「ああ、そう。よぉくわかった。」

「おい、何がわかったんだよ、七原。話はまだ終ってな・・」

「お元気で。さよーなら。」





ピースオブライフ





「あー、もう、むっかつく!!!」

学校の近くにある、小さな公園のベンチ。

一人で、秋也はジュースを飲んでいた。

もう日が暮れようとし、あたりは薄暗くなっている。

まだ、かすかに夕日の赤さも残っていたが、街灯が照らされ始めていた。

空を仰いで、さっきの出来事を思い出す。

一瞬眉をしかめたあと、秋也はもう一度叫んだ。

「ムカツクんだよ、三村のクソッたれ!!」

「アん?何がムカツクって?」


突然に声を掛けられたかと思うと――

それは、沼井充だった。

「うわっ!沼井・・・クン。」

「クンとかつけんな。気持ちわりぃ。」

ヅキみたいで。

と、充が苦笑した。

「俺オカマじゃないって・・・」

そう言って、秋也も笑った。


充ときちんと話すのは、実は初めてだった。

学校行事のことでは、2、3口をきいたことがあったが。


「で、なににムカついてるって?」

充は秋也の隣に腰を下ろすと、尋ねた。

「あー、いや。別になんでもないんだ。」

「なんだよ、どうせ三村のことだろ。」

「・・・・・・・なんで。」

「だってお前等―――、」

できてんだろ、と言おうとして、充は口をつぐんだ。

この間、覗きをして、知ったとはいえない。

例えソレが、笹川が斡旋していたのだとしても、覗いていたことは、事実だ。

「あー、なんとなくな。」

「ふぅん・・まぁ、そうなんだけどさー・・マジムカツクんだよ、三村!」

「だから何があったんだよ、早く言え。」

秋也は一息置き、言い切った。


「俺との約束破って、女の人とやってた。」




「ハハっ!傑作!つかまさに三村じゃねぇかよ!」

充は大声で笑い、秋也の肩をバンバンと叩く。

肩への刺激と、笑われたことで、秋也の口元が引きつっている。

「笑いごとじゃないよ・・・。しかもさ、場所、三村の家とかじゃないんだ!」

「ど、どこだよ。」

まだあふれる笑いをこらえ、訊ねる。

「待ち合わせ場所から数メートル離れた、路地裏。」





気が済むまで笑った後、ようやく落ち着いた充は、切り出した。

「で、お前どうしたんだ?まさかじゃないけど、覗いてたとか言うんじゃねぇぞ?」

「するわけないだろ!?沼井ってそんな奴だったのかよ!」

秋也の言葉に、突然充の表情が代わった。

怒っているような、今にも泣きそうな。

「・・・そんな奴だって?」

「あー、・・ごめん。」

突如訪れた沈黙に、困惑する。


「あのさ!俺、今日愚痴聞いてもらったし、沼井も何か愚痴っていいよ!!」

「うるせぇ。テメーになんか話すことねぇよ。・・・失せろ。」

うって変わった、充の態度・・・・

秋也は身体が強張ったような気がした。

でも―――

「なんだよ、言いたいことあるならはっきり言えばいいじゃん。カッコ悪。」

ここで引くわけにはいかなかった。

男として。

「・・・・んだと?ぶっ殺すぞ、七原。」

「やれば?出来もしないくせに。」

言った瞬間、充が殴り掛かった――――



不良グループのメンバーに、勝てるほどの喧嘩の自信は無かった。

それでも、弱い方ではなかったし――――

なんとかなる、そう思った。



なんとか、充の一撃目を除け、とっさにベンチから離れる。

すぐに二撃目が、秋也の左頬に迫った。

それも、どうにかかすった程度に収めた。

秋也が拳を固めた時、腹部に鈍い痛みが走って、

――――倒れた。

喉の奥から、鉄があふれてきたような。

充は、倒れた秋也の上に覆い被さると、もう一度顔目掛けて、拳を振り下ろそうとした瞬間。

殴られた。











公園の土の上、二人は寝そべっていた。

荒い呼吸を整えつつ、すでに暗くなった空を仰ぐ。

「七原、なかな、か、やるじゃねぇか。」

「沼井こそ、さすが、ヤン、キー・・・ハァ、グループって感じ。」

「まさか、あの体制で殴られるとは、・・・思ってなかった。」

「・・・・・日ごろから、訓練してるから。」

三村に襲われたとき、逃げれるように。

秋也は、そんなことを考えた。


「・・・・・悪かったな。」

充の謝罪の言葉に、視線を向ける。

「ちょっと・・・ムシャクシャしてた。」

「七原がいて、最初は、殴りつけてやろうとおもってた。・・・結局殴ったけどよ。」

「でも、お前も何かイラついてたみたいでさ、話して、面白かったし。」

そこまで一気に喋り、充は黙り込んだ。

そう、面白かった。

なんだかんだ、三村に対して怒っていても。

七原は笑っている。

――――――所詮、俺とは違う。

だって、俺は、『そんな奴』なわけだし。

ああ、こんなのただの言い訳だ。




七原の顔見てたら。

笑った顔を見てたら、無性に・・・・


バカか、俺は。

ボスがいんだろ、俺には。


「とにかく、イラ付いたから殴りたくなったんだよ!わりかったな!。」

ガバと起き上がり、秋也の額を小突く。

「てっ。」

「それじゃぁな。」

動揺を隠すのに、冷たく、殴ったなんてとてもじゃないが、いえない。

やっぱり俺は不良品だな。

充はそんなことを思った。














次の日の朝。


「なぁ、昨日の続きだけど、俺あの女とやってたんじゃねぇって!」

口元にバンドエイド。

目元に湿布を貼った秋也に、三村が頭を下げていた。

「ナンパされて、路地裏に連れ込まれたんだよ。俺が襲われてたんだぞ!!」


「知ってる。」

「・・・え?」

「昨日、沼井が教えてくれた。」


「・・・・・・・・ちょっと待て。まさか、その怪我・・襲われたんじゃないだろうな・・・」

「まさか。三村と一緒にすんなよ。沼井とじゃれたんだよ。」

秋也が、含み笑いをしてみせた。

昨日のことは、沼井との秘密。

たまには三村も、悩めばいい。

俺だけが悔しい思いをするなんて、割に合わないし。








その日から、三村のブラックリストに沼井が追加されることとなった。





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