夏祭り

 

 

 君がいた夏は 遠い 夢の中

 

 

 湿気が体にまとわりつく。

 気持ちの悪い空気。残暑。

 何もかもする気が起きなくて、ただクーラーのきいた部屋で寝っ転がっている毎日。

 それが、今日はこんなに。

「三村」

「何?」

 咎めるような秋也の声に、信史は首を傾げた。

 夜道。2人並んで歩く。

 特にいけない事をした覚えは――ない。

「さっきから、見すぎ」

 少しだけ、唇を尖らせる秋也。

「何を?」

「……」

 答えたくないのか、黙って信史から視線を外す。

 本当は何が言いたいのか知っていて、それでも尋ねた。

 意地悪だとでも言われるだろうか。

 そうしたらこう言ってやる。

 好きな子ほど苛めたいってやつだ、と。

 この空気に耐えられなくなったのか、秋也が軽く手を上げる。

 自分に向かって振り下ろされるその手を掴んで、信史は笑った。

「だから、何?」

「……浴衣なんか着てくるんじゃなかった」

 ぶすっとした顔をして、秋也が信史の手を振りほどく。

 それが、たんなる照れ隠しにしか見えなくて。

 思わずその体を、抱き締めたくなった。

 けれど、我慢。

「良いじゃん、別に。俺は似合ってると思うぜ?」

 そう。歩いている最中に見かける、浴衣を着た女の子達より。

 秋也の方がずっと、色っぽかった。

「それは、嬉しいけど」

 似合っていると言われて、悪い気はしない。

 けれど、やっぱり恥ずかしくて。

「ほら、早く行かないと」

 そんな信史の言葉に流されて、いつの間にか手をつながれている事に気付きもせず、歩いて行った。

 少しだけ、季節外れの夏祭り。

 

 

 

 わたあめ。

 金魚すくい。

 たこ焼き。

 りんごあめ。

 屋台に群がる子供達。

 浴衣の帯に、うちわを挟んで。

 ざわめく声が、遠くに聞こえて。

 秋也は小さく、息を吸った。

 のどが空気を洩らす音を立てる。

 声を上げようとしても、出てくるのはくぐもったうめき声だけで。

 目の前にいる男の肩に、強く爪を立てた。

「っつ……」

 一瞬顔を歪めて、それでも口元の笑みは消さずに。

 信史は秋也の目尻を軽く舐めた。

「辛い?」

「……ったり前……だろっ」

 背中に当たる、太い木の、がさがさした感触。

 突き上げられる痛みに、悲鳴をあげる体。

「うっ……く」

 泣きそうになりながら、必死で信史にすがって。

 力が抜けて、崩れ落ちそうになる膝を、何とか堪えて。

 それでも信史は、突き上げる事をやめてくれそうにはなくて。

 乱れていく浴衣を、どうやって直そうかなんて考えながら。

 遠くで、花火の始まりの音を聞いた。

 

 

 

 浴衣を着付けてくれる信史を、ぼうっと眺めながら、秋也は彼の髪に、そっと触れた。

「祭りに来たのに」

 小さな文句を、信史が聞き漏らすはずも無くて。

「まだやってるだろ」

と答えると、軽く髪を引っ張られた。

「食欲無い」

「俺は七原でお腹いっぱい」

「バカ三村」

 どこまでも自分勝手な奴だ、と悪態を吐いて。

 帯を直してくれていた信史の顔を掴み、口付けた。

 遠くで、花火の音がする。

「来年また来よう」

 そしてまた、同じ事を繰り返す気かと秋也が言うと、信史は笑った。

「それはご想像にお任せします」

 

 

 

 空に消えてった 打ち上げ花火

 

 

 

END.



13000HITの日生由岐さまのリク。
『夏祭りか何かで七原浴衣で37』ちょっぴり裏仕様にしてみました。
そして、題名そのまま…
そしてちょっとだけ切なく…?
やたらと短い気がするんですが、こんなんで宜しかったでしょうか…(汗)
あ。今見直したら、日生さんの小説とセリフ被ってる…「バカ三村」(苦笑)
と、とにかく、これは日生さんに捧げます。
ありがとうございました〜!