神様。俺は嘘をつきたくありません。

 だから、あいつを幸せにして下さい。

 俺の言葉が、嘘にならないように。

 あいつが、悲しまないように。

 でも、ただひとつだけ。

 あの言葉だけは……

 最後の瞬間まで、それだけを、願います。どうか――

 

 

「俺、好きなんだ。七原の事」

 まるで、好きな食べ物を告白するように三村信史は言った。

 ドサッと、鞄が落ちる音がする。

 信史は、じっと彼を見つめていた。

 

 学校の帰り道、信史が川原に寄ろうと言い出した。

 秋也は特に断る理由もないので、それに付き合った。

 草むらの中に信史は腰をおろし、秋也は川原の石を拾おうと、歩いていた、その時。

 背中からかけられた信史の言葉は、秋也にとって想像も出来ないもので。

 

 それはあまりに突然で、あっさりしていた、告白。

 思いもよらぬ告白を受けた男、七原秋也は、ぽかん、と、口を開けていた。

 ――告白?なのだろうか、これは。

「あ、あぁ。友達として、だろ?なんだよ、いきなり」

 びっくりしたなぁ、と、秋也は言い、落としてしまった鞄を拾う。

 少しだけ、心臓がドキドキしている気がした。

 友達としてなら、嬉しいに決まっている。

 何せ、三村信史はここだけの話、秋也が尊敬している人物でもあるのだから。

 頭が良く(その割に授業を受けるのは嫌いなようだが)、運動神経も抜群で(その辺りは自分も負けていないと秋也は思っている)、女の子にももてる(自分もそうだとは気付いていない)。

 性格に多少難ありとはいえ(「馬鹿言え、俺のどこに欠点がある?」と、信史は言うだろう)、これほどまでに完璧な男が他にいるだろうか?(いやいない)

「じゃなく。ちゃんと、恋愛感情として、なんだけど?」

 今度こそ、秋也はまともに顔を赤くした。

 信じられないという顔で、信史を見ている。

 信史はそんな秋也を優しい目で見ながら続けた。

「七原も俺の事好きだろ」

 その自信は一体どこから来るのか。

 秋也は何も言えなかった。

 いや、ただ、ひとこと。

「な、何で……?」

「あ?違ったのか?俺、そうだと思ってたんだけど」

 本気で残念そうに信史が言う。どこまでが冗談なのか分からない(信史はよく秋也をからかうので)。

「俺、女じゃないんだけど……」

 残念そうな信史の顔を見ても、そんな事しか言えなかった。

 それを聞いて、信史は一瞬目を見開いた後、可笑しそうに笑った。

「なんだよ、七原、俺の言ってる事分かってないのか」

「……」

 秋也は笑われた事に少しだけむっとして信史を見た。

 立ち上がり、自分に近付いてくる信史を見ながら、秋也は言う。

「じゃあ、お前ってホモだったわけ?」

 それなら、信史が特定の女の子と付き合おうとしないのも分かる。

 最初から女性に興味がないのなら。

「身も蓋もない言い方するのな、七原って」

 信史は苦笑して、まだ理解していない友人の頭を叩いた。

 秋也はその手を払い、「違うのかよ」と睨みつける。

「そうだな、違うな、うん。俺、七原だから好きなんだ。男が好きなわけじゃない」

 とんでもない告白ではないだろうか。

 秋也は自分の耳を疑った。

 つまり、信史は本気で自分を恋愛対象として好きだと言っているのだ。

「七原、まだ信じてないんだ?」

 目を丸くしている秋也を見て、信史は彼を覗き込むように言う。

「だって、そんなの……」

 おかしい、とは続けられなかった。

 信史の想いが本気ならば、傷付ける事になってしまう。

 嘘かもしれない。また、自分をからかっているだけかもしれない。

 それでも、本当だという可能性が1パーセントでもある限り、秋也にはその言葉を否定する事が出来なかった。

「じゃあさ……」

 信史が、ゆっくりと秋也の顔に唇を寄せる。

 こういう事に免疫のない秋也は、一瞬対応に戸惑ったものの、後ろに下がる事で回避する。

 だが甘かった。信史はそんな秋也の動きを読んだように、更に一歩足を踏み出す。

 掠めるように、信史の唇が秋也のそれに触れた。

「っ!?

 秋也の頭が一瞬だけ真っ白になる。

 最初に思ったのは、「アア、慣れてるな、こいつ」だった。

「気持ち悪かったか?」

「?――いや……別に気持ち悪くはないけど……驚いた――って言うか、いきなり何すんだよ!!

 思い出したように怒り出す秋也を微かに笑って、信史はもう一度唇を近づけた。

「三村っ!」

 秋也が制止の声をかける。

「嫌じゃ、ないんだろ?それって、七原も俺のこと好きって事だよな?」

 秋也は、信史が何を言ったのか理解できなくて、ぽかんと口を開ける。

 確かに、嫌ではなかった。

 信史が、自分を好きだと言った時も、今、キスをされた時も。

 それが、好きだという事になるのだろうか……?

 隙を作った瞬間に、再びキスをされて、秋也の意識は覚醒した。

「お前って、強引な奴……」

「あら、知らなかったの?七原君たら、いやねぇ。本気になったらしつこいわよ?あ・た・し♪」

 身をくねらせてそう言った後、信史が笑う。秋也も笑った。

「知ってるよ、そんな事」

 そう言って笑った。

「付き合ってみない?俺と。後悔させないし、俺なしでは生きていけないようにしてやるよ」

「すっげぇ自信」

「もちろん。俺を誰だと思ってるんだ?」

 信史の自信たっぷりな態度に、秋也は苦笑する。

 本当にそんな風になってしまうだろう自分が見えた気がした。

「嘘じゃないんだな?いつもみたいに」

「嘘じゃない。なんだったら誓っても良いぜ。三村信史は、一生七原秋也を愛し続ける事を誓います。そんで、ぜーったい幸せにしてやるって」

 それから、言葉を区切って秋也を見る。

「七原は?誓ってくれないの?」

「俺が?何で?」

「あー、ひでぇ!良いから言えよ。嘘でも良い」

「はいはい。じゃあ、三村が俺の気持ちを動かしてくれたら、な」

「そんなの――」

 簡単、と。信史は秋也の唇に口付けた。

 

 

 

 

 

 そうだな、ホント、お前の言った通り。

 俺は、お前なしでは生きていけないよ。

 生きていけないんだよ、三村……

 お前、嘘ばっかりだ。幸せにしてくれるって、一生愛し続けるって、そう言ったくせに。

 

 誓います。神様。

 俺は、一生三村信史を想い続ける事を誓います。

 だから、だから――

 

 

 彼を、返して下さい――

 

 

END


37にとって、避けては通れないもの。
それが、プログラムであり、三村の死です。
それは変えることの出来ないもので、生きていてくれたらって、何度も思うけど。
37が萌えるのは、きっとその三村の死があるからだと思うのです。
二人が幸せに暮らしていたら…
切ないですよね。
その切なさを出せたら良いなと思いつつ、無謀な事をしてみました。
どんな37でも、私は好きです。