手を繋ごう

 

 

「新井田の指って、好きなんだ、俺」

 二人で入ったファーストフード。ポテトをつまんでいる和志の手を見ながら、秋也は言った。さっきから何をじっと見ているのかと思ったら、ずっと指を見ていたらしい。

「ポテトが欲しいのかと思ってたぜ……」

 和志はそう言って、口の中にポテトを放り込んだ。その後、自分の手を見つめてみる。

 別に対して綺麗でもない、ごつごつした指。

 長いわけでもないし、細いわけでもない。同じ指なら、秋也の指の方がはるかに綺麗なのにと、和志は思った。

 けれど、そんな事は口に出せない。何気なく、さらっと口に出してしまえたら良いのに。

「触っても良い?」

 秋也がそう言うので、和志は戸惑った。

 別に大した事ではないはずなのに、秋也が好きと言ったこの指を素直に触らせるのは、何故か恥ずかしくて。

「……ヤダ……」

 そうつぶやいて、秋也の目から隠すように手を膝の上に置いた。

「何で?」

 秋也はそんな和志の気持ちに気付かず、不思議そうに首を傾げる。その仕草が、たまらなく可愛かった。

 けれど、そんな事すら言えない。ただ、心の中で思うだけ。

 目の前に座る君が、他の誰よりも可愛いと。

 他の誰よりも愛しいのだと。

「何で触らせてくんないの?」

 ちょっと拗ねたような顔。その顔も好きだ。

「別にイイじゃん。もう出ようぜ」

 和志は、残ったポテトをさっさと口の中に放り込み、席を立った。慌てたように、秋也が後に続く。そのまま無言で、外に出た。

 

 

 

 冬は、一年で一番長い季節なんじゃないかと和志は思った。空気はまだ冷たいし、暖かい店から出てくると、余計に寒さが感じられる。その冷たさと、秋也の視線から逃れるように、和志はジーパンのポケットに手を突っ込んだ。とりあえず右、とだけ決めて、歩き出す。

 和志は早歩きで街中を進む。それを追いかけるように秋也は後ろから声をかけ続けた。

「新井田ー。新井田ってばー」

 声が聞こえていないはずはないのに、和志は秋也の方を見ない。別に無視をしているわけではなく、ただ、恥ずかしかっただけ。

 それに、秋也が自分の名を呼んでついて来るのが、心地良くもあった。他の奴ならなんとも思わない、自分の名前。秋也が口にしているだけで、何か特別な響きを含んだようで。

 甘くて、心地良い。そのままいつまでも呼んでくれればと、思ったりもする。

「なぁー、新井田……」

 後ろから聞こえる秋也の声が、少しだけ、小さくなった気がした。足を止めたのだろうか。和志はそう思ったが、ここで自分が止まってしまうのも、なんだか情けない気がして。

 そのまま歩き続けようかと思ったら、小さな声が聞こえた。

「……怒ってんの……?」

 ぴた。

 和志は足を止めて、ゆっくりと振り返る。

 道を歩いて行く人の中、ただ一人、足を止めて自分を見ている秋也。下がった眉と、泣きそうな目。

 抱き締めてやりたくなる衝動に駆られて、和志は唾を飲んだ。

「……なんで?」

 呼び声に応えなかったから、怒っていると勘違いされたのだろうか。和志が尋ねると、秋也は泣きそうな顔のまま、続けた。

「俺が新井田の指好きだって言ったから、怒ってんの?」

「……なんで?」

 和志は同じ言葉を口にする。何故そんな事で怒らなければならないのか。好きと言ってもらえたら、喜んでも良い事なのに。まぁ、自分は喜びはしなかったけれど。でも別に、嫌だったわけじゃない。むしろ、嬉しかった。それを素直に出せなかった、自分の対応も悪かったから、そう勘違いされたとしてもおかしくないかもしれないけれど。

「俺、新井田が好きだよ?指だけじゃなくて、新井田の全部、凄く好き」

(あぁ、そうか――)

 秋也は、そういう勘違いをしたのだ。

「別に新井田の『指』が好きだから、新井田と一緒にいるわけじゃないよ」

 そんな事、考えもしなかったのに。ただ、恥ずかしかっただけなのに。ちゃんと気持ちを口に出来ないから、勘違いさせて、悲しませた。

「新井田が、大好き――」

 街中なのに、平気でそんな事を言える秋也。

 和志は俯く。素直に可愛いとすら言えない自分。

 誉められて、ありがとうとも言えない自分。

 好きだと言われたのに、すぐに俺もだと返せない自分。

 それなのに、秋也はこんな自分が好きだと、そう言ってくれる。

 何が出来るのだろう、こんな自分に。

 秋也は和志を支えてくれ、いつだって救ってくれるのに、自分には何も出来ない気がして、恥ずかしかった。

 例えばここで、声を大にして秋也を好きだと叫べたら、何か変わるのだろうか。

 けれど、それは出来ない事だと、和志は自分で分かっていて。

 だから。

 スッと手を、伸ばした。

「新井田……?」

「――手、繋いで歩くか?」

 それが、精一杯。

 秋也は嬉しそうに頷いて、新井田の手を握った。

 暖かい体温が、伝わる……

 

 

 

「なぁ、何でお前、そんなに俺の指が好きなわけ?」

 そうしてしばらく歩いた後、和志が尋ねると、秋也は和志の指に自分の指を絡ませた。

「だって、気持ち良いんだもん♪」

「気持ち良い……?何が?」

 別にスベスベしているわけでも無いこの指が、そんなに気持ち良いだろうか?

 首を傾げる和志に向かって、秋也はとびっきりの笑顔で答える。

「動きが」

「……」

 ひとつ、ある事に思い当たって、和志は顔を赤くした。

(そういやぁ、こいつ、アノ時にもそんな事……)

「七原って、時々凄いこと言うよ、な……」

 そんな和志はお構い無しに、秋也は彼の顔を覗き込む。

「今日もシよっか?」

 

 

 

 あぁ、やっぱりこいつには敵わない――

 

 

 

END.



これは誰だ!!?七原っ?七原なのっ?
…というわけで(何が)7000HIT自分で踏んじゃったよ記念に書いた新七です。
『先手』『クリスマスプレゼント』に続く第3弾新七ストーリー。
多分続き物…とゆーか、前作の新七と同じ人達だろう、と。
どうあがいても情けなくなる新井田と、実は小悪魔であろう七原のお話。
37の七原とはまるで別人。とゆーか別人。なんだ、この卑猥さは(笑)
こんな新七書いてんの、私だけだろーなー(遠く)

何はともあれ、7000HITありがとうございました〜!