すみ=「すみ」です。 にえ =「にえ」です。
 「ガラパゴスの箱舟」 カート・ヴォネガット (アメリカ)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
1986年、ガラパゴス諸島遊覧の豪華客船バイア・デ・ダーウィンの処女航海は、世界を見舞った 驚異的な経済危機のため、中止されようとしていた。予定されていた乗客たちがほとんどキャンセルする なか、たった6人の乗船予定者だけが、ホテル・エルドラドに宿泊していた。そこに戦争、そしてそのあ とに疫病と続き、人類はまさに滅亡の危機を迎えた。百万年後、カンカ・ボノ族の6人の少女を加えたバ イア・デ・ダーウィンの乗客が新たな人類となる。
にえ いきなりですが、これはちょっとダメかな(笑)
すみ ダメと言うには惜しい良さはあると思うよ。ただ、構成に 懲りすぎたかなという気はするけどね。
にえ どう懲りすぎなのか、説明するのは簡単だよね。まず、登場 人物。バイア・デ・ダーウィンの乗客は、実業家アンドルー・マッキントッシュとその盲目の娘セリーナ、 コンピュータの天才の日本人ゼンジ・ヒログチとその身重の妻ヒロコ、退職した女教師のメアリー・ヘップ バーンと、結婚詐欺師のジェイムズ・ウェイト。
すみ それに客じゃないけど船長が入るよね。
にえ で、アンドルーとゼンジは出航前に亡くなり、船に乗るのは 残りの3人の女性に、船に乗ってすぐ死ぬジェイムズ、そして男としては唯一生き残る船長。
すみ あと、ヒロコのお腹にいる女の子、それに6人のカンカ・ボ ノ族の少女。このメンバーで、新人類となる子孫を残していくのよね。
にえ いきなりこんなふうに紹介されると、おいおい、ネタバレはま ずいだろ〜とビックリしちゃうよね。でも、この本はいいの。
すみ そういう先のことまで全部、冒頭で紹介されちゃってるんだもんね。
にえ ご丁寧にも、先になって亡くなる予定の登場人物の名前の前に は、「*」みたいな印までつけてある。
すみ そう、「そのとき、*アンドルー・マッキントッシュは」ってかんじで、 文章中にずっと印が入ってるのよね。そのたびに、この印はもうじき亡くなる人につけてある、なんて説明まで添えて(笑)
にえ で、なんと船が出航するのは残り150ページぐらいになった、 230ページになってから。それまではひたすら登場人物の過去やら未来やらの説明。
すみ その間、進む時間はほんのチョビっとずつなのよね。
にえ 大部分が、こいつはこんな人生を歩み、この船に乗ることに なった、その後、あんなことをして、こんなことをして、こうなるって説明。
すみ でも、それが読んでるうちに快感になってくるっていうか、 それなりにおもしろくなってこない?
にえ う〜ん、発想はおもしろい、人間の脳が多すぎるって主張が あって、それもおもしろい、でも、こうも過去と未来の反復話ばかりでは読んでてちょっとダレる。
すみ 飽きさせないユーモアもたっぷり含まれてたけどね。たとえば、 ゼンジの発明した通訳機マンダラックス。オマケの機能があって、言葉を入力するとしゃれた文章を引用し てくれるの、それが場面と微妙にずれてて、おかしかった。
にえ ああ、あれはおもしろかった。シェークスピアとか、バイロン とか、いろんな人の言葉を引用するのよね。
すみ たとえば、この人類が滅亡するかって非常時に、マンダラック スが選んだ文は、「歴史のない国は幸福だ。(チェザーレ・ボネサーナ 1738〜1794)」
にえ そう、ヴォネガットのユーモア精神は健在なのよ。これで普通に 話が進行してくれてたら、私だって大満足だったんだけど。
すみ まあね〜。前に読んだ『青ひげ』は、これのあとに書かれてる 本で、やっぱりちょっと前後させるような記述があったけど、ここまでひどくなくて、もっとストーリーを楽しめたよね。
にえ 寓話的な雰囲気が漂ってて、余韻を残す話で、悪くはなかっ た。ただ、読んでるあいだに退屈してしまった。
すみ ヴォネガットはあとで書いたエッセーで、この本を自 分の最高傑作として挙げてるみたいよね。既存のヴォネガットファンの人にはどうなんだろう?
にえ この本が好きって人も多いと思うよ、私がダメなだけで。でも やっぱり、最初に読んだヴォネガットがこれじゃなくてよかった(笑)