ヤキモチ

 

 

 彼はかっこいいのだと、思う。女の子達が騒ぐのも分かるし、それに応える姿だって様になっている。この試合の後も、また女の子達から誘いがあったりするのだろう。告白なんか、されるのかもしれない。

 ――あ、また入れた。

 常に余裕の表情で、辛さなんか感じさせない男。三村信史。あいつが、俺と恋人同士である事は間違いない。まあ、周りには内緒だけど。

 だから、どんなに可愛い女の子が三村を好きになっても、三村が応じない事は分かってるんだ。分かってるんだけど――

「キャァァー!三村くーん!!」

 ――やっぱり、気に入らない。

 

 

 

 今日の放課後は、バスケ部の練習試合があった。他校の生徒がやって来て、試合をしていたのだ。もちろん、信史が活躍しないはずはない。そして、当然のごとく、圧勝。

 更衣室は他校の生徒が使っているので、信史は教室で着替える事にした。他の部員はそこらで着替えているのだろうが、信史はそれをしない。と言うより、出来ないのだ。

 彼の恋人が、信史が他の奴に体を見せる事を嫌うから。

 教室には、ちゃんと秋也の姿がある。唯一、信史の体を見る権利のある人物。

「何拗ねてんの、お前」

 試合が終わって、これから一緒に帰るというのに、むくれている恋人の顔を見て、信史が言う。体に残る疲労も、恋人の顔を見れば吹っ飛ぶはずだったのに。

 何が気に入らなかったのか、秋也は少し、頬を膨らませていた。

「何?俺、かっこよくなかったか?」

(やっぱ最後はダンクで決めるべきだったかな)

 そんな事を考える信史に、秋也はムッとしたまま答えた。

「逆。三村ってかっこよすぎるんだよ。だからあんなに女の子達が騒ぐんだ」

 言われてみれば、今日も女の子達は自分を見て騒いでいた気がする、と信史は思う。そんな事はしょっちゅうだったし、大して気にはならなかった。信史の目には、たった一人しか映っていないのだから。

「なんだ、妬いてんのか」

 少し嬉しそうに、信史は言った。

 試合の後の秋也はいつもこんな感じだ。他の学校の女の子達にまで騒がれるもんだから、気が気でないらしい。

「だって、三村は俺のなのに」

 ちょっと拗ねながら言った秋也を、信史は思わず抱きしめる。その仕草が可愛くて仕方なかった。

「七原ー!」

 気持ちが通じ合ってからの秋也は、すさまじいまでの独占欲を信史に見せた。

 信史にはそれが少し以外だった。どちらかというと、独占欲は自分の方が強いと思っていたからだ。

 だが、実際には全くの逆。信史が他の女の子と会話すると不機嫌になるし、豊が冗談で信史に抱きついたりしようものなら、本気で怒る。

 それでよく二人の関係がばれないものだと、信史は少し不思議に思っていた。

 だが、信史は秋也のそういうところが嫌ではなかった。他の、例えば以前付き合っていた女の子に同じ事をされたらうっとおしかったかもしれないが、それが秋也となると、むしろ嬉しい。

「三村、汗臭いー」

 秋也は文句を言うが、嫌そうな顔はしていない。

「七原が可愛い事言うからだろ?妬くなよ。俺にはお前だけなんだから」

「知ってるけどさぁ……」

 それでも、嫌なものは嫌なのだ。自分でも我が儘だと分かっているけれど。

「また告白とかされるんだろ?嫌なんだよ、そういうの」

「誰が何を言っても、俺には七原しか見えないんですけど?」

 信史は、まだ少し機嫌の悪い秋也の頬や額に軽くキスをしながらなだめる。

「分かってる、けど……」

 キスが首筋にまでされて、秋也は少しだけ体を震わせた。

 信史は少し強く秋也を抱いて、耳元でささやく。

「じゃあ、公表して良い?俺は七原と付き合ってますって」

 内緒にしたいと言ったのは秋也だった。こんな事で注目されて信史のファンが増えたら嫌だから、と。

 そこには、この異常かもしれない関係に対する、罪悪感みたいなものがあったのも事実だが。

「――いいよ」

 少し考えて、秋也がそう答えた瞬間。信史は秋也の鎖骨あたりにキスをした。痛いくらいに吸い付かれて、真っ赤な痣が出来る。

「ッ……何……?」

「既成事実。七原、見えるとこにはつけさせてくんなかったじゃん?」

 嬉しそうに笑いながら信史が言う。秋也はしばらく鎖骨あたりをさすっていたが、思いついたように信史に顔を寄せた。

 同じように、信史にもキスマークをつける。

「な、七原……!?」

 少し顔を赤らめて、信史はつぶやいた。まさかこんな事をされるとは思わなかったのだ。

「これで明日からちゃんと恋人、だな」

 くすっと笑った秋也が可愛くて。信史は思わずうめいていた。

「――七原、ちょっと、俺、かなりやばいんですけど」

「え?ちょっ……三村っ!ここ学校だぞっ!」

 信史が言った事の“意味”に気付いて、秋也は慌てる。

「もーいいじゃん?誰も見てないって」

「だからって、おいっ!みむ……」

 

 

 

(忘れ物、したんだけど……)

 中川典子は、自分の教室の前で足を止めていた。明日までのプリントを、珍しく机の中に入れっぱなしにしてしまったのだ。自分らしくもない。

 気付いたのが家に帰ったあとだったので、戻ってきたらこんな時間になってしまった。

 ところが。

 教室の中から聞こえる、吐息のような、かすれた、甘い声。

「……」

 それが何かは分かったが、特に邪魔する気はないらしく、典子はそのままユーターンして行った。

 

 

 次の日、信史と秋也の噂は「何故か」学校中に広まっていた。

 それが、初めて「宿題を忘れる」という行為をとらざるを得なかった者の、ささやかな復讐である事に、二人が気付く日は――

 来ないかもしれない。

 

 

END.



キユリさまに捧げた小説、第2弾。
7月3日、73の日という事で、信史を好きでたまらない秋也を書きたかったみたいです。
結局は37になるんですけどね。37スキーだし(笑)
実際は三村の方がヤキモチ妬きのような気もしますけど…(独占欲強そう)
こんな七原もアリかな、と。
ポイントは典子サン(笑)
37+覗きって、萌えですよね?

これも修正かけました(2・3)