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兄妹 ずっと、憧れていた。 頭が良くて、カッコ良くて、誰にも媚びない、その姿勢。 女性関係は……まぁ、尊敬出来ないところではあったけれど。 それでも、おにいちゃんは完璧だった。 三村信史は、完璧だった。 「おっ、郁美。お帰り♪」 帰ってきた瞬間、兄、信史のとびっきりの笑顔に出迎えられて、郁美は怪訝そうに眉を寄せた。『家にいる時の兄は機嫌が悪い』それが郁美の頭に植え付けられている事実だったからだ。何が気に入らないのかは知らない。信史は父とも母ともめったに口を利かず、自分の部屋に閉じこもっているか、家にいない事が多かった。それなのに、最近は妙に家にいる事が多く、こうして友達の家から帰って来た郁美を出迎える事もしょっちゅうだった。 「おにいちゃん、何かあった?」 思わず尋ねた郁美に、信史はニヤッと笑って、 「別に?」 と答える。それが嘘である事など、長年彼を見続けている自分には分かる事。 「あぁ、シューヤくんが来たんだね」 そうであろう事も、大体は想像がついていたのだけれど。多分、認めたくなくて、気付かないふりをしていた。 秋也が遊びに来た時、信史の隣にある自分の部屋に一人でいるのも嫌だし、帰って来た後に秋也が来ていた事を知るのも嫌だ。兄に敵わない事を知っていても、どうにもならない気持ちだってある。 信史は多分、郁美の気持ちを知らない。気付きもしない。多分、あまりに近くにいすぎて、分からないのだろう。けれど、気付いて欲しいとも、郁美は思わない。それで大好きな兄との関係がギクシャクするのは絶対に嫌だった。自分は秋也が好きだけれど、信史の事も、大好きなのだから。 「あぁ。郁美によろしくってさ。今度来る時は、郁美にも会いたいって言ってたぜ?」 そういう残酷な優しさが、秋也の良いところでも、悪いところでもある。実質“恋人”である2人の間に入って、郁美に何を話せと言うのだろうか。 郁美は、そう、と答えてちらっと信史の襟元を見た。少しだけ乱れたシャツの襟から見え隠れする、鬱血。持ちたくも無い知識だけは、きっちりと頭に入ってしまっていた。間違いなく、それは兄のせいだ。 少しだけイライラして、郁美は信史に微笑みかける。 「おにいちゃんは恋愛結婚したい?お見合いでもいいと思う?」 自分でも、厭味な質問である事は分かっていた。信史が、秋也とは結婚出来ないという事実を、思い知らせるためだけの言葉。いつかは別れなければならない事を、思い知らせるためだけの、厭味な言葉。そんな事しか出来ない自分に、腹が立つのに。 「――俺は結婚はしないかも知れないな」 信史はそう言って、郁美に笑いかけた。郁美の言葉が厭味であった事すら、気付いていない。いや、もしかしたら、気付いていて知らないふりをしているのかもしれない。郁美の兄は、そういう男だから。 (あぁ、そう。そうなのね) 郁美は信史の笑顔を見ながら、妙に納得してしまった。自分が兄に敵わない理由を、目の当たりにした気がした。 誰にも負けない、意志の強さ。 信史は一生、秋也を想い続けるのだろう。だから、誰とも結婚しない。そんな事、分かりきっていた事なのに。 おにいちゃんは、修学旅行に行くと言って家を出たきり、帰って来なかった。 政府の人が、息子さんは本年度の“プログラム”に選ばれましたと伝えに来て、お父さんもお母さんも、それをただ聞いていた。私はそれを階段の上で聞きながら、妙な浮遊感を味わっていた。“プログラム”についての知識は持っていたし、それがどういう事を示しているのかも、分かっていたけれど。 その数日後、今度はおにいちゃんが死んだという報告を持って、政府の人達はやって来た。お母さんは泣いていたけれど、お父さんは一度目を閉じただけで、涙は見せなかった。 そうして、おにいちゃんのお葬式の準備が進んで行って。 何をしているんだろう、と、私は思った。 「郁美、大丈夫だからね。大丈夫だから――」 お母さんはそう何度も繰り返して、私を抱き締める。 おにいちゃんの学校から、たくさんの人がお葬式にやって来た。たくさんの女の人が泣いていて、たくさんの人が、私を抱き締めていった。 何をしているんだろう、と、私は思った。 だって、おにいちゃんは死んでいないのに。 テレビでやってた。お父さんは、見てはいけないって言っていたけれど、そこに映っていた写真の彼は、間違いなくシューヤくんだったよ? シューヤくんは生きている。 それなら、おにいちゃんが死ぬわけ無いよ。 だっておにいちゃんは、一生シューヤくんと一緒に生きて行くんだから。私の気持ちには気付きもせず、2人で幸せそうに、笑っている。私はそれを見ているだけで、悲しいけれど満足なの。 だからきっと、おにいちゃんはシューヤくんと結婚出来る所に行っただけ。 みんなは何を言ってるの? 私は、信じてる。おにいちゃんが死ぬわけ無い。 END. なちこが素敵郁美ちゃんイラストを描いてくれたので、触発されてみました。 是非ご覧になって下さいませ!!可愛い郁美ちゃんがっ。 プログラム後の郁美ちゃん話とか、絶対に自分では書かないだろうと思ってたのに… 色々な方の作品を拝見しましたし、私ごときが書かなくても素敵小説がたくさんある事は分かりきっている事だったので… そして、あまりに有名すぎるあの言葉を、こんな形で使ってしまう自分… 上手く表現できたのかどうか、凄く不安になります… やっぱり、原作にリンクさせた小説って難しいですね… そして、相変わらずひねりの無い題名…(涙) |