螺旋

 

 

 君の事が好きだと気付いた。

 君の笑顔や、君の声。君と、話をする事が、こんなにも嬉しくて、楽しい。

 だから、君の事が好きだと。

 ……気付いた時には、遅かった。

 君の心には、すでに違う人がいるんだって、知ってしまったから――

 

 

 

「三村、今日は一緒に帰れるのか?」

 放課後、ホームルームの後。七原は少し離れた三村に、そんな事を言う。

 出席番号順のこの席で。

 ――俺の目の前で。

「あぁ、部活ないから、良いけど……お前はないわけ?」

「大丈夫!」

 三村の返事に、笑って頷き、いそいそと教科書を鞄に詰める七原。

 あんまり慌てるものだから、ノートの端が折れてたりして。

 そんなところが、七原らしくって、放って置けないと言うか。

 教えてやるくらいは、ただの親切。

「おい、ななは……」

「大丈夫って、部活がないって意味でとって良いんだな?」

 俺の声は、三村にかき消され、七原は、俺の声に気付きもせず、三村の方を向いた。

「あはははは、大丈夫、大丈夫!」

 乾いた笑い声で、七原は笑う。

 あぁ、きっと今日も本当は部活なんだろうな。

「お前、実は部活あるんだろ?」

 三村が少し睨みながら、七原を見た。

 そんな三村の顔は、俺の位置からはバッチリ見えて。

 怒っているという風にも取れるけど。

「だって、せっかく三村が部活ないんだし……」

 多分、あれは怒っているんじゃなくて。

「一緒に帰りたいじゃんか」

「……ったく、しょうがねぇな」

 ……嬉しいんだと、思う。

 

 

 ただの友達にしては、仲の良すぎる二人。

 誰も気付いてないのかもしれないけど、俺には分かる。

 七原の妙な緊張感が、伝わってきて。

 はしゃぐ七原と、嬉しそうな三村と。

 ――気付いた時には、遅かった。

 二人はすでにデキていて、俺はそれを後ろから見てる。

 そんな構図が、出来ていて。

 邪魔をする事も、張り合う事も出来なくて、ただ憎む。

 もし、三村よりも先に、俺が――

 

 

 翌日、七原は端の折れたノートを使っていた。

 特に気にする風もなく、ただ、授業を眺めている感じで。

 俺は後ろから七原の姿を見て、小さく、溜息をついた。

 七原の視線が、時々三村に向かう事に気付いて。

 そんな事、気付きたくも無いのに。知りたくないのに、見つめているから、分かってしまう。

 それなら見なきゃ良いんだろうけど、目の前に座る奴を見ないようにするってのは、なかなか難しい事で。

 溜息を、もう一つ。

 ……七原は、後ろを見ない。

 振り返る必要がないからだ。

 だから、俺は七原の視界には入らない。

 何を思っても。

 ――何をしても。

 情けないことだとは思ったが、そんな事はどうでも良かった。

 ただ、七原に俺を見て欲しくて、俺は、机の上で転がしていた消しゴムを落とした。

 わざと、七原の目にとまるように。

「おい、七原」

 指先で、彼の背中を突付く。

 少し触れた、この瞬間が嬉しいだなんて、全くもってどうかしてる。

 七原は振り返り、

「何?」

と、小声で言う。

「消しゴム落とした。ワリィけど、取って」

 七原は足元に転がった小さな消しゴムに気付き、手を伸ばす。

 綺麗な指先も、さらっと揺れる髪の毛も。

 俺には触れる事の出来ない、神聖なものの気がした。

 その消しゴムは、俺だ。

 拾って欲しくて、ただ待ってる。

 自分から動く事も出来ずに、どこかからの、チャンスを待って。

 拾われるのを、待っている。

「はい。もう落とすなよ」

 七原の手から、消しゴムを受け取って。

 そのまま手でも握ってしまおうかと考えたけど、出来なかった。

 誰にでも屈託のない笑顔で微笑む七原。

 誰にでも、同じように微笑む七原。

 だから、俺が特別なわけじゃない。

 ――特別なのは、三村だけだ。

 

 

 何も出来ずに、ただ見てる。

 見てる事しか出来ないくせに、三村を恨んで。

 そんなのはお門違いだと、分かっていながらどうする事も出来ない。

 七原を見ていると苦しいのに。

 七原の笑顔が、痛いのに。

 俺のものではない事を思い知る度、辛くて、辛くて……

 なのに、それでも好きな俺は、七原の姿をじっと見てる。

 

 

 

 その、繰り返しだ。

 

 

 

END.


4444HITのゆうゆ様からのリク。
『三七←新という感じで、七の事が好きなんだけど、七原には三村がいて…』
という事だったのですが、このように完全片思い話になってしまいました。
『螺旋』というタイトルは、どうかなぁ、と思ったのですが、なんとなく思い浮かんだので…
どうやら私は新井田が好きらしく、なんだか感情移入して書いてます。
報われない想いを書きたい時は新井田!(笑)
37だと、幸せにしてやりたくなるからなんですけどね。
では、こんなもので宜しければ、ゆうゆ様に捧げますv
ありがとうございました〜!