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信頼 別に、期待していたわけじゃない。 こんなのは異常なんだって、自分で、良く分かっていたから。 そんなのにあいつを巻き込むつもりはなかったし、ずっと、黙っていようと思っていた。今の関係を壊さないように。 どこまでも続く平行線を何とかしたくて、俺は、俺達は今までの関係を壊した。それは、終わりではなく、始まり。新たな関係の、始まり。 お前の心も、俺の言葉も、信用出来るものなんて、本当は何もないのかもしれないけど、俺は、それでも望んでしまっている。 ひとつになれたらいいな。溶けて、混ざり合って、ひとつになれたら、こんなに不安にはならないのかもしれない。離れなくてすむのだから。 あぁ、誰か、俺を、俺達を救ってください。 誰かを愛する事は、罪なのでしょうか――? 「いいんだ。妹を放っておいて俺に駆け寄るような奴、好きになった覚え、ないから」 秋也の言葉に、信史は一瞬頭の中身がどこかへ行ってしまった気がした。 「七原……」 ごくんと唾を飲み、渇いた喉を潤そうとする。 郁美はただ、ぽろぽろと涙を流していた。信史は我にかえったように携帯電話を取り出す。いくつかのボタンを押して、耳にあてた。聞こえてくる発信音。 「――あ、母さん?郁美、見つかったよ。――え?良いよ、俺が連れて帰るから。――あ、そう?――分かったって。じゃ、公園にいるから」 信史はふーっと息をつき、郁美を見た。 「母さんが迎えに来るって。近くにいるらしいから」 「うん、分かった……シューヤくん、これ……」 郁美は秋也に借りた上着を差し出し、歩いていく。 公園の入り口でお母さんを待つのだと言って。 「さて、と」 信史は額の汗をぬぐいながら秋也の方を向く。心なしか怒っているようだった。 「で?お前は何でここにいるんだよ?」 じろっと秋也を睨む信史。秋也は苦笑しながら答えた。 「郁美ちゃんを保護してた」 「馬鹿。それなら何で連絡しない?」 (それもそうなんだけど) 秋也は一瞬、言おうか迷ったが、結局言う事にする。 「郁美ちゃんと賭けしてたんだ。三村が、どっちを探しに来るか」 怒るかと思ったら、信史はそんな事は気にしていないようだった。 ただ、ひとこと。 「勝ったのか?」 あまりにも信史らしい言い方に、秋也は笑う。 (自分が賭けのネタにされた事は良いのか?) 「二人して同じ方に賭けたんだから、勝つわけないだろ。当たったんだ。お前は、郁美ちゃんを探しに来たから」 「馬鹿だな、お前」 呆れたように信史が言う。秋也は、信史の言った意味が分からなかった。 「なんだよ、馬鹿って。そりゃ、そんな賭けをするなんて、馬鹿かもしれないけど」 「まだ帰ってないって聞いて、俺が、心配しないとでも思ったのか?」 「だから――」 すると思ったって言ってるだろ。 秋也が最後まで言う前に、信史はじっと秋也の目を見つめて、はっきりと言った。 「お前を、だよ。七原」 風が吹いた。 信史の火照った体にはちょうどいい風だった。 「え?」 「なるほどな。それで、『いいんだ』か。『妹を放って俺に駆け寄るような奴、好きになった覚えない』って?」 そこで言葉を切って、信史は苦笑した。 「すっげぇ殺し文句」 「あ、あれは、だって、そう思ったから…… それに、お前、ちゃんと郁美ちゃんを探しに来ただろ?俺、三村のそーいうとこ、すげー好き」 暗闇の中で、信史の顔が赤くなったのが、秋也にも分かった。 (あ、可愛い) 秋也は信史を抱きしめたくなって、腕を伸ばした。 「あ!ちょっと待て、七原!俺、結構汗かいて――」 珍しく慌てる信史を、秋也は笑う。 「そんな事――関係ないだろ?」 (郁美ちゃんの事は平気で抱きしめたくせに) と、秋也は思う。そのまま、信史を抱きしめた。 ギュ…… 「七原っ」 秋也の腕の中で、信史は抗議の声をあげた。 (分かってないな、お前。相手が七原だから嫌なんだぞ。こんな汗臭いのに) 「三村、あったかいな」 「……七原は冷たいな。