「人間だけなんだってさ」

 秋也はそう言って、ぱちんと爪を切った。

 休日の昼間。

 約束よりも少し遅い時間に来て。

 信史の部屋に入るなり、一言。

 

「爪切り貸して」

 

 爪が伸びている事を思い出したと言って。

 借りた爪切りで、左手の爪を切っている。

 

 ぱちん。

 

「何が?」

 爪を切っている秋也の姿を眺めながら、信史は尋ねた。

 何が、“人間だけ”なのかと。

「同種で殺しあうのは」

 

 ぱちん。

 

 秋也は、自分の手を見つめたまま。

 爪を切るという作業に没頭しているようで、独り言のようにつぶやいた。

「同じ種族なのに、憎みあって、疎外して」

 

 ぱちん。

 

「何かあったのか?」

 信史は、机の前の椅子に、逆向きに座って。

 組んだ手の上に顎を乗せたまま、言った。

 秋也は顔を上げようとはせず、「ん」と小さく頷いて。

「公園で、子供を見かけた」

 

 ぱちん。

 

 左手の爪は切り終わり、今度は右手。

「5人くらいいてさ。その中の一人が、いじめられてて」

 じゃれあっているだけのようには見えなかった光景。

 それは、言葉の暴力。

 身体への暴力。

「気になって、声かけた」

 

 ぱちん。

 

 慈恵館で育ってきた秋也にとって、そんな光景は見て見ぬふりなど出来るはずがなく。

 秋也ならそういう行動をとるだろうという事も、容易に想像できた。

「それで?」

 

 ぱちん。

 

 信史に促され、秋也は続ける。

 思い出すのは、ほんの数十分前の光景。

「いじめてた子達は、逃げてったけど」

「うん」

「その、いじめられてた子がさ」

 

 ぱちん。

 

「睨んだんだ、俺を」

 

 ――ぱちん。

 

 爪を切る音が、響いた。

 

『余計なコトしないで』

 そういう目をしていた子供。

 だって、自分で分かっていた。

 それによって、余計にいじめられるのは目に見えていた。

 おとなしくしてれば、彼等はいずれ飽きるから。

 

 ぱちん。

 

「人のこと傷付けて。それに逆らわない子がいて」

 爪を切り終わり、秋也は立ち上がりながら、言った。

「それが、人間ってやつなのかな」

 借りていた爪切りを、信史の机の上に置いて。

「人を傷付けても、平気になったりするのかな」

 信史は、爪切りを置いた秋也の手を掴んで、引き寄せる。

「――大丈夫」

 七原は大丈夫だと、信史はささやいた。

「だって、お前が爪切ったのってさ」

 

 

「俺を傷付けないためだろ?」

 

 

END.



1915HITの吐血王子さまからのリク。
『精神的に傷ついた七原をミム−(三村)が心配、そして癒してる(愛)』
という事でしたのですが…
コレ、ちゃんとリクに沿っているんでしょうか?(コラ)
なんだかとっても自己満足です(笑)
いや、なんか、こういう感じの小説が好きだなぁ、なんて思うのは私だけですか。
私だけですね。ってか、私が満足してもねぇ?
こんなんで良かったでしょうか?
返品可ですよ〜!ではでは、これは吐血王子さまに捧げます。
ありがとうございました〜!