告白

 

 

 こんな気持ち、気付かなければ良かった。

 そうしたら、ずっと側にいられたのに。

 

 

 最近の信史の様子がおかしい事に気付いたのは、豊でも飯島でもなければ、弘樹でもなく、やはり秋也だった。

 いつもは鈍感すぎるほど何も気付かない秋也なのに、信史の様子に気付いたのはわけがある。

 ――どうやら、信史は自分を避けているようなのだ。

 目が合うとすぐに逸らされるし、他にも色々……

(俺、なんかしたかなぁ?)

 最初は、気のせいだと思った。けれど、気のせいなどではなさそうで。

 思い切って、放課後、様子を見に来た。彼が部活を行っている、体育館に。

 こうして部活をしている信史を見ていると、いつもとなんら変わりはないように見えるのだけど――

 考えていても仕方がない事は分かっていた。

 だから。

「三村!」

 休憩の合間に声をかけると、信史はまともに動揺の色を表した。

 見開いた目とか。止まった動きとか。

 こんな事は珍しい。

 だが、信史はすぐにいつもの表情に戻った。

「七原……どうしたんだ?部活は?」

 こんな時間に体育館にいるはずのない秋也を見て驚いたのかもしれない。

 しかも、名前を呼ばれるあたり、秋也が自分に用があるというのは分かったのだし。

「サボった」

 意外そうな目で、信史が秋也を見ている。

 まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったらしい。

 通りかかったとか、そういう答えを予想していたのだろう。

「お前が、サボった?何で?まさか、俺の姿を見に来たとか?オーケイ、任せろ。かっこいいとこ見せて惚れさせてやるぜ」

 いつものような信史の冗談。

 なんの変わりもないように見える。

 目を逸らされるわけでもないし、迷惑がっているようにも見えない。

 秋也は勘繰るのをやめて、複雑な笑みを見せた。

「今日、一緒に帰れるか?誰かと約束ある?」

「ん?あぁ、大丈夫だ。愛しいハニーの為なら、他の女の子なんか撒いて見せるさ」

 そう言ってウィンクしてみせる信史は、本当に、いつもと変わらないように見えた。

「誰がハニーだよ」

と秋也は笑い、考えすぎだったと思おうとする。

(考えすぎだよな、うん。俺、三村に何かした覚え、ないしな)

 

 

「お待たせ」

 信史は更衣室から出てくると、バスケットボールをもてあそんでいる秋也に声をかけた。

 秋也は心のどこかで、すっぽかされるんじゃないかと思っていたので、少しほっとする。

「待たされた」

 おどけるように言ってからボールをかごに投げ、信史の隣を歩く。

 体育館を出て、昇降口へ。部活帰りの生徒が何人か歩いている。

 自分達も同じように、ただ、歩く。

 信史は……何も言わなかった。

(あれ?)

 また、妙な空気。

 秋也はドキドキしながら信史を見た。

 信史の顔が、何となく強張っているように見える。

「……」

(また、この顔だ)

 この顔を、最近良く目にする。

 何を考えているのか分からない。

 考え事をしているだけならいいけれど……

「三村……」

 秋也は勇気を出して、信史を呼んでみた。

「何?」

と信史は言うだけで、秋也の方を見ようとはしない。

 歩いている最中に視線を横に送る事は少し危ないかもしれないが、後ろにも目があるんじゃないかと疑いたくなるような信史にそんな理屈は通じない。

 それどころか、少し顔を逸らしているように見える。

 気のせいなら構わない。気のせいなら。

 秋也は、一度大きく息を吸って、

「俺、なんか、したか?」

 思い切って訊いてみると、信史は無言で首を振った。

「じゃあ、何で……」

(何で最近、俺のこと避けてるんだ?)

 訊けない。

 それは、訊けない。

 答えを知るのが、怖いような気がする。

 信史は秋也にとって大事な友人だった。

 ここだけの話、密かに尊敬だってしているし、何度この男に助けられたかなんて数え切れないほどだ(主に宿題などがあった時だが)。

 だから、もし、避けている事を認められてしまったら……秋也は立ち直れないかもしれない。

「――七原」

 信史が口を開くと、秋也はビクッと肩を震わせた。

 その口から発せられる言葉が怖かった。

 肯定?

