・ドルイドは、のどかな村 だった。ところがこの地に赴任した司祭ジェームスは、村人たちが何かを隠していることに気づく。じつは、 <後家>と名乗るものが、村人たち一人一人に、事実無根の恋愛沙汰を中傷する手紙を大量に送りつけていた のだ。その嫌がらせは、とうとう一人の女性が自殺するに至ってもおさまらない。村の書店主レイフは、 名探偵ヘンリー・メルヴェール卿に助けを求めた。 <旧題名『わらう後家』>
にえ 3冊めのカーだけど、私はこの本が今までで一番気に入っちゃったな。
すみ 静かでのんびりとして見える村にひそむ複雑な愛憎関係、もろ私たちの好みだよね〜。
にえ あなたはだれそれとできてるんだろう、みたいな内容を、やけ にひねくりまわした文章で書いた手紙が、村人たちにどんどん届くの。
すみ でも、手紙の指摘はみんな当ってないのよね。受けとった人は、 え、私はこの人とは付き合ってないよと困惑しちゃう。
にえ だいたい、なんでこんな手紙を送りまくるの?ってのが謎なん だけど、そのうちにまぐれ当たりでもしたのか、手紙が原因で自殺者が出ちゃう。
すみ で、我らがヘンリー・メリヴェール卿、登場! そして新たに殺人が!!
にえ この本のメルヴェール卿、いいよね〜。最初のほうと、最後の ほうで、あわせて2回、村中を巻き込むような大騒ぎを巻き起こすんだけど、これがもう楽しくって。
すみ あとさ、精神医学のプロだって名乗ってるわりにはわかって ない医者と、子育てがわかってない母親のせいで鬱屈していた少女を理解して、助けてあげるの、あれが素敵だった。
にえ 孤独な少女とおじさまの触れ合い、ジンときちゃったよね。
すみ はめのはずし方もオチャメで可愛かったし、人としての深みも 見せてくれて、この本でメルヴェール卿の大ファンになってしまった。
にえ メルヴェール卿に限らず、この本は登場人物がよかったよね。
すみ 前の2冊って登場人物はコミカルというか、昔のサイレント映 画の登場人物みたいな言動で、いかにも作り物っぽかったの。それはそれでおもしろかったんだけど、この 本の登場人物はもっと血の通った人たちだったよね。
にえ 普通に生活するうえでの悩みがあったり、わずかずつ嫉妬心を 持ってたり、話していくうちに少しずつ打ち解け合っていったりとか、そういう心の機微が見え隠れして、 ぐっと生身の人間っぽい人たちだった。
すみ そういう親しみやすい人たちが複雑にからみあっていくから、 もう夢中になって読めたよね。
にえ 個性もあったしね。熱心で信仰心が厚いのに、テニスに夢中に なって「畜生!(ヘル)」なんて叫んじゃう司祭ジェームスなんておもしろかったな。
すみ 司祭なのか、牧師なのかわかんないけどね。本文中では「司祭」 になったり、「牧師」になったり。登場人物の一覧表では「牧師」になっちゃってたけど。
にえ 「司祭」はカトリック、「牧師」はプロテスタントでしょ。翻 訳家さんが区別できてないとすると、ちと痛すぎる気はするけど、とりあえず置いときましょう(笑)
すみ ジェームスに対する作家ゴードンの、反感から好意に少しずつ 進んでいく課程もよかったよね。男の友情芽生えるってかんじで。
にえ メリヴェール卿が滞在するホテルの女主人ヴァーチューも 好き。お色気たっぷりで、しかも世話焼き。口が悪いけど上品。とにかく濃い人。
すみ ジョーンとか、マリオンとか、ステラとか、ごく普通の女性 たちの微妙なけんせいのしあい方もおもしろかったよね。
にえ みんなそれぞれ個性に合わせ、いいところでドヒャ〜ってこと をやってくれたから、また楽しかった。
すみ 陰険な手紙、垣間見える暗い秘密、そういう陰の部分と、弾け まくった陽の部分がくっきりしてて、そのめりはりがよかったよね。読みだすと止まらない。
にえ そういえば、この本ってバカミスって言われてるみたいなんだ けど、これほど出来のいい小説を、バカミスとはひどいよね。
すみ 密室トリックがちょこっと挿入されてるんだけど、あれが短絡 的すぎるっていうのよね。
にえ でもさ、あれはカーだからって期待されてのサービス部分で、 メインではないでしょ。それに、犯人の性格とか、状況とか、そもそもの犯罪の目的と か、その他もろもろを考えあわせると、稚拙なトリックであったことのほうが自然。巧妙なトリックを使わ れてたら、全体の流れからいって、おかしくなる。
すみ まあ、推理小説を「推理」で読むか、「小説」で読むかなんだ ろうね。密室の「推理」だけにこだわると、バカミスなのかもしれない。ちょこっとだけ出てくる密室は、 私もオマケだとは思ったけどね。
にえ バカミスと言われても、犯人の動機が理解できなくても(笑)、 これは小説として良かった! 前に1、2冊カーを読んで、ダメだった人にもオススメ。