タバコ

 

 

 それなのに何故一緒にいるのか理解出来なかった。

 

 桐山と殴り合い、やられ、傷付き、倒れて。

 それでも尚、自分達と一緒にいる笹川竜平――

「何でお前、ここにいるんだよ」

 充はもう何度も繰り返した質問を投げかけた。

 授業をサボって屋上にいるなんていつもの事で、そこでタバコを吸う事も、竜平や博と一緒にいる事も、自然に当たり前の事になってしまっている。

 それでも繰り返した。自分達と一緒にいる理由は何かと。

 桐山への復讐を狙っているのなら、近付けるわけにはいかなかった。

「別に?」

 竜平はいつもと同じ言葉を返して、充の胸ポケットに入っているタバコに手を伸ばした。

「あっ、オイ!」

 いつもの事なのに、あっさり奪われる。

「手癖のワリィ奴!」

 取り返そうとするのは時間と体力の無駄である事も、体が覚えてしまった。

 充の言葉に、竜平は平然と答える。

「お褒めの言葉、ドォモ」

「誉めてねぇよ!」

 そうやって突っかかってくる所が面白いだなんて、言えない。

 言ったら言ったで面白いだろうけれど。

 竜平は博の手からライターを奪い、カチッと火をつけた。

「手癖悪いって」

 博もそう言いながら、投げて返されたライターをキャッチする。

「博、こいつって、昔からこうなわけ?」

「まーね。お前の物は俺の物、俺の物は俺の物ってのが信条だから」

「お前はジャイアンか……」

 充と博はいつの間にか意気投合してしまったらしく、こうして竜平の悪口を言い合っている事が多かった。もちろん、本人の目の前で。

 けれど当の竜平はまったくこたえた様子はなく、充のマルボロを深く吸い込む。

「お前、こんな軽いのよく吸えるよな……」

 つまらなそうに煙を吐いて、竜平は吐いた煙を眺めた。

「文句言うなら吸うんじゃねぇよ!」

 充はそう言って竜平の手からタバコを取り返そうとするが、簡単に逃げられる。

 チッと舌打ちして、充は自分もタバコを咥えた。

「竜平のセッタがきつすぎるんだろーが。身長止まるぞ」

「充よりデケーから別にいい」

 あっさりと言い返して、充の悔しそうな顔を横目で眺める。

 竜平を睨む充の目は、プライドの塊。

 そんな2人を見て、博は苦笑した。

 いつの間にか名前で呼び合っている2人。何だかんだ言って、気が合ってるんじゃないか、と。

「あら、じゃあこれでも吸う?」

 声は、頭上からした。

 座り込んでいる充達を見下ろすような影。言葉遣いから、一瞬女かと思ったが、目に映るそれはどう見ても学ランで、その顔はどう見ても男だった。

「月岡――だっけ」

 博が口を開く。

 絶対に名前を知っているはずがない2人に、それとなく教えるためでもあった。彼らのボス(いつの間にか竜平や博も「ボス」と呼ぶようになった)桐山なら、この月岡彰という人物を知っていたかもしれないが、あいにく彼は読書の最中で、こちらには目を向けようともしない。それもいつもの事だった。

「そうよ。月岡彰――貴方達と同じクラスの、ね」

 そう言ってウインクする彼に、充はまともに嫌悪感を示す。

 こういう人種には出会った事がないのだろう。

 竜平は充の反応に笑って、彰を見上げた。

「よろしく、ヅキちゃん」

 ニヤリという感じの笑みに、彰も笑う。

「何で俺達に話し掛けてきたわけ?」

 博の問いに、彰はにっこりと笑って見せた。

「だって、面白そうだったんですもの」

「ああ……」

 それで納得してしまう自分もどうかと思ったが、博は大きく頷く。

 確かに面白いんだよ。はたから見てれば。

「それに、桐山くんにも興味があったしね」

 いまだ読書を続けている桐山に向かって、彰はウインクを投げるが、彼はまったく気付いていないようだった。

「桐山くんてば、つれないわ」

「ボスは男だぞ……?」

 充はそう言って、怪訝そうに彰を見る。

 それを聞いた竜平は爆笑しそうになったが、途中で博に蹴りを入れられた。

「あら、関係ないわよ」

 彰はそう言って、誰にともなくつぶやく。

「好きになっちゃえば性別なんて、何の意味も無い事だわ」

 充はきょとんとしてしまう。

「そういうもんか……?」

「そーいうもんなんだよ、オコサマ」

 竜平はニヤニヤと笑って充の頬を指で突付いた。

「うるせー、触んなっ!」

 充はその手を邪険に払い、自分の頬を少し擦る。

「ああ、でも……分かるかもしんねぇ……」

 充の小さな呟きに、博はあぁ、という感じで空を仰いだ。

 一瞬、凍りついた竜平の表情を見てしまって。

 あぁ、厄介な事になってきた。

 竜平は、誰にも聞こえないように小さく口の中で呟く。

 

 

「ざけんな」

 

 

To be continued…



大分間が空いてしまった、笹沼シリーズ第3話です…(汗)
タバコって、嫌いなんですけどね、でも、吸ってる姿はカッコいいかな、とか思ったりもします。
大東亜ではタバコの銘柄って、実際とはちょっと違うんでしたっけ?
マルボロもセッタ(セブンスター)も、周りの人達が吸っているので使ってみただけで、私は銘柄に詳しくはないです…(祖父はタバコ屋ですけど・笑)
博はマイセン(マイルドセブン)。なんとなく。
確かセッタがきつかったんだよな〜…という、記憶を引っ張り出してみました。

さて、やっと月岡登場。
このシリーズはどこまで続くんでしょうね。