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10 やり残した事を、しなきゃならない。 俺はあいつの友達だから。 寺元仁(男子7番)は、周囲に気を配りながら、川岸を歩いていた。結構高い、急な土手になっているために、周りからは見えないはずだった。それでも、周りに誰かいないかと、注意しながら歩く。“プログラム”が始まって、桜井の放送が流れてから、もうずいぶん時間が経ってしまっていた。緊張しながら歩くのは、思ったより時間がかかる作業だった事。それに、歩き出す前にずいぶん時間を使ってしまった事も、原因のひとつ。 晃―― 12時の放送で、桜井亜沙子が言った事。あの言葉が受け入れられずに、頭も心も、どうにかなってしまいそうだった。いつだって一番近くにいた、親友である早川晃が。出発前に“やる気”だと、そう宣言したあの彼が。 今はもう、この世にいないという事実…… 何が起こったのかも分からない。一緒に、死んだ(その言葉を使う事すら、仁にはためらわれたけれど)吉田大介と、何かあったのだろうか。 晃と大介の仲が悪かったようには思えなかった。だけど、今、この状況でクラスメイトに出会ったら?相手を信用出来るかどうかなんて分からない。それに晃は…… 仁は目を閉じた。眉間にしわが寄っているのが、自分でも分かる。 晃は、“やる気”だったんだ…… 彼を、止められなかった自分。例え晃を傷付けても、彼を止める決心をしたというのに、出会う前にこんな事になってしまうなんて。 何も出来なかった自分に嫌気がした。思わず、川岸にたくさん転がっている、砂利を蹴る。音が立つ事なんて、分かっていたはずなのに。 「誰だっ!?」 何の為に気を配りながら歩いていたのか。仁は自分の軽率な行動に、心の中で舌打ちしながら、声のした方を見た。思わず、“武器”――プラスドライバーを持っていた手に力が入る。こんな物で何か出来るとは思わなかったが、何も無いよりはマシのように思えた。 「……寺元か」 声の主は、すぐに仁の前に現れた。警戒心を抱いていないわけではないだろうが、仁になら勝てるとでも思ったのかもしれない。たとえば、強力な武器を持っているとか―― 「加藤……」 仁も思わず、彼の名を呼んだ。加藤清(男子4番)。石塚弘之(男子2番)や、戸津川麻里(女子5番)を、大介と共にからかっていた、クラス内のいじめっ子のような存在。 一瞬、仁と清の間に沈黙が訪れる。 お互いに、また思い出してしまったのかもしれない。今はもういない、彼らの親友、晃と大介の事を。清と大介は、本当に仲が良かった。ただつるんでいるだけの様にも見えたが、きっと気が合っていたのだろう。仁と晃のように。 仁はドライバーを持つ手の力を緩めないまま、清の正面に立つ。 「早川の奴、死んだんだな」 清はそう言って、仁の目を見つめた。どういう反応をするのか、伺っているようにも思えた。それによって、見極める気だろうか。仁が“やる気”なのかどうかを。 「……ああ」 認めたくはないが、頷いた。きっと清も、仁と同じ気持ちなのだろうから。親友の突然の死を信じられずに、それでも受け入れなければいけない。 「自業自得なのかもな」 「……ああ」 そうなのかもしれないと、仁は思った。清の言う通り。晃が死んだのは、誰かの返り討ちにあったせいなのかもしれない。それはきっと、自業自得というもの。 「吉田は……」 「大介は、“やる気”になんてなったりしねぇ。誰かに殺されたんだ」 清はきっぱり言い切って、強く拳を握った。親友である大介が誰かに殺された事を、怒っているのだろうか。 それとも、そういう演技をしているだけか? 仁は、そう思いながら清を見ていた。「クラスメイトを疑うなんて」と、仁の友達である保崎直人(男子9番)なら言うかもしれないが、そんな綺麗事は言っていられない。それが現実だ。こんな状況なのだから。 