すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「熱い紅茶」 アヌラー・W・マニケー (スリランカ)  <段々社/星雲社 単行本> 【Amazon】
インドからスリランカへと移住してきたレンガサーミは、小さな田舎町テラブワの駅前で、粗末な茶店 を営んでいた。自転車預かり業を兼ね、店先で野菜や雑貨などを売り、貧乏人にわずかな利子で金を貸し、 食事の制限すらして少しずつ金を貯めていくレンガサーミは、人懐こく、誠実な努力家だった。しかし、 強欲な大家ヴィジットに翻弄され、美しく成長した娘サーヴィトリの結婚問題に悩まされ、苦労は尽きない。 やがて一家が幸せをつかんだかに思えたとき、シンハラ人とタミル人のほんの些細ないざこざから、町が 血で血を洗うほどの激しい暴動に席巻されてしまった。
にえ スリランカのシンハラ人女流作家、アヌラー・ヴィジャヤラトナ・マニケーの作品です。
すみ もと教師で、詩集、児童書、小説と幅広く作品を発表していて、 『熱い紅茶』はスリランカのマクシム・ゴーリキー記念賞最優秀賞を受賞しているのだそうな。
にえ 児童書も書く作家っていうのはわかるよね、文章がフンワリ やわらかで読みやすくって、しかも丁寧でわかりやすかった。
すみ うん、スリランカのことをほとんど知らない私たちでも、戸惑わずに読めたよね。
にえ 私が感じたこの本のおもしろさは2つ。まずひとつは、ビックリするぐらい日本に似ていた部分。
すみ そうなの、そうなの。最初は電気もひかれてない田舎町のテラ ブワが、どんどん発展していくところ、やたらと日本を意識して読んだよね。
にえ 電気もひかれてない頃は、土地も安くて余ってるの。それが 公団住宅が造られることになって、電気がひかれることが決まり、急に土地の値段が上がっていく。
すみ で、広い道路を通す計画が発表されて、道路の予定地となる 土地が安く買い上げられちゃうと噂になって、そこに住んでる人が右往左往するのに、結局計画が中止になったりね。
にえ 商店も、最初はつけで買えてたのが、現金のみになり、そのう ちに分割払いが可能になって、24時間営業の店ができたりとか。
すみ そういう描写がたくさん出てくるんだけど、どれもちょっと前 の日本を見てるみたいな不思議な感じがしたよね。
にえ あと1つは、日本とまったく違う、スリランカ独自の問題。
すみ シンハラ人とタミル人の問題だよね。過去の歴史でも、そう とういろんな事件があったみたい。
にえ インドから渡ってきたタミル人は、スリランカにもとからいて、 仏教徒のシンハラ人に差別されてる。差別っていっても、見下されてるっていうんじゃなくて、もっと複雑。 一緒に暮らしているのに、どこか混じり合えないみたいな。それが発展して、国の中が混乱するほど揉めちゃうのよね。
すみ で、レンガサーミはタミル人だけど、シンハラ語を話し、シン ハラ人のなかで、シンハラ人のように暮らしてるの。
にえ その設定は、この作者のうまさだよね。人種間のいろんな問題 が起き始めたとき、そのへんの問題がレンガサーミの存在で、くっきり浮き彫りになってくる。
すみ たださあ、そういう話ばかりしてると、この本が読んでおもし ろくない本みたいに伝わっちゃうよね。実際は、読んでみるとすごくストーリーのめりはりもあって、雰囲 気もよくって、おもしろく読める本だった、それは強調しておきたい。
にえ うん、まず、テラブワって小社会で暮らす人たちの、人間関係が おもしろいよね。レンガサーミはまじめなのに、やっかみ半分でケチだの、裏でなにやってるかわからないだ のって陰口をたたかれちゃう。
すみ そんなテラブワと、用心しながらも少しずつ親しくなっていく この本の語り部であるエドリシンハの関係がいいよね。
にえ エドリシンハの奥さんが、身勝手で、わがままで、でもちょっ としたことでホロッとしちゃったりして、日本にもこういう人っていっぱいいるな〜って笑えた。あと、 昔気質の頑固者ってかんじだけど、いざというときは決断力のなる奥さんの父親とかも同居してて、これま た日本人にもいるな〜って思った。
すみ 悪人として出てくるヴィジットもおもしろい登場人物だよね。 いかにも狂言回し的な単純な悪人。甘やかされて育った金持ちの息子で、強欲で。
にえ いきなり家賃上げたり、レンガサーミに売った土地が惜しくな って取り返そうとしたり、とにかくやることがセコイよね。
すみ あとね、サーヴィトリの結婚話はホロッとさせられた。
にえ そういう話で盛り上げてくれたからこそ、後半の暴動の悲劇 が、スリランカの人でもない私たちの胸に突き刺さってくるんだよね。
すみ うん、みんなすごく親しみをおぼえる人たちばかりで、他人事 としては読めなかったな。ここまでスリランカを身近に感じるなんて、驚き。
にえ グサッとくるラストも用意され、すごくいい本でした。オススメ!