|
矛盾 どんなに強く、抱き締めても。 どんなに強く、貫いても。 お前が俺の名を呼んだって。 お前の目には、たった一人しか映っていない。 たった一人。 お前の中での、絶対者。 ――桐山和雄しか。 「リュウ、火、貸して」 博は自分の煙草を咥えたまま、竜平に向かって手を伸ばした。 「ん」 渡される100円ライターを受け取り、カチッと音を鳴らす。 煙草を吸い、ふぅ、と吐き出してから。 「サンキュ」 竜平の手にライターを戻すと、青い空を見上げた。 「――で」 空に、白い煙が混じっていく。 「何でそんなに辛そうな顔してんだよ?」 博の声に、うつむいたままの竜平は、何も答えようとはしなくて。 いつものように屋上に来た後、竜平が博に言った言葉はたった一言。 「充とヤった」 それだけだった。 「そうしたかったんだろ?」 竜平はただ、地面のコンクリートを見ている。 隙間から生える、雑草を。 「それとも何か?後悔でもしてんの?罪悪感があったりすんの?」 「ンなわけ……ねーだろ」 望んでいたのは自分だ。 たとえ、無理矢理抱いた事に罪悪感を覚えたとしても。 たとえ、その事を後悔したとしても。 それでも構わないと思ったのは自分だ。 むしろ、それを望んでいたと言っても良い。 「それならどうして、そんな顔してんだよ」 呆れたように、博が竜平の顔を覗き込む。 「うるせーよ……」 どうせ何も言ってくれないと分かっていながら、博はそれでも尋ねるのだ。 訊いても何も言わない。 訊かなければ、何も言うはずがない。 「あいつを、傷付けてぇ。心も体も、めちゃくちゃに」 「竜へ……」 ギィッ 屋上の、錆びた扉を開く音がして。 博は体をその方向へ向けた。 竜平は、視線だけを送る。 誰が入って来るかなんて、恐らくは2人共分かっていた。 「あ」 外の眩しさに、少しだけ目を細めて。 博と竜平の姿を見た充は、思わず小さな声を上げた。 一瞬だけ、気まずい顔。 それでも、ここから引き返すような事はせず、2人に向かって歩いて来る。 竜平はくっくっと笑った。 逃げ出すような真似は出来るはずがなかった充に対して、笑いが込み上げた。 充はそれを見てムッとした顔をしたが、博の隣にしゃがみこんだ。 顔が苦痛に歪む。 「っつ……」 「充?どうかしたのか?」 博が尋ねると、充はチッと舌打ちして、煙草を取り出した。 「ちょっと、ケンカ、して」 チラリと、充が竜平を見たのが分かって、博は煙草の煙を吐く。 「――ケンカ、ね」 意味ありげな竜平の言葉に、気付かないふりをして。 充は煙草に火をつけた。 体のあちこちが、痛む。 昨日のせいで。 竜平は自分の煙草を口へ咥える。 「充、火」 「あ?」 文句を言いかけた充の声を無視して、竜平は咥えたままの煙草の先を、充の煙草に押し付ける。 近付く顔に、充は一瞬だけ肩を震わせたけれど。 過剰に反応しても、竜平が喜ぶだけだという事を知っていたので、黙っていた。 博の煙草から、灰が落ちる。 「不器用な、奴」 そう呟いて、博は立ち上がった。 「煙草買って来る」 なくなったからと言って、そのまま屋上を後にする。 充と竜平を残して。 傷付けたい、と、彼は言った。 「違うだろ、バカ……」 博は閉じた扉を背に、呟く。 傷付けたくて、それが叶って、辛そうな顔をするなんて。 充を傷付けて。 深い深い、傷を残して。 そうして、充の中に自分を刻みたいだけなんだろう? 忘れて欲しくないから。 そうする事でしか、自分の存在を残せないのか? そして、全てを分かっていながら、博は止めようとはしないのだ。 傷付く彼を、誰よりも近くで見ていながら、ただ見つめ続ける事しか出来ない。 彼が何も、望んでいないのだから。 それならば。 どこまでもどこまでも、ただ、傷付けば良い。 血の涙を流しながら。 立ち昇る煙の色が、もっと白ければ良かったのに。 何も、見えなくなるように。 相手を桐山だと、思えるように。 「んっぅ」 煙草の味がする、キス。 コンクリートの壁に押し付けられて、肌をまさぐられる。 唇が離れて、一呼吸。 「勿体ねぇ事……すんなよ……」 火がついたまま、落とされた煙草に目をやって。 充は竜平を睨みつけた。 「抵抗、しねーの?」 「したって無駄だろ。1回も2回も変わるかよ」 充の言葉に竜平は口の端を歪めて、噛み付くようにキスをした。 すぐに応えて来る充の体を抱き締めて、何度も何度も、唇を重ねる。 恐らくは、割り切ったのだ。 悩む事も、考える事も、ましてや泣く事なんて、無駄だから。 「っ……ぁん……」 何でもない事なのだと割り切って、溺れてしまえば。 これはこれで、悪くはないのかもしれない、と。 コトが終わって、だるそうにしゃがみ込む充に、竜平は煙草を差し出す。 黙ったままそれを受け取り、何事もなかったように煙草を吸って。 思い出したように、充は尋ねた。 「なぁ、竜平」 何で、俺を抱くのか。 口に出しかけて、止まる。 理由、とか。 言い訳、とか。 そんなの聞きたくないし、どうだって良い。 最初は合意の上だったし、後悔しているわけでもない。 何でもない事なのだと割り切れる程度だから、嫌だったわけでもない。 もちろん好きなわけではないけれど。 ただ、やっぱり気になって―― 「あ?」 「何で、俺を抱くんだよ?」 充の質問に、竜平はクッと笑った。 興味なさそうな顔を装ってはいるけれど、充はきっと気になっている。 竜平が一体どんな気持ちなのか。 例えばここで、竜平が充の予想通りの答えを言ったとしたら。 そうしたって、どうにもならない。 それなら。 「単なる性欲処理」 To be continued… ああ笹沼。笹沼。笹沼。 更新が遅れて申し訳ありません。 裏に同時アップとして、5.5話があったりして申し訳ありません。 ヤッてるだけの話がコレと前回の間にあるのです(汗) 懲りもせずに、屋上でのシーンも危うく裏へ持って行く話として書いてしまいそうでした。 やめましたけど(さすがにね) 笹沼大好きです。 笹川カッコ良すぎです。 もういいです。自画自賛で(笑) |