=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「熱い紅茶」 アヌラー・W・マニケー (スリランカ)
<段々社/星雲社 単行本> 【Amazon】
インドからスリランカへと移住してきたレンガサーミは、小さな田舎町テラブワの駅前で、粗末な茶店 を営んでいた。自転車預かり業を兼ね、店先で野菜や雑貨などを売り、貧乏人にわずかな利子で金を貸し、 食事の制限すらして少しずつ金を貯めていくレンガサーミは、人懐こく、誠実な努力家だった。しかし、 強欲な大家ヴィジットに翻弄され、美しく成長した娘サーヴィトリの結婚問題に悩まされ、苦労は尽きない。 やがて一家が幸せをつかんだかに思えたとき、シンハラ人とタミル人のほんの些細ないざこざから、町が 血で血を洗うほどの激しい暴動に席巻されてしまった。 | |
スリランカのシンハラ人女流作家、アヌラー・ヴィジャヤラトナ・マニケーの作品です。 | |
もと教師で、詩集、児童書、小説と幅広く作品を発表していて、 『熱い紅茶』はスリランカのマクシム・ゴーリキー記念賞最優秀賞を受賞しているのだそうな。 | |
児童書も書く作家っていうのはわかるよね、文章がフンワリ やわらかで読みやすくって、しかも丁寧でわかりやすかった。 | |
うん、スリランカのことをほとんど知らない私たちでも、戸惑わずに読めたよね。 | |
私が感じたこの本のおもしろさは2つ。まずひとつは、ビックリするぐらい日本に似ていた部分。 | |
そうなの、そうなの。最初は電気もひかれてない田舎町のテラ ブワが、どんどん発展していくところ、やたらと日本を意識して読んだよね。 | |
電気もひかれてない頃は、土地も安くて余ってるの。それが 公団住宅が造られることになって、電気がひかれることが決まり、急に土地の値段が上がっていく。 | |
で、広い道路を通す計画が発表されて、道路の予定地となる 土地が安く買い上げられちゃうと噂になって、そこに住んでる人が右往左往するのに、結局計画が中止になったりね。 | |
商店も、最初はつけで買えてたのが、現金のみになり、そのう ちに分割払いが可能になって、24時間営業の店ができたりとか。 | |
そういう描写がたくさん出てくるんだけど、どれもちょっと前 の日本を見てるみたいな不思議な感じがしたよね。 | |
あと1つは、日本とまったく違う、スリランカ独自の問題。 | |
シンハラ人とタミル人の問題だよね。過去の歴史でも、そう とういろんな事件があったみたい。 | |
インドから渡ってきたタミル人は、スリランカにもとからいて、 仏教徒のシンハラ人に差別されてる。差別っていっても、見下されてるっていうんじゃなくて、もっと複雑。 一緒に暮らしているのに、どこか混じり合えないみたいな。それが発展して、国の中が混乱するほど揉めちゃうのよね。 | |
で、レンガサーミはタミル人だけど、シンハラ語を話し、シン ハラ人のなかで、シンハラ人のように暮らしてるの。 | |
その設定は、この作者のうまさだよね。人種間のいろんな問題 が起き始めたとき、そのへんの問題がレンガサーミの存在で、くっきり浮き彫りになってくる。 | |
たださあ、そういう話ばかりしてると、この本が読んでおもし ろくない本みたいに伝わっちゃうよね。実際は、読んでみるとすごくストーリーのめりはりもあって、雰囲 気もよくって、おもしろく読める本だった、それは強調しておきたい。 | |
うん、まず、テラブワって小社会で暮らす人たちの、人間関係が おもしろいよね。レンガサーミはまじめなのに、やっかみ半分でケチだの、裏でなにやってるかわからないだ のって陰口をたたかれちゃう。 | |
そんなテラブワと、用心しながらも少しずつ親しくなっていく この本の語り部であるエドリシンハの関係がいいよね。 | |
エドリシンハの奥さんが、身勝手で、わがままで、でもちょっ としたことでホロッとしちゃったりして、日本にもこういう人っていっぱいいるな〜って笑えた。あと、 昔気質の頑固者ってかんじだけど、いざというときは決断力のなる奥さんの父親とかも同居してて、これま た日本人にもいるな〜って思った。 | |
悪人として出てくるヴィジットもおもしろい登場人物だよね。 いかにも狂言回し的な単純な悪人。甘やかされて育った金持ちの息子で、強欲で。 | |
いきなり家賃上げたり、レンガサーミに売った土地が惜しくな って取り返そうとしたり、とにかくやることがセコイよね。 | |
あとね、サーヴィトリの結婚話はホロッとさせられた。 | |
そういう話で盛り上げてくれたからこそ、後半の暴動の悲劇 が、スリランカの人でもない私たちの胸に突き刺さってくるんだよね。 | |
うん、みんなすごく親しみをおぼえる人たちばかりで、他人事 としては読めなかったな。ここまでスリランカを身近に感じるなんて、驚き。 | |
グサッとくるラストも用意され、すごくいい本でした。オススメ! | |