冷えたんじゃないのか?かっこつけて郁美に上着なんか貸すからだ」 信史はそう言うと、秋也の唇に口付けた。長いキスは、二人の唇の温度を同じくらいにさせる。 「このまま、ひとつになれたら良いな」 そう言ったのは、どちらだったか。 二人は何度もキスをした。 ――幸せだった。 (まぁた、何かあったな、この二人) 杉村弘樹は、いつものようにじゃれている二人の友人を見ながら思った。 昼休み、いつものように三人で昼飯を食べている時の事だ。昨日の比ではない秋也と信史の浮かれ具合が、それを如実に語っている。 「七原、今日家に来いよ。大丈夫、妹いないから」 (おいおい。お前の家は、母親だって昼間は家にいないだろ?今日は土曜だぞ?) 弘樹は思いながら卵焼きを口に運ぶ。あえて突っ込もうとは思わなかった。 「郁美ちゃん、どうかしたのか?」 「なんか、家族三人で遊びに行くらしい。帰ってくるの、月曜だからな」 二人の会話を、聞き流していく。 (ふうん。お前は留守番か) そこで、お茶を一口。 「なんだったら泊まりに来いよ」 ぶっ 弘樹は、飲みかけのお茶を思わず吹き出した。 「うわっ、きったねぇ。何だぁ?杉村、喉にでもつまったのか?」 弘樹は、大げさに後ろに下がる信史に向かって「悪い」と、謝った。もちろん、心の中では毒づきながら。 (お前のせいだろうが) 「うーん、どうすっかなー。安野先生に聞いてみないとだし」 (やめておけ、七原。お前まで三村の毒牙にかかる事はない) それにしても―― 弘樹は思った。これではまるで、カップルのようではないか、と。 ……まぁ、そのままなのだが。 (月曜、こいつらに会いたくないな……) 少しだけドキドキしながら、秋也は信史の家のチャイムを鳴らした。 (やっべー、なんか、期待してるよ、俺) 少し待って、信史が顔を出す。 「よう。いらっしゃい」 「あ、あぁ」 信史は、とりあえずあがれよと、秋也を部屋に通した。 家の中はしんとしていて、本当に誰もいないのだなと感じさせる。信史は下でお茶の用意をしているらしかった。 (何だかなぁ……) 誘われて、ほいほい来てしまう自分が、少し信じられなかった。 多分、何かあるだろうとは思ったのに。 泊まりに行ってくると言った時、慶時が何か言いたそうな顔をしていたっけ。 がちゃっ ドアが開いて、秋也はびくっと体を震わせた。 「ちょっとは手伝えよ。両手ふさがってるんだぜ?」 信史は言いながら、ドアを蹴り開ける。 「あ、わりぃ」 それから二人は他愛のない話をした。ロックの事、郁美ちゃんの事、豊や、慶時の話。 それから、今日の杉村は可笑しかったな、など。 時間がたつのは早かった。 「それでさ、杉村が――」 秋也が言いかけた時だった。信史はそっと秋也の手に触れ、真剣な顔で彼を見ている。 びくっ 会話が、止まった。 秋也はなんとなく、信史の目を正面から見れなかった。 「七原――」 「あ、あのさっ」 思わず話をそらそうとしてしまうと、信史が少し強めに秋也の手を握ってきた。秋也は、肩を震わせる。 「あの、三村……」 「あのさぁ、そんなに怖がるなよ」 信史はそう言って、秋也の手を離した。 「俺、七原が嫌がるような事はしないから。なんかお前、今日変。話してても俺の方、見ないし」 「ご、ごめん……」 意識してそうしていたわけではないのだが。秋也はうつむいてしまう。 罪悪感が秋也を襲っていた。 「――嫌?」 何が、とは聞けなかった。秋也は言葉を詰まらせる。 何も、何も言えなかった。 「俺のこと、信用しろよ、七原……」 心臓が、止まってしまいそうだった。 To be continued. お久しぶりの『FIRST』シリーズ第7弾。 前回の『感情』の続きですね。思いっきり。 個人的には杉村が好きです(笑) ところで。この後の展開を期待してくれた方(いないから) すいません、あさこは最低な事をします(え?) 何って、次回最終話。なんと。 月曜日の朝に飛びます。 最っ低です。マジごめんなさい。 だって、この後って。この後ってーっ…!!! がふがふ(喀血) |