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苦しみ 充は普段、体に触られる事を嫌がった。 警戒心が強すぎるらしいが、それが桐山に対してだけは別である事、竜平は知っている。 充の心の中に誰がいて、誰が特別であるかなど。 見ていれば分かる――そう、誰にでも分かる事。 桐山が秋也と仲良くしていると機嫌が悪くなる事も。 それなのに、そうやって秋也を眺めている事も。 (難儀な奴……) 竜平はそう思いながら、机に伏した。 このまま授業が終わるまで寝ているつもりだった。 授業が終わる頃に目を覚まし、竜平は席を立つ。 見ると、授業中頬杖をついていた充は、未だにその格好のまま、固まっている。 博と共に近付いても、気付いてすらいないようだった。 普段なら、自分の縄張りに入られるとすぐに反応する、あの充が、だ。 「充、何ボーっとしてんだよ?」 博が声をかけると、充は座ったまま振り返った。 まだ焦点の合っていないような目。 こんな事は珍しかったから、博は不思議そうに充を見た。 「あー……もう学校終わりだっけか?」 まだ、ぼうっとしている。 竜平は、少しイライラした。 その理由が分かっていながら、わざと気付いていないふりをする。 「お前、熱でもあるんじゃねーの?」 そうではない事を知っていながら、充の額に手を当てた。 自分の額の温度と比べて、 「……ねぇな」 と、当たり前な事を言う。 熱なんかでも、具合が悪いわけでも無い。 ただ、竜平にとっては“くだらない事”で悩んでいるだけの充。 「うるっせぇな。触んじゃねーよっ!」 充はそう言って、竜平の手を乱暴に払った。 これもいつもの事で、どこか充の様子がおかしいと思っていた博は、その態度に少しほっとした。 竜平は軽く口笛を吹く。 (強がっちゃって) そんな充の態度が、あまりに彼らしくて。 平気かと思ったけれど。 竜平の心に広がる黒い染みは、拭えるものではなかった。 冷めた目をして、教室から出て行く。 それから、わざと聞こえるようにつぶやいた。 「ボスが触っても何も言わねーくせに」 そんな事、分かっている。 自分で確かめる事も無い。 誰が見たって、どう見たって、桐山と自分は別格なのだ。 張り合う事すら出来ない。 「オイ、竜平!」 博は慌てながら、竜平の後を追って教室を出た。 廊下に出ると、竜平の顔がひどく辛そうで。 「リュウ、バカじゃん?」 思わずそう言うと、竜平は目を閉じた。 「うっせぇ……」 それは、彼の口癖。 いつも言われているから、伝染ってしまったのかもしれない、口癖。 竜平は、無言で部屋に上がり込む充の背中を見ていた。 普段から、家に両親がいる事はめったにないし、来たい時は勝手に来て、勝手に上がれと言ってあるから、それもいつもの事で。 こんな時に何をするかも、お決まりの事で。 「ヤりに来た」 充はそう言って、学ランを脱ぎ捨てた。 わざと充自身を傷付ける行為に。 心など癒されない、ただの捌け口に、この行為を利用させようとしたのは竜平の方だった―― 誰彼構わずケンカを売って歩くよりは、この方がずいぶんマシだったから。 体に残る傷は。 竜平の心に残る傷は、かなり重いものであったけれど。 分かっていた。 お前が誰を見ているか。お前の心に誰がいるのか。 ボス――桐山しか映さなかった瞳に。桐山の存在しか許さなかった心に。 いつの間にか住み着いたあいつを、認められずにいるのだろう。 俺には、それを追い出す事すら出来ない。 お前のストレスを解消させる方法も、心の中を綺麗にしてやるやり方も、俺は知らない。 苛ついて。むしゃくしゃして。 何もかもどうでも良くなっているお前に、俺が出来る事なんて。 ――ただ、めちゃくちゃにしてやる事だけ。 何も考えなくて済むように。考えさせないように。ただ一瞬、何もかも忘れて。