中庭。

 草木の多い、中庭。

 昼休みになれば、そこは人で溢れ、賑やかな声が聞こえる。

 

 

 

 昼休みも終わる、その時間。

 沼井充は、そこで、思わぬ人物を見つけた。

 次の時間の授業を、自分はサボるつもりで。

 だから、昼休みが終わっても、教室に戻るつもりはなかった。

 いつも桐山と一緒にいる自分が、珍しく、たった一人で。

 散っていく生徒を見ながら、ぼうっとしていた。

 慌てて教室に戻る生徒の中で、中庭の端の方。

 一人しゃがんだ、後ろ姿。

 体格と髪型。

 同じクラスの奴だと思った。

 けれど、こんな時間にここでのんびりしている事が信じられなかった。

 しかも、たった一人でだ。

 いつもなら、三村信史や、杉村弘樹なんかと一緒にいるはずの、その男。

 充は、気がつくと側に寄り、声をかけていた。

「――お前、何してんの?」

 振り返った七原秋也は、何故か、泣きそうな顔をしていた。

 

 

 

 充は、そんな顔に驚いて、しばらく秋也を見つめていた。

 すぐに泣き出すかと思ったのだが。

 秋也は一瞬遠い目をしただけで、泣きはしなかった。

 それでも、いつもの表情とは違って。

 何故か、凄く無表情で。

 自分には関係のない事なはずなのに、何故か、とても気になった。

「三村となんかあったとか?」

 多少の揶揄を含んで、充は言う。

 秋也の気持ちは知っていた。

 自分と同じ、秘めた想いをもつ者は、見ればすぐに分かる。

 こんな事を言うと、秋也は顔を真っ赤にして、反論してきたものだった。

 そう。いつもなら。

 ――何かおかしい。

 いつもと違う。

 秋也とは、そんなにちゃんと話した事はなかったが、教室で見る彼とは、何かが違う気がした。

 本気で、何かあったのかもしれない。

「――何してんの、お前」

 充は、もう一度そう尋ねた。

 

 

 

「蝶が」

と、秋也はつぶやく。

 

 

 

 そして、しゃがんだまま視線を下に落とした。

 ずっと、それを見ていたらしかった。

 充もつられて、秋也の頭上から、地面を見た。

 

 

 

 誰かのいたずらなのか。

 それとも、何か、他の事があったのか。

 そこには、片羽を失った蝶がいた。

 地面の上で、もがいていた。

 

 

 

「人は、手を失っても。足を失っても。生きていく事は出来るけど」

 充に話し掛けると言うよりは、独り言のように、秋也は言う。

「羽をもがれた蝶は、生きていけるのかな……」

 

 

 

 それは、直接命には関わらない事。

 けれど、飛べない蝶は、力尽きる。

 身体に傷はつかなくても、生きていく事はできない。

 大切な羽を失った蝶は。

 

 

 

「……同じだな」

 俺たちと。

 充はそう言って、秋也と共に、蝶を見ていた。

 

 

 

 いつまでたっても空に向かえない。

 地面で、もがき続ける蝶。

 

 

 

 

 

 

 

 羽を失った蝶は、生きていけるのかな――

 

 

 

 

 

 

END.


あさこ初、沼井充…もどき。
自分で言うのもなんですが、ちょっと分かりにくいと言うか、抽象的と言うか。
こういう話は、結構好きで。
書きたいと思って書けるものじゃないので、難しいですね。『爪』と一緒です。
分かりにくいかな、と思うので、ちょっと解説を。
沼井と七原は、二人とも片思いをしているのです。
もちろん、相手は…言わなくてもお分かりですね(微笑)
このネタ、最初は37で使おうと思ってたんですが、なんとなくこの二人っぽいかな、と。
共通点って言うんですか。
沼七にしようかとも思ったのですが、なんだかならなくて。
中途半端な感じですが。自分では気に入ってます(笑)
でも、ホントに、羽をもがれた蝶って、生きていけるのでしょうか