すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ワインズバーグ・オハイオ」 アンダスン (アメリカ)  <講談社 文庫本> 【Amazon】
オハイオ州にある小さな町アンダスン、おちぶれたホテルの息子ジョージ・ウイラードは、地方紙「 ワインズバーグ・イーグル」の新聞記者だった。アンダスンの住人である老人、医師、女教師、商店主らは、 彼を訪ね、心の底を少しだけ吐露する。
にえ 短編集かと思ったら、一つのつながった小説だったのよね。
すみ うん、全部で25の章に分かれてて、ぜんぶ題名がついてる、 それぞれ話がまとまってるから短編集ともいえるけど、同じ舞台で、同じ登場人物が出たり入ったりするし、 ジョージ・ウイラードという核になる人物がいるから、やっぱり一つのつながった小説だよね。
にえ で、25章のそれぞれは、ワインズバーグの住民のうちの一人 ずつの人生が紹介されてるの。
すみ みんな共通点があるよね。
にえ うん、まず少しだけ歪んでる。生まれつきとか育ち方、 両親が見せてきた姿勢などで、ちょっとずつ歪んで、いじけたような印象のある人たち。
すみ 最初の章の題名が『グロテスクなものについての書』って あるから、ものすごくグロテスクな人たちを想定して身構えちゃったけど、グロテスクではないよね、 ちょっと歪んだ、ごく普通の人。
にえ しょうがないのよね。母親の愛情が足りなかったり、父親が 支配的だったり、だれもが完璧な家庭で育ったとは限らない。
すみ そうやって、ちょっとずつ歪んで育った人たちは、なにかの 才能があったり、夢があったりするんだけど、結局は時代に取り残されて敗北を味わい、人とうまくつき あえずに孤独を噛みしめてる。
にえ 親に逆らって結婚してみたけど、思い通りの家庭は築けなか ったり、画家になろうとしたけどなれなかったり、牧師なのに性欲を押さえきれてなかったり。
すみ 人生に失敗したっていうより、自分自身が強く敗北を感じてる 人たちってかんじだよね。
にえ そうして、田舎町ワインズバーグで暮らしてるのよね。 出ていけなかったり、出ていきそこねたり、よそから逃げてきたりして。
すみ そんな人たちの中心にいるのが、ジョージ・ウイラード。 まだ絶望しきってない青年。
にえ 真っ白い紙みたいな青年だよね、あんまり特徴がなくて、 たぶんだれが読んでも、あまり共感は持たないと思う。
すみ うん、真っ白い紙みたいな青年だからこそ、住人たちは辛く なって、だれにでもいいから何か叫んでみたくなったり、ちょこっと利用したくなったときに彼を訪ねる のよね。
にえ あと、もっと年老いてる人は、自分の失敗を踏まえて、 こう生きろ、ああ生きろと指示したくなっちゃうみたい。
すみ そういうジョージ自身も、父親はホテル経営の失敗をさし おいて政治に夢中、母親は失望の連続で、老けこんで病弱だったりするんだけどね。でもまだ歪んでは いない。
にえ あとがきによると、アメリカが手工業から機械工業に移って いく過渡期に、とり残されてしまった人々の悲哀を書くのが、このアンダソンって作家さんの特徴らしい けど。
すみ 今だって、人生がなかなか思い通りにいかないのは同じ。 遠い昔の話を聞かされてるっていうより、登場人物一人一人の落ちていくような人生には、他人事でなく 身をつまされるよね。だからアメリカでもずっと読みつがれているんだろうな。
にえ ただ、孤独感は強烈で独特。そこに不思議な感触が残るよね。
すみ そう、みんな相手に会ったらああ言おう、こう言おうと考えて るんだけど、ほとんどの場合が、会うとなにも言えなくなっちゃうし、二人で会話をしていても、一方的に 片側がしゃべるばかりで、会話として成立してなかったり。
にえ エゴイスティックな孤独感とはまた違って、自分のなかで熟成し すぎちゃって、言葉では表せなくなった悩みに押し潰されちゃってるみたい。
すみ 理解し合うことを最初から放棄しちゃってるようにも見える。
にえ ものすごく内向的な人たちだよね。会話をするにしても、3人、 4人で話すシーンなんて一度もなかった。家庭内であれ、パブであれ、話すときは1対1だし。内容も、 話し合ってるというより、頭のなかで会話してるみたいで、やりとりってものがないし。
すみ それにしてもホント、アメリカ文学って常に孤独がテーマだよ ね。欧米とひとくくりにされるけど、ヨーロッパでは、これほど孤独、孤独ってことはないよね。もっと 人と人がつながってる。
にえ アメリカは移住民の国だから、孤独感が強いんだろうね。
すみ 不思議な淋しさをたたえた小説でした。ちなみに、こういう 形態をとった小説は、これが最初なんだそうな。