別れ

 

 

 ダムッ

 音が、響いた。ボールのはねる音。誰もいない体育館で。

 いや、正確にはそこに、2人の男がいたのだが。

 ボールが、ネットの中を通った。パサッと音がして、ボールは転がった。

 体育館の入り口で、退屈そうに壁に寄りかかっている男――七原秋也は、転がってきたバスケットボールを拾い上げ、指の上で回して見せる。

 

 はいはい。お前がうまいのは分かってるからさ。もういいよ。俺は退屈なんですけど?

 第一、用があるとか言って呼び出したのはお前じゃなかったのか?

 もう部活は終わったんだろ?何でお前はまだ着替えもせずに一人でバスケなんかやってるんだよ?

 

 そして、何でそれを自分は見ていなければならないのか。秋也は何かを言いたげな表情で、彼を見ていた。

 そこに、ゆっくりと歩いてくるのは、クラスメイトであり、バスケ部のエースで、“第三の男”とも呼ばれる、三村信史だった。

 信史は口元に笑みを浮かべ、右手を秋也の方に伸ばす。

 

 ――返してくれよ、それ。まだ、続けたいんだ。

 

 信史がそう思っているのを、秋也は手にとるように分かった。

「お前さ――」

 秋也はボールを差し出しながら不満そうに言葉をつむぐ。

 だが、信史はその言葉を聞こうともせず、またゴールに向かって走り始めた。

(……あのな……)

 こんな事ならさっさと帰れば良かった。慶時を先に帰らせて、部活が終わる時間まで待ってやったというのに。

 帰るチャンスなんかいくらでもあったし、待っててやる必要もなかったかもしれない。どうせ明日も学校で会うんだ。

(そうだ。明日だって良いじゃないか。何で俺は待ってたんだ?)

 ――それは、用があると言った時の信史の顔があまりに真剣だったからなのだが(そんなに大事な用なら部活を休めばいいと秋也は思った)、待っている間にそんなことは忘れてしまった。

「おい、三村!」

 今度は少し大きめに、秋也は声を上げる。信史の目が一瞬、秋也を捕らえた。

 

 ちょっと待ってろよ、もう少し。七原、せっかちなんじゃないか?

 カルシウム不足で苛々してるとか。あ、でもお前の場合、いつもかな。

 

「帰るぞ!」

「――七原」

 信史はやっと足を止め、初めて秋也に声をかけた。

(何だ、こんな事で止まるなら、さっさと言えば良かった)

 秋也は、信史がパスしたボールを受け取り、壁から離れた。信史のあごから、汗が落ちる。

 

 珍しいじゃないですか、三村クン。そんなに一生懸命スポーツをするなんて。

 ここには黄色い声をあげる女子なんかいないんだぜ?

 

 いや、確かに部活中はいただろうが(そのために部活に出たのか?)、今はもう皆帰ってしまっている。

「お前さ、高校決めたか?」

「は?」

 思いがけない言葉に、秋也の思考回路が一瞬停止する。

 

 ……今なんて言いました?高校?俺達はまだ中三になったばかりじゃなかったっけ?

 いや、真面目な委員長とか、典子サンとか、まあ、慶時くらいなら、そんな事を考えていてもおかしくないとは思うけど。

 お前、確か三村だよなぁ?高校なんて行く気あるのか?義務教育でもないのに?

 

「なんだよ、決めてないのか?」

 信史は呆れたように言って、秋也からボールを奪う。

「……お前は決めたのかよ?」

 ムスッとした、不機嫌そうな声。

 秋也の反応に笑いそうになりながら、信史はその場でシュートする。

「いや、決めてない」

 パサッ

 鮮やかにボールはゴールに入る。まるで吸い込まれたようだった。

 それを見て、秋也は、今日何度目かの溜息をつく。

 

 だったらなんなんだよ。何の話がしたいんだ、お前は。早く用件を言えよな。

 あぁ、くそ、腹が減ってるせいか?こんなに苛々するのは。いや、違うな。やっぱり三村のせいだ。

 

「高校なんて、人それぞれどこに行くか分からないだろ?それが俺達の分岐点でもあるわけだ。そこに、別れと、出会いがある」

「あ?……まあ、そうだな」

 

 そんな事、考えたこともなかった。三村はいつもそんな事を考えているんだろうか?

 

 でも、結局何が言いたいのか、秋也には分からなかった。

「何だ?お前、もしかして寂しいのか?その、“別れ”が」

 秋也はからかうように言った。それに対して信史は口元をゆがめる。

 肯定とも、否定とも取れる曖昧な笑みだった。

 果たしてこの男に寂しいなんて感情があるだろうか?誰とでも仲良くなれるようなこの男に?

 

 ……あぁ、でも、豊と離れるのは寂しいのかもな。確か小学校からの親友だとか言ってたっけ。

 俺も慶時と離れる時が来るんだろうか?いや、それはないだろう。ないと、思う。

 

「お前は?」

 信史がそう言ったので、秋也は慌てて考える。

 

 “別れ”ね……それって、今一緒にいる奴と離れるって事だよな。そりゃ、いつかはそんな日が来るとは思うけど……

 

「そんなの、本人達しだいだろ?高校が離れたって、会おうと思えばいつだって会える。別れたいと思わなきゃ、別れなんて来ないんじゃないか?」

 当たり前のように言う秋也に、信史は苦笑した。

 

 おいおい七原クン、君は大事なことを忘れてやしませんか。

 いや、忘れたままでいたいのか。俺達は中学三年生なんだぜ?そう、くそったれ政府のせいで、例の“プログラム”なんていういまいましいゲームに選ばれるかもしれないんだ。

 そうなったら、別れもくそもない。待っているのは、裏切りと、死だ。例え自分が望まなくても。

 

 信史は秋也の頭に手を置き、ぐしゃぐしゃっと頭をなでた。

「なんだよ!?」

 秋也が抗議の声をもらす。信史は笑っていた。

 さっきみたいな笑みじゃなく、今度はちゃんと笑っていた。

「いや、お前らしいなぁって思ったんだよ」

「何か、馬鹿にしてないか?」

「してない、してない。――んじゃ、ちょっと着替えてくるわ。待ってろよ」

 信史はそう言って、更衣室に消えていく。その背をしばらく見ていた秋也は、ハッと気付き、声をあげた。

「お前っ、まだ人を待たせる気か!?」

 

 待っていてくれるなら。

 待っている事が出来るなら。

 待っていれば来ることが分かっているのなら。

 それは――

 

 別れなど、来なければいい。ずっと……

 そんな事、望みはしないのだから。

 

 

To be continued…?

 

 

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 捧げ物ばっかりなのもなんなので…

 私が、バトロワを読んで一番初めに書いた駄文。

 シリーズ物…?

 続きを書こうかどうしようか、考え中…

 一応、書いてはあるんですが…(悩)

 もう少し修正してからにすれば良かったかな…