すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「冬の夜ひとりの旅人が」 イタロ・カルヴィーノ (イタリア)  <筑摩書房 文庫本> 【Amazon】
男性読者は買ったばかりの、イタロ・カルヴィーノの『冬の夜ひとりの旅人が』を読みはじめた。 ところが、その本は乱丁本、どこまで読んでも同じページの繰り返し。しかも、本屋に持っていってみると、 その先に進まない小説は、『冬の夜ひとりの旅人が』ではなく、ポーランド人作家タツィオ・バザクバルの 『マルボルクの村の外へ』だということがわかった。更に調べてみると、消えてしまったチンメリア国の 詩人ウッコ・アフティの『切り立つ崖から身を乗り出して』かもしれないという疑いも出て、チンブロ人民 共和国の作家ヴォルツ・ヴァリャンディの『風も目眩も怖れずに』かもしれないとも言われ……。 男性読者は謎の女性読者に翻弄されつつ、つながる本の秘密をたぐっていく。
にえ 不思議な印象の本だったよね。
すみ うん、主軸のストーリーも、ウネウネとうねっていくみたい だったし、それに10の最初の部分だけの小説が加わって、それがまたつながってないようでつながって て、ホント不思議世界に翻弄された。
にえ 主軸のストーリーと作中作の小説が、変わりばんこに入っていくのよね。
すみ 作中作の小説は、みんな途中で止まっちゃうんだけど、それが またどれもおもしろかった。
にえ 作家の国籍もバラエティーに富んでるのよね。謎のチンメリア 国にチンブロ人民共和国、ポルトガル、スペイン等々、それに日本人作家タカクミ・イコカの純和風小説まであったよね。
すみ あとがきによると、ビュートル、ギュンター・グラス、ボル ヘスなんかのパロディーになってるらしいけど、読んでるあいだは気づかなかった〜。
にえ 日本人作家はだれのパロディーなんだろうね。どっかで読んだ ような雰囲気があったけど。あの人かな?(笑)
すみ 読みかえして、これがあの作家か、なんて探って、そういう楽 しさもあったよね。
にえ 作中作の他に、ドストエフスキーの『罪と罰』の書き出し部分 まで出てきたよね、ビックリ。
すみ 主軸のストーリーがこれまた摩訶不思議。
にえ 本屋に行って、出版社に行って、文学を研究してる大学教授に 会いに行って……、どんどん進んでいっても、謎はからまるばかりで、本、本、本の洪水。
すみ あやしげな出版社とか、消えた国チンメリアとチンブロのつな がり、読む本を規制された不思議な国家、舞台はコロコロ変わって、目が回りそうだしね。
にえ 登場人物も、覆面作家や偽翻訳家に、じつはこの人の正体はこ の人?!みたいな騙し絵みたいな人たち満載で、必死でついていかないと振り落とされそう(笑)
すみ それにさらに、余韻を楽しむ隙も与えない、迫ってくるような ウネる文体でしょ、圧倒されるよね。
にえ 圧倒されつつ、やたらと話しかけてくるから、ちょっとニヤけ たりもして読んだよね。
すみ うん。あなたは今、こうやって本を読んでるんだろう、 あなたはこう思っているだろうって、スンゴイ勢いで話しかけてくるのよね。それが微妙なところを ついてて、くすぐられてるみたいな可笑しさがあった。
にえ それでね、男性読者と一緒に本の謎を追いかけてるあいだに、 理想的な読者ってなんだろう、自分はどんな読者なんだろうって考えちゃうよね。
すみ 女性読者が、私はこういう本が好きって何度も言葉をかえて いくうちに、じゃあ私はどんな本が好きなんだろう、なんてふと考えちゃうしね。
にえ けっこう濃い文章だから、本をあんまり読まない人だと、読む のがしんどいだけの小説になってしまいそうだけど、本が好きな人なら、とっても楽しめる本なんじゃないかな。
すみ 作中作の満載に、本の秘密、これはそそられるでしょう。
にえ ちなみに、私たちは知らなかったけど、お亡くなりになったと きにはアップダイクが追悼文をよせるほど、国際的に有名な作家さんだそうです。
すみ 翻訳されてる著作も多いしね。私たちもこれからもっと読んでいきましょう。