――月。

 太陽の光を反射して輝く月。

 自分の力で光る事が出来ない月。

 昼間は太陽の光に負けて、その存在すらも希薄になる月。

 

 まるで、俺みたいだな。

 

 信史は、そう、自嘲気味に笑った。

 

 

 

「七原、キスして」

 とても、天気の良い日だった。

 こんな日は、やっぱり外にいたくて。

 けれど、人の多い中庭や、土埃の舞うグラウンドよりも。

 一番太陽に近い屋上に2人がいる事は、多分必然。

 信史の言葉に、秋也は一瞬キョトンとして。

 それから、仕方がないな、という風に唇を寄せた。

 普段なら、したい時は自分からしてくるような男なのに、たまにこういう時がある。

 口付けを交わした自分の唇を、そっと指で触れて、信史は微かに笑った。

「もっと」

「何?甘えてんの?」

 いつもとは、立場が逆。

 けれど、こういう時の信史は驚くほど素直だ。

「七原、キモチイイんだもん」

「俺は三村ほどキス上手くないよ」

 そう言って、秋也は苦笑した。

 何度しても、どうにも上手くならない。

 自分だって、出来れば信史のように上手いキスをしてあげたいのだけれど。

「触れてるだけでもキモチイイ」

 最初から、信史の言葉に逆らうつもりはない。

 ゆっくりと、今度は深いキスをする。

 いつもの、セックスの最中にするキスとは違った、柔らかいキス。

 しばらくしてから唇を離すと、ぽろりと。

 信史の目から涙が零れ落ちた。

「三村?」

「あ、悪い……何でもない」

「何でもないのに泣くわけないだろ」

 秋也は指先で信史の涙を拭う。

 こんな風に、静かに感情を表す事は、そう珍しくはなくて。

 いつも教室で、少し嫌味に笑う信史を知っていると、まるで別人のようにも思えるけれど。

 これが、自分だけに見せる姿だと思うと、秋也には愛しくてたまらなかった。

「どっか痛いのか?」

「目」

「目?ゴミでも入った?」

 心配そうに信史の目を覗き込む秋也を間近で見て、信史は目を細める。

「眩しくて」

「太陽が?」

「七原が」

 小さく、溜息。

 信史はよく、こんな風に自分を過大評価する。

 そうして多分、自分を卑下しているのだろう、心の中で。

 秋也には、それが苦しくて仕方がなかった。

「俺には、三村だって充分眩しいよ」

 本当の事を、言っているのに。

 本当にそう思っているのに。

「俺は月だから」

 信史はそう言って、寂しそうに笑うのだ。

「七原がいないと、自分で光る事も出来ない月だから」

「そんな事……」

 ないと言っても、駄目なんだろうな、と思う。

 どうしたら彼の気持ちを、楽にさせてあげられるのだろう。

「七原は、例えるなら、太陽」

「……」

「地球に住む、たくさんの人間や、生きる物全てに、必要とされる太陽。

 ――七原そのものだろ?」

 そして自分にも、と、信史は続けた。

「三村」

 何を言っても無駄かもしれない彼に、思い出した話をひとつ。

「月の引力のおかげで、地球はここに存在する事が出来ているんだって、知ってたか?」

「ん?」

「よく、覚えてないけどさ。月が地球を引き付けているから、地球はここにあるんだって。

 でないと、軌道を外れてしまうんだって」

「……七原」

「三村、お前だって、必要なんだよ。みんなにも、俺にも」

 だから、と。

「そんな、悲しい事……言うな」

 辛そうに、秋也が目を伏せる。

 そういう所が、信史にとっては太陽そのもので。

 眩しくて、見続けていると目が痛くなる事を知っていながら、見たくて仕方がない。

 その太陽を、今、独り占めしているのは自分で。

「七原……キスして」

 多くの人に、必要とされる秋也。

 いつかは、自分の側を離れて行ってしまうかもしれない秋也。

 今はただ、この温もりだけが真実で。

 信史の頬を、静かに涙が零れ落ちた。

 

 

 

 大丈夫。俺がいなくても、お前は輝き続けられるから。

 

 

 

END.



22000HITの涙さまからのリク、『プログラム関係なしで三村が泣く話』でした。
三村が泣く時って、どんな時だろう?と、色々考えてみて。
なかなか思い浮かばなくて、こんな話に…(汗)
この話の冒頭にある短文。実は私が以前日記に書いたものだったりします…
いつか書きたいなぁと思った、太陽と月のお話。
やたらと三村が弱くて情けない気もしますが…
そして、なんか少しプログラム入ってる気もしますが…
こんなんでよろしかったでしょうか…

というわけで、これは涙さまへ捧げます。
ありがとうございました〜v