 それとも、否定?

「俺、こっちだから」

 信史はそう言って分かれ道の右を指す。

 秋也はいつの間にかそんな所まで歩いて来てしまった事に気付き、後悔した。

(しまった。これじゃ何のために部活をサボったのか分からないじゃないかっ)

「三村っ」

 思った時には呼んでいた。

 信史は不思議そうな顔で秋也を見ている。

「あ、あー……あのさ、なんか、最近変じゃないか?悩みとか、あれば聞くけど……」

 自分がその原因だとは思いたくなかった。

 信史も、その点だけは否定しているけれど。

「悩み?」

 少しためらった後、信史が小さく息を吐いたのが分かった。

 ――言う気なのだ。

「俺の悩みは、七原を愛しすぎちゃって困るって事かな」

 いつもの調子で、信史は言った。

 信史の言葉に緊張すらしていた秋也は、一気に力が抜けるのを感じる。

(まったく、こいつはいつもこうだ)

「お前なぁ、人が真剣に……」

 秋也はそう言いかけて、言葉を飲み込む。

 信史の目が、ものすごく真剣に見えた。

 今まで見たことのないような……

「三村……?」

「――本気、だぜ?俺は」

 秋也の腕をグイッと引っ張り、その体を抱きしめる。

 自分の言葉を、真実だと証明するかのように。

 愛しい想いを、ただ込めて。

 ゾクッ

 秋也の体に走る、“何か”。

「七原の事が、好きなんだ」

 一言ずつ、はっきりと信史は言う。

 秋也は頭で理解するより早く、信史を突き飛ばしていた。

「……ハッ……!何だよ、それ?」

 自分の声が震えているのが分かった。

 信史の言葉の意味が分からなかった。

「お前、何言って……」

「……本気だって、言っただろ?」

 突き飛ばされた信史の目は、心なしか寂しそうで。

 それでも声は、いつものようにしっかりしていた。

「……嘘……嘘だ。嘘だ!嘘だ!!じゃあ、あれは?俺の事、避けてたじゃないか!?

 ――混乱。

 そんなの、と、信史は軽く息を吐いた。

「ったりまえだろ、まじまじ見てたら理性がもたねぇ」

「だって、そんな……」

 何を言ったら良いのか分からなくて、何も考えられなくなって。

 秋也はその場から逃げ出した。

「七原……!」

 後ろで、信史の声が聞こえた気がしたけれど、秋也は走り続けた。

 頭がおかしくなりそうだった。

 

 

 帰って来たと思ったらぜいぜいと肩で息をしている秋也に、慶時は声をかける。

 ここまで走って帰って来たのだろうか。

「秋也?どうかしたのか?顔色が悪いみたいだけど……」

「慶時……」

 泣きそうな顔の秋也。

「な、何?どうかし……」

「俺、女に見える?」

「は?」

 慶時は間抜けな声をあげ、秋也の額に手を当てる。

「秋也、熱でもあるんじゃ……ア!?熱いぞ!?

 冗談のつもりだったのに、本気で熱のあるらしい秋也の体を、慶時は支えた。

 クタッともたれかかってくる秋也に戸惑いながら、慶時は安野先生を呼ぶ。

 

 

 理解、できねぇよ……何なんだよ……

 “好き”って、何だよ、三村ぁ……

 

 

To be continued…


37青春恋愛シリーズ第2弾(笑)『SECOND』です。
今回は、葛藤メインで書いていきたいな、と。
七原の事が大好きな三村と、男同士の恋愛に理解のない七原のいる話です。
前回のシリーズでは、お互い最初から両思いみたいなものでしたが、今回の七原は最初から完璧に三村の事を“友達”としか思ってないです。
サブタイトルは、頑張れ三村くん。
ところが、今回のお二人は、妙にシリアスのまま進んでいくので、サドチックでも無く、かっこ良くも無い三村がここに。良いのか、私。
シリアスを目指して玉砕する事確実のこのシリーズ。
果たして二人はラブラブになれるのでしょうか?
乞うご期待!(笑)