清の、意思を込めた強い目が、仁を射抜く。殺気にも似た、強い意志。 「俺は、大介の死体を見た」 「吉田の!?一体どこで――」 仁自身は、大介の死体を見る事はなかった。最後に教室を出た彼は、誰かの待ち伏せに備えて、校舎裏の窓から外に出たのだから。 「昇降口を出た所だ。よく分かんねぇけど、血を吐いたみてぇだった。外傷はなかったから、毒とかかもしんねー」 清は、自分が見て来た事、調べた事を淡々と伝える。どうやら清は昇降口から出て、そこで大介を見つけたらしい。死因を調べるほど、心に余裕があったのか。それとも、悔しかったのか。または、他の何かなのか。仁には分からなかったけれど。 「毒?そんな武器もあるのか?」 自分のドライバーを見つめて、仁は言った。そういえば、どこかで銃声も聞いたような気がする。一発ではない、何発もの銃声を。あれは何だったのだろうか? 「だとしたって、どうやってそれをくらったかの方が問題だろ」 清の言葉に、仁はハッとする。そう言われてみればそうだ。銃やナイフと違って、毒というものは、体内に入れるか、皮膚から吸収するかしかないのだから。少なくとも、仁にはそれしかないように思えた。けれど、本当に服毒死なら、自殺と考えるのが妥当ではないだろうか。いや、自分よりも大介の事をよく知っている清だからこそ、殺されたと言い切ったのだろう。 「寺元は、これからどうする気だ」 「……加藤は?」 自分の意見を先に言わない方が良いような気がして、仁は答えずに質問を返した。 清は一瞬遠い目をして、ズボンのポケットに手を入れる。 「っ!?」 仁は思わずドライバーを構えそうになった。ポケットから武器を取り出す可能性は、充分に有り得たのだから。 「……どうしても、会わなきゃいけねぇ奴がいる」 清の手が、ポケットの中から出てこないのを見て、仁の頭の中に、古い記憶が蘇る。 ああ、そうだった…… 仁は、ずっと強く握っていたドライバーを、肩にかけていたデイパックのポケットにそっとしまう。 加藤は昔から、言いにくい事を言う時、ポケットに手を突っ込む癖があったんだ。 そんな癖も忘れて、彼に警戒心を抱いてしまった自分が、嫌な奴に思えた。それが、この状況での、当然の判断だと誰もが言ったとしたって。 そんな事を考えていたら、頭上から音がした。その音は、この町で暮らしていてもたまに聞く、ヘリの音で。仁と清は同時に空を見上げ、自分の耳が確かである事を知った。学校の方から飛び立っていくヘリ。清はそれに見覚えがあった。大介が倒れていた昇降口のすぐ側に、三機ほどあった、あのヘリと同じ物。政府の連中の物である事は、すぐに予想がついたけれど、あれを今運転しているのが政府連中であるとは限らない。もっとも、あのクラスにヘリを運転できるような人間がいるとは思えなかったが。 「俺は、脱出するつもりだ」 そのヘリの事には触れず、仁はきっぱりとそう言った。今のヘリを見て、決心したのだとも言える。こんなゲームに、いつまでも付き合っている気はなかった。 「脱出?」 「可能だと思ってる」 「……お前、ずる賢い奴だったしな」 清の言葉に、仁は苦笑する。そんな風に思われていたのか、ずっと。 「まっ、否定はしないけどな」 ニヤッと笑う仁を見て、清は、少しだけ何かを考えていたようだが、決心したようにデイパックを開けた。 「それなら、これ、やるよ。俺には大して必要ねぇから」 清が取り出したのは、スタンガンだった。スイッチひとつで、電気が流れるという、あの。彼の支給武器らしいが、それを仁に渡すと言うのだ。 「お前の方が必要なんじゃないのか、加藤――」 「さっさと受け取れよ。時間の無駄だ」 そう言って、スタンガンを持った手を仁に向ける。仁は、清が引く事はないだろうと思ったので、仕方なく頷いた。彼の好意は受けておこう。 近付いて、手を伸ばす。 そして、空に爆発音が響いた。 【残り17人】 |