自虐

 

 

 誰もが傷付くだけで、幸せになる奴なんていないのに。

 やめられない愚かさ。

 最初から、こうなる事なんて分かっていた。

 後悔とか反省とか、そんなものはどうだって良い。

 お前を手に入れたわけでもない。

 分かっているから、気付かせるな。

 

 

 

「ずいぶん慣れたよなぁ」

 喘ぐ充に、嘲るような言葉を落としながら、竜平は深く彼を抉った。

 繰り返す行為は、彼等に何も残す事は無く。

 コトが終わった彼等は、何事も無かったかのように煙草へ火をつける。

「ん」

 脱ぎ捨てたワイシャツを差し出す竜平を一瞥して、充は灰皿代わりのジュースの缶に灰を落とした。

「いらねぇ。あちぃ」

 裸のままあぐらをかいて、下半身にだけシーツを被せている。

 竜平自身も、ズボンだけを穿いて、上半身は裸だった。

 春を過ぎて、新緑の季節になりかけた今の時期、風邪をひく事はないだろう。

「バカは風邪ひかねーって言うしな」

「テメェもな」

 充はすかさず言い返して、手近にあったエロ本をぱらぱらとめくる。

 しょっちゅう自分とこういう事をしている割には、ちゃんと女にも興味があるらしい。

「お前、いつだったか訊いたよな?」

「あん?」

「何で俺を抱くのかって」

「あー。訊いたかも」

「お前は何で俺に抱かれるんだ?」

「テメェがバラすって脅すからじゃねぇか」

 ふざけんな、と言って、充は本を竜平に投げた。

「最初はな。最近は脅してねーよ」

 その本を避けて、竜平は煙草を口に咥える。

「単なる性欲処理、だろ」

 ぶっきらぼうに、充は言った。

「だな」

 煙草の煙が、少しだけ目に染みて。

 竜平は深く、煙草の煙を吐いた。

 

 

 

 ぼうっと、空を眺める。

 青い空に、白い煙草の煙を混ぜて。

 そうして溶けていく様を見つめながら。

 充は一人で屋上にいた。

「――抵抗しない、理由、か……」

 従わないとバラされるから?

 1回も2回も変わらないから?

 ただの性欲処理として?

 そのどれもが、正解で不正解。

「クソッ……」

 イライラ、した。

 どうして自分が、こんな事を考えさせられなければいけないのか。

 全部全部、竜平のせいだ。

 こんな面倒臭い事になったのも。

 火をつけたばかりの煙草を、コンクリの床に投げ。

 乱暴に踏みつける。

 空を見るのは、やめにした。

 

 

 

「リュウ、煙草の量、増えたな」

 博はそう言いながら、今火をつけたばかりの煙草を、竜平の手から奪い取る。

「何すんだよ、バカ」

「バカはリュウの方だ、バカ」

「バカにバカって言うんじゃねーっつってんだろ」

「リュウ、どうしたいわけ?」

 博の視線が、痛い。

「充の事傷付けてボロボロにする前に、自分のが参ってんじゃん」

「っせーよ……」

「充の事が好きなら好きだって言えば良いのに、何でそう素直じゃねーんだよ」

「うるせー……」

「言葉にすんのが怖いんだろ?ガキみてーだぜ、リュウ!」

「るせーっつってんだよ!!」

 博の胸倉を掴んで。

 竜平は立ち上がり、彼を、睨みつける。

「誰が充の事を好きだなんて言った!?テメーに何が分かるってんだよ!

 いちいちうるせー事ばっかり抜かしやがって、テメーは俺の何なんだ!」

 至近距離で、怒鳴られる。

 博は真っ直ぐ竜平の目を見返したまま。

「相棒だろ」

 胸倉を掴む手が、緩む。

「忘れんなよ。俺はお前の相棒だろ、リュウ」

「博……」

 

「ッ!」

 

 気を緩めた瞬間、竜平は博に殴られる。

 頬がズキズキと痛んだ。

「テメっ!」

「売ったケンカを途中で放棄すんなよな」

「ざけんなっ」

 やられっぱなしで黙っているほど、人間が出来ていない。

 向かう竜平と、迎える博と。

 

 

 好きだ、とか。

 好きじゃない、とか。

 そんなんどーだって良いから。

 ただ、あの目に睨まれていたいと。

 

 

 痛む頬やら、腹部やらを抑えながら、竜平はその場に仰向けに寝転ぶ。

「っつ……手加減しろよ、バカ」

「いてー……人の事言えねーだろ、バカ」

 博は息を乱しながら、壁によりかかって座った。

「ムキになるなんて、らしくねーぜ、博」

「お前だからムキになるんだろーが」

 そう言ってだるそうに目を瞑ると、博は息を整える。

「ちょっとはすっきりしたかー?」

「ああ、まぁな……」

 青空を、見上げて。

 深く、息を吐いて。

 竜平は呟いた。

 ああ、もうすぐ。

 

 

 

「修学旅行、だな」

 

 

 

To be continued…



1年以上も放置して、誠に申し訳ございません。
笹沼を終わらせたくないばっかりに…(言い訳にもならない言い訳)

ああ笹沼。
相変わらず体の関係を続ける2人と、良い感じにそれに絡んでくる博。
なんて素敵な笹沼話なんでしょう!(相変わらず超自画自賛)

そして物語は最終章へ。
切り離せない――プログラム。