思考が停止するほど。 ――壊れるように、お前を抱く事だけ。 何かから逃げて、俺に抱かれる。それがお前の為になるだなんて、思った事はない。 充が苦痛に歪んだ顔をして、何かを考えている。 この行為に痛みを感じているわけじゃない。きっと。 「痛いのは胸だろ、バーカ」 それは、俺自身への言葉でもある。 充は気付かないふりをして、俺から目を逸らす。 いや、最初から、見てなんていなかった。 「お前が俺んとこ来るのなんて、こういう時ばっかな」 そうさせたのは俺。 「っ……うるせぇよっ……ぅくっ」 一回強く突き上げると、充は小さくうめいた。 喘ぐ事を拒否するように、強く唇を噛みしめる、意地っ張りなお前。 「も少し可愛げがあれば、優しくしてやんのによ?」 充が、乱暴に突き上げられる事を望んでいるのを知っていながら、そう言った。 これ以上自分を傷付けて、お前、どうなるんだ。 「っせぇっつってんだよっ……!!」 俺を睨むその視線が、俺に向けられたものではない事も知っている。 「迫力ねぇよ、こんな格好で」 「ぅあッ……」 知らないだろ? お前を抱く事で、傷付いてるのはきっと俺だ。 「今のお前、すげぇカッコワリィ」 好きなものなら手に入れて、さっさとどうにかなっちまえば良い。 こんな風に悩み続けるお前を、見ている事すら辛いのに。 愛してるなんて陳腐な言葉。吐くつもりなんか全く無くて。 お前を傷付けながら、自分が傷付いてる。 知らないだろ? 俺はお前を救いたいのに、お前はそんな事、これっぽっちも望んじゃいない。 カッコつけようとしたお前の、全てを否定して。 無理する必要ないなんて、優しい言葉をかける事すら出来なくて。 それでも、お前はお前のままでいて欲しくて。 誰かに心を乱されて欲しくなくて。 それは幼稚な独占欲―― 「お前、こんな物でボスと通じ合おうとしてんのかよ?」 違うだろ。お前が許せないのは、ボスの事じゃなく。 勝手に心に入って来て、お前を乱した七原なんだろう? 好きだなんて言葉では表せない。 大切だなんて言葉は似合わない。 この気持ちをどう表現したら良い? 愛情なんかじゃなく、友情なんかでもない。ましてや同情などでも―― ただ、落ち込んでいるお前を見るのが嫌なんだ。 そんなの、“らしく”ない。 「ウザいんだよ、お前。――消えろ」 好きなのに、八つ当たりのような言葉を投げつける。 なんて不器用な―― 俺を見ているようで。 お前は周りが見えなくて。自分の事で精一杯。 ボスの事も、七原の事も。二人を好きになるなんて、許せない事で。 妙に誠実なお前は、それでも俺に抱かれてる。 矛盾した行動に意味なんて無くて。 ただ、俺を見ていないだけ。 「充、カッコワリィー」 俺の気持ちに、気付こうともせず。 「……るせぇよ……」 そうやって、否定し続けるんだろう。 それなら俺は、ドウスレバイイ? END. 以前、キリリクで書かせて頂いた、『痛み』の続編――と言うか、笹川サイドのお話です。 『痛み』の方は、ただ単に沼→桐→七←沼な話を書こうと思って、たまたま何故か笹沼設定が出来上がったのですが。 そのおかげで、笹沼大好きになってしまいました。今は、私の中で37に匹敵する勢いです(え) 37スキーさんにはつまらないお話かもしれませんが、書いてる本人、異様に楽しいので… 許して下さい…(汗) 同じ話を違う視点で書いてみるっていうのは、結構面白くて。 笹川が妙にいい奴になってる気がしますが。完全片思いな笹川に、感情移入してしまう私。 私の中の笹沼は、こんな感じですね。 あとは、笹川がもっと歪んでいるお話があるのですが。 それはまた、裏の話…(笑)機会があれば、書きたいと思ってます。 ほとんどオリジナル設定に近い桐山ファミリー(ヅキなし)ですが、ど、どうなんでしょう? 尻切れトンボな感がありますが…感想頂けると、もの凄く喜びます…(ぺこり) |