選択

 

 

 例えば、どんな手を使ってでもお前を手に入れる。

 その末に残るもの?

 罪悪感?

 後悔?

 有り余るほどの快感と、お前の俺に対する憎悪?

 ――上等。

 

 

 

 充が、つまらなそうにタバコの煙を吐く。

 いつもの屋上。

 変わらない毎日。

 けれど違うのは、彼らのボスである、桐山和雄がいない事。

「チッ、ボスが学校に来ない事を知ってりゃ、俺だって来なかったのにな」

 そんな事を言って、今度は大きくタバコの煙を吐き出す。

 彰は、桐山がいなければ意味がないのだと言って、とっくに帰ってしまった。

 家の手伝いだとか言っていたが、何をしているのかはまだ知らない。

 だから、屋上にいるのは、充と博。それから竜平の3人。

「ホントにテメーはボス一筋だな」

 呆れたように、竜平が言う。

 いつものケンカ口調とは、少しだけ違う気がした。

 博が不思議に思って竜平を見ると、彼は笑っていた。

 へぇ。――珍しい。

「うるせぇよ。……俺も帰るかな」

 充はそう言って、タバコを揉み消した。

 別に、学校にいてもする事など無い。

 授業を受けるという選択肢は、彼の中にはないようだった。

「じゃあ、俺も帰ろ」

 竜平は、そう言って立ち上がる。

 博もそれに続こうとすると、竜平と目が合った。

 ……なんとなく、嫌な予感。

「リュウ、何か俺、ヤな予感すんだけど」

「何が?気のせいじゃねーの?」

 竜平はそう言って、にっこり笑う。

 こんな風に笑うなんて、絶対におかしい。

 博は訝しげな顔をして、竜平を見た。

「オイ、竜平。帰んなら早く帰ろうぜ」

 二人の様子に気付かないのか、充はそう言って屋上の扉を開ける。

「おぅ」

 博から視線を外して、竜平は充の方へ歩いて行った。

「オイ、リュウ!」

「あ、博。お前、今日日直じゃなかったか?帰れねーな」

 今思い出した、という風に、竜平は言う。

 口元に、ニヤリと笑みを浮かべて。

 博は絶句する。

 分かってしまったのだ。竜平が何を考えているのか。

「ちょっと待てっ!リュウ!竜平っ!!」

 叫ぶ博の目の前で、屋上の扉は無情にも閉められた。

 追いかけた方が良いのか。放っておいた方が良いのか。

 彼の為を思うなら、止めた方が良いのかもしれない。

 けれど。

 自分が立ち入る事ではないのかもしれない。

 それで、彼が救われるのなら――

 

 

 

 彼?

 それは、誰――?

 博は小さく、溜息をついた。

 

 

 

「あー、かったりぃな……」

 充はそう言いながら、竜平と一緒にだらだらと歩いて行く。

 特に目的の場所があるわけじゃない。

 家に帰るのもだるかったし、どこかへ行くのも面倒臭かった。

「竜平、このまま帰んのかよ?」

「ああ」

 頷いて、思い出したように、言う。

「うち寄るか?別に誰もいねーし。暇だろ?」

「あー……ま、他にする事ねぇからな……別に行ってやっても良いぜ」

 充はそう答えて、そのまま、竜平の家へ向かう。

 きっとそれが、間違いだった。

 

 

 

 竜平の部屋は、思ったより綺麗だった。

 めったに家にいないからだと本人は言ったが、なるほどその通り、殺風景な部屋に見える。

 机とベッドと、床に放り投げてあるエロ本。

「……こーいうの、堂々と置いとくか?普通」

 充の冷めたような目に、竜平は平然とした顔でそれを拾い上げた。

「別に?どうせ弟くらいしか入んねーし。見られてマズいもんでもねーし」

 そう言いながら、充に向かって投げる。

「マズいもんだろーが、コレは」

 しっかり受け取って表紙を見ると、それなりに可愛い顔をした女だった。

 竜平はこういう女が好みなのかと、充は思う。

「何、充はいちいち隠したりしてんのかよ?その方がタリーじゃん」

「……ボスは見ねぇんだろーな、こーいうの」

 パラパラとめくりながら言う充の言葉に、竜平は目を細めた。

「充、ボスの事好きだろ?」

「はぁっ!?」

 突然わけの分からない事を言われて、充は思わず本を落とす。

「お前、すぐ顔に出るから分かる。素直っつーか、単純っつーか」

「うるせぇよ」

 ムッとした顔で充に睨まれて、竜平は笑った。

「でも、ボスはそーいうの、気持ちワリーんじゃねー?普通の男なら」

 充の顔色が変わる。

 恐らくは、自分でも考え、悩んだ事があるのだろう。

 そうして、悩んでも仕方のない事に気付き、吹っ切ったのだろう。彼の事だから。

 自分の気持ちを伝えなければ、想っていても構わないとでも結論付けて。

「もう、傍にいられなくなるかもなぁ?」

「……何が言いてぇんだ」

 きつく竜平を睨む、充の目。

 竜平は自分の口元が、笑みの形に歪んだのが分かった。

「ボスには黙っててやるから、俺に抱かれろよ」

「っ!?」

 目を大きく見開く。素直な反応。

「別に減るもんじゃねーだろ?」

「何言ってんだ、テメェ」

「初めての相手はボスじゃなきゃ嫌だってか?女じゃあるめーし」

 充の顔が赤くなる。

 恥?怒り?――恐らくは、両方。

「それとも何か?俺の口から、ボスにバラされてーのか?充はホモで、ボスの事が大好きですって?」

「俺を抱きてぇなんて言うテメェはホモじゃねぇのかよ?」

 充が混乱しているのが、手に取るように分かった。

 普段なら。

 ふざけるなと叫ぶか、その前に拳が飛ぶ。

 冷静ぶっているが、頭の中はパニくっている事だろう。

 竜平はベッドに座り、充を見上げた。

「充を抱きてーんだ。マジで」

 充の目が、一瞬、宙を泳ぐ。

 ためらっているかのような、視線。

 

 

 充が学ランを投げ捨てる。

 竜平は彼の腕を引き寄せ、ベッドに押し倒した。

「竜平、テメェ、俺が了解しなかったらどうする気だった?」

 まだ、多少は迷っているような目をする充に、竜平はニヤリと笑って言った。

 

 

 

「無理矢理犯すに決まってんだろ」

 

 

 

To be continued…



大変長らくお待たせいたしましたッ!
どこまでも突っ走っていく笹沼シリーズ第5話、『選択』でございます。
自分の気持ちに素直になりきれない、青い彼等を書くのは、とても楽しいです。
気持ちには素直になれないくせに、欲望には正直と言うか…
笹川がストレート過ぎて大好きで仕方ないです(笑)
37には無いものが、ここにある気がしていたり。

そして、このシリーズでも再びやってしまいます(涙)
何がって?FIRSTシリーズを御覧の方々ならお分かりになるかと…(汗)
だってこの後って、本当にヤバいんですよ…FIRSTシリーズの比ではないです。
5.5話が裏に置かれる事を、どうぞお許し下さいませ…
それを読まなくても話が通じるようには書きますから…