=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ワインズバーグ・オハイオ」 アンダスン (アメリカ)
<講談社 文庫本> 【Amazon】
オハイオ州にある小さな町アンダスン、おちぶれたホテルの息子ジョージ・ウイラードは、地方紙「 ワインズバーグ・イーグル」の新聞記者だった。アンダスンの住人である老人、医師、女教師、商店主らは、 彼を訪ね、心の底を少しだけ吐露する。 | |
短編集かと思ったら、一つのつながった小説だったのよね。 | |
うん、全部で25の章に分かれてて、ぜんぶ題名がついてる、 それぞれ話がまとまってるから短編集ともいえるけど、同じ舞台で、同じ登場人物が出たり入ったりするし、 ジョージ・ウイラードという核になる人物がいるから、やっぱり一つのつながった小説だよね。 | |
で、25章のそれぞれは、ワインズバーグの住民のうちの一人 ずつの人生が紹介されてるの。 | |
みんな共通点があるよね。 | |
うん、まず少しだけ歪んでる。生まれつきとか育ち方、 両親が見せてきた姿勢などで、ちょっとずつ歪んで、いじけたような印象のある人たち。 | |
最初の章の題名が『グロテスクなものについての書』って あるから、ものすごくグロテスクな人たちを想定して身構えちゃったけど、グロテスクではないよね、 ちょっと歪んだ、ごく普通の人。 | |
しょうがないのよね。母親の愛情が足りなかったり、父親が 支配的だったり、だれもが完璧な家庭で育ったとは限らない。 | |
そうやって、ちょっとずつ歪んで育った人たちは、なにかの 才能があったり、夢があったりするんだけど、結局は時代に取り残されて敗北を味わい、人とうまくつき あえずに孤独を噛みしめてる。 | |
親に逆らって結婚してみたけど、思い通りの家庭は築けなか ったり、画家になろうとしたけどなれなかったり、牧師なのに性欲を押さえきれてなかったり。 | |
人生に失敗したっていうより、自分自身が強く敗北を感じてる 人たちってかんじだよね。 | |
そうして、田舎町ワインズバーグで暮らしてるのよね。 出ていけなかったり、出ていきそこねたり、よそから逃げてきたりして。 | |
そんな人たちの中心にいるのが、ジョージ・ウイラード。 まだ絶望しきってない青年。 | |
真っ白い紙みたいな青年だよね、あんまり特徴がなくて、 たぶんだれが読んでも、あまり共感は持たないと思う。 | |
うん、真っ白い紙みたいな青年だからこそ、住人たちは辛く なって、だれにでもいいから何か叫んでみたくなったり、ちょこっと利用したくなったときに彼を訪ねる のよね。 | |
あと、もっと年老いてる人は、自分の失敗を踏まえて、 こう生きろ、ああ生きろと指示したくなっちゃうみたい。 | |
そういうジョージ自身も、父親はホテル経営の失敗をさし おいて政治に夢中、母親は失望の連続で、老けこんで病弱だったりするんだけどね。でもまだ歪んでは いない。 | |
あとがきによると、アメリカが手工業から機械工業に移って いく過渡期に、とり残されてしまった人々の悲哀を書くのが、このアンダソンって作家さんの特徴らしい けど。 | |
今だって、人生がなかなか思い通りにいかないのは同じ。 遠い昔の話を聞かされてるっていうより、登場人物一人一人の落ちていくような人生には、他人事でなく 身をつまされるよね。だからアメリカでもずっと読みつがれているんだろうな。 | |
ただ、孤独感は強烈で独特。そこに不思議な感触が残るよね。 | |
そう、みんな相手に会ったらああ言おう、こう言おうと考えて るんだけど、ほとんどの場合が、会うとなにも言えなくなっちゃうし、二人で会話をしていても、一方的に 片側がしゃべるばかりで、会話として成立してなかったり。 | |
エゴイスティックな孤独感とはまた違って、自分のなかで熟成し すぎちゃって、言葉では表せなくなった悩みに押し潰されちゃってるみたい。 | |
理解し合うことを最初から放棄しちゃってるようにも見える。 | |
ものすごく内向的な人たちだよね。会話をするにしても、3人、 4人で話すシーンなんて一度もなかった。家庭内であれ、パブであれ、話すときは1対1だし。内容も、 話し合ってるというより、頭のなかで会話してるみたいで、やりとりってものがないし。 | |
それにしてもホント、アメリカ文学って常に孤独がテーマだよ ね。欧米とひとくくりにされるけど、ヨーロッパでは、これほど孤独、孤独ってことはないよね。もっと 人と人がつながってる。 | |
アメリカは移住民の国だから、孤独感が強いんだろうね。 | |
不思議な淋しさをたたえた小説でした。ちなみに、こういう 形態をとった小説は、これが最初なんだそうな。 | |