=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「生埋め ある狂人の手記より」 サーデグ・ヘダーヤト (イラン)
<国書刊行会 単行本> 【Amazon】
現代ペルシャ語散文の領域で、最高の巨匠として知られたサーデグ・ヘダーヤトの7編の短編。 | |
単純に、イランの作家の本も読んでみようかいって読んでみた ら、これがビックリするぐらい良かったのよね。 | |
私は想像してたのとぜんぜん違ってたから驚いた。イランの 作家、題名は『生埋め』、きっとオドロオドロシイ、暗〜い感触の短編集だろうと身構えてたんだけど。 | |
たしかにホラーちっくな話が多かったんだけど、暗さや重さは ないのよね。フンワリした感触だったり、冷めた感触だったり。 | |
登場人物がどこか可愛らしかったり、のんびりしてたりして、 そのせいかスンゴイ怖いことが起きてるのに、牧歌的な雰囲気が漂ってるって作品が多かった。 | |
イランという地の風習や暮らしといった部分の描写が良かった し、なんといっても、心理描写がすばらしかった。とくに前半の3作品はビックリしたな〜。特に3つめの 「捨てられた妻」は凄すぎた。 | |
作者は名門の出で、ベルギー、フランスに留学したこともある という、イランの知識人の最高峰的な人。 | |
作品も、イランの異国情緒に西洋的なものの考え方が入りこ んでるって感じがしたよね。たとえば霊を書いてても、その存在を信じきってはいない冷静な作者の目が あったりして。 | |
翻訳者が入れてくれた註がよかったよね。町の名前とか、品 物の名前とかに、細かな説明をつけてくれてあって得した気分。 | |
<幕屋の人形>
フランスに留学中の青年メヘルダートは、故郷イランで婚約者が待つというのに、洋品店のショーウ ィンドーで偶然見かけたマネキン人形に強く心を惹かれてしまった。マネキンを手に入れ、夢中になる メヘルダートは、いつしか婚約者の存在を忘れていた。 | |
強迫神経症ぎみの青年の心理描写が、さりげなくも鋭く描写 された秀作だったよね。 | |
読んだあと、レンデルの『わが目の悪魔』を連想して、もし かしてレンデル作品からインスピレーションを得たのかしら、と思ったら、こっちの方がずっと前に書か れた作品だった。失礼しました。 | |
1930年代に、ここまで的確な心理描写をした小説が書けるなんてスゴイ。 | |
青年がそういう精神状態になったか、幼年時代からの育てら れ方とかもさりげなく挿入してあって、この作家の人間観察力がいかに秀でているかわかるよね。 | |
<タフテ・アブーナスル>
イランのタフテ・アブーナスルの丘で、シカゴのメトロポリタン博物館の発掘調査団の一人ワーナー 博士は、掘り出したミイラが身につけていた復活の儀式を記した羊皮紙を発見した。ミイラは復活を信じ、 儀式を行うワーナー博士らだったが……。 | |
これはね、ミイラが生きていた時代の話がちょっと入ってて、 それがまた良いのよ〜。 | |
倦んだ王スィムーイェと遊牧民の生娘ホルシードの出会い、良いよね。 | |
それにからむ現代の娘たちのあっけらかんぶりも、逆に新鮮だったよね。 | |
そうなの、「幕屋の人形」の婚約者の娘もそうだったけど、 いい男をつかまえて、結婚するってことに夢中になってるイランの娘たちが、愚かしくも可愛らしいのよね。 | |
<捨てられた妻>
いなくなった夫を捜しに、テヘランから夫の故郷まで旅をするザリーン・コラーの胸に去来するのは、 暴力を振いながら罵る母、幸せな恋愛から結婚、アヘンで高揚した夫の振う鞭の快感。 | |
これはもう絶品中の絶品。大絶賛しちゃう。世界中さがしても、 ここまで書ける作家はそうはいないんじゃないかな。 | |
ザリーン・コラーは母親の暴力に苦しめられた過去があり、 母親のことはものすごく憎んでるのに、夫に鞭で叩かれることには喜びを感じてるのよね。 | |
その辺のねじれた心理の描写がとにかく緻密だし、しかも正確 でリアル、で、さりげなく書かれてるの。 | |
それにしても、略歴を見た限りでは、エリートコースまっしぐ らな人生のこの作家が、ザリーン・コラーのような底辺に暮らす女性の心理をここまでリアルに描写できる んだろうね。それが不思議。 | |
<深淵>
無二の親友バハラームの自殺を嘆き悲しんでいるホマーユーンのもとに、バハラームの遺書が届いた。 すべての遺産をホマーユーンの娘に譲るという。驚き、娘の顔を見たホマーユーンは、すべてを悟った。 | |
これはまあ、ありきたりといえばありきたりな悲劇。 | |
悲惨すぎる結末にホマーユーンがとった行動は、欧米の 小説にはないパターンでしょ。しっかりオチのきいた作品でした。 | |
<ヴァラーミーンの夜>
霊の存在を信じる妻ファランギースと、スイスで西洋的な考えを身につけ、霊の存在を否定する夫ファ リドゥーンは、心から愛しあっていたが、ファランギースが亡くなってしまう。死を前にしてファランギー スは、死後、夫に霊の存在を教えると約束したが……。 | |
この作品を読むまで、イランって男尊女卑の国だと思いこん でました。偏見ふっとんだ。おそろしくも美しい物語でした。 | |
イランの楽器タールが効果的に使われてて、愉しめたな。 | |
<生埋め ─ある狂人の手記より─>
フランス、パリの街の自室で、自殺願望を持つイラン青年はひたすら悩みつづけ、独白する。 | |
これは、ほかの作品にない一人称で、青年がひたすらしゃべり 続けてるって内容だから、説明はしづらいよね。 | |
なんかスゴク悩んでます(笑) | |
<S.G.L.L.>
画家のスーサンを愛しつづけながらも、プラトニックに徹するテッド。二人が見ていたテレビでは、 性欲を消し去る薬が発明されたことが告げられていた。 | |
これはSFだよね。地球のために人類の根絶が決められた 世界に住む、芸術家のカップル。 | |
退廃ムードが漂ってたよね。それにしても、よくまあ作品ごと にこれほど作風を変えられること! 同一の作家が書いたとは思えなくなってくる。 | |