歪み

 

 

 自覚がなければ、何とかなるかもしれないと思っていた。

 

 だけどこいつ。

 しっかり自覚してやがる――

 

 

 竜平は空を仰いだ。

 座って寄りかかったコンクリートの壁は、やけに冷たくて。

 制服越しでも、その冷たさを感じた。

 吐き出したタバコの煙が、空に溶けていく。

 こうして屋上でタバコを吸うのは珍しくないけれど。

 近くに誰もいない事は、やっぱり珍しかった。

 常に隣にいる博も、迷惑そうな顔をしながらも一緒にいる充も、何を考えているか分からない桐山も、面白いオカマも。周りに誰もいない、一人の空間。

「気にいらねー……」

 誰に言うでもなく、呟いてみる。

 何が気に入らないのかなんて、分かっている。

 それが自分のわがままである事なんて、どうだって良い。

 そんな事、どうだって良いから。

 ただ、イライラする……

 竜平はタバコを投げ捨てて、立ち上がる。

 

 ガヅッ!!

 

 青空に響く音。

 力任せに蹴りを入れたコンクリート。

 けれどそのくらいでは壊れる事もなく、何事もなかったようにその場に存在する。

「チッ……」

 竜平は舌打ちして、乱暴に屋上の扉を開けた。

 投げ捨てたタバコからは、まだ煙が立ち昇っていたけれど、気付かないふりをした。

 煙が空に溶けていく。

「そのまま消えちまえ」

 誰にともなくそう言って、竜平は校内に戻って行った。

 

 

 

「あ」

 驚いたように一瞬大きく見開かれた目。

 それから、嫌なものに会ったとでも言うような顔に変わり。

 鋭い目で、睨む。

 どうやら今日の充は、一段と機嫌が悪いらしい。

 竜平は、ニヤリと笑った。

「お前が一人で屋上に行くなんて珍しーな。ボスは一緒じゃねーのかよ」

「何が言いてぇんだ」

 充の目が、更にきつく竜平を睨みつける。

「別に?金魚の糞が捨てられたかと思っただけだぜ」

「テメェ、ケンカ売ってんのか!?」

 今にも殴りかかってきそうなほど強く睨む、その目。

 ――ぞくぞくした。

「充、相手にすんなよ」

 後ろから、聞き慣れた声がして、充はふっと気を緩めた。

 竜平はチッと舌打ちして、階段の下の方を見る。

「邪魔すんじゃねーよ、博」

「何の邪魔だよ、バーカ」

 そのまま階段を昇って来る博から視線を外し、竜平は歩き出した。

 充と博はきっとこのまま屋上へ向かうのだろう。

 自分は……もう屋上に用はない。

 ああ、そうだ。これからヅキちゃんのトコにタバコを貰いにでも行こう。

 メンソールは好みじゃないけれど――

 

 

 

「あいつって、やっぱいつもああなんだな」

 充は屋上で博と2人、フェンスによりかかっていた。

 あいつというのが竜平を指しているのだとすぐに分かって、博は苦笑する。

 気が付くと、常に充にケンカを売っている竜平。

 充を怒らせるような言動を、わざとして、それを楽しんでいる。

 別に仲良くしたいわけではないが、さすがにいつもああだと、充もいい加減にムカついてきた。

 あの態度が、自分にのみのような気がすれば、なおさらだ。

 博はフゥ、と煙を吐く。

 構いすぎるほど充に絡んでいる竜平の姿を思い出して。

「あいつ、かなり歪んでるからなぁ」

 博はそう言って、充を見た。まるで、可哀相なものでも見るかのように。

 充はそれに気付かず――少し気に食わない目線だとは思ったけれど――博の言葉の意味を尋ねた。

「どの辺が?――いや、そりゃ、全部が歪んでるんだろうけどよ」

 あそこまで歪んでいると、歪んでいない所を探す方が大変な気がする。

「あいつ、前に付き合ってた女の子の事、凄く好きだったんだけどさ」

「へぇ。あいつにも好きな奴とかいたわけ。意外」

 そのネタでからかってやろうだなんて思いながら、充は言った。

 あの竜平が、凄く好きになる女。どんな女だったんだろうなんて思いながら。

 博は思い出して、肩を竦めて見せた。

「その子の事、無理矢理犯してフラれてんだよね」

「は?」

「ほら、竜平のってデカいじゃん?」

「いや、知らねぇけど……」

「相手処女だったのに、無理矢理突っ込んで、裂けちゃったらしいんだよな。女の子、凄く泣き喚いたらしいんだけど」

「それがトラウマで、性格歪んだ、とか?」

「いや……泣き喚く女の子見て、凄い快感だったって言ってた」

「ぅわ」

 確かにそれは歪んでいる。それを淡々と話して聞かせる博もどうかと思ったが。

「好きな奴が泣く所見るの、好きなんだよ、あいつ」

「変な奴……」

「だから、気をつけろよ、充」

 それは、博に出来るほんの少しの忠告だった。

 別にどちらの味方というわけでも無い。けれど、ちょっとした忠告、それだけ――

 何故それを自分に言うのか、充には分からなかった。

 

 

「つぅか、それサドだろ……」

 

 

To be continued…



どこまでも歪み続ける竜平…原作がこんなキャラだったかどうかはこの際置いておいて(汗)
なんだかツッコミどころがたくさんあるこの『歪み』。
笹沼シリーズもとうとう4話目になりました。
ストレートな表現が苦手な私は、今回の話、ちょっと書くのに勇気がいったんですが…
竜平に勝手に彼女とか作ってしまっているし。
もうこれは、ほぼパラレルな話ですね…
登場人物の名前だけ一緒、みたいな。
ははは…はぁ。