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自分の体が、消えてなくなるのなら。 存在を留めておくために、出来る事はただひとつ。 ――傷を。 深い傷を残していこう。 あなたの心に、いつまでも俺が残るように。 傷痕 「あと1ヶ月の命です」 そう、医者に言われて。 秋也は、目の前が真っ白になるのを感じた。 自分の体は、自分が一番よく分かる、なんて。 そんなの嘘だ、と。 思いながら、ただ。 膝の上に置いた拳を、握り締めた。 良子先生が、何か、悲鳴に近い声で、医者に話し掛けている。 縋るような、そんな、姿が。 何故か、他人事のようで。 あと1ヶ月、とか。 命、とか。 ――死ぬって、事? 理解したのは。 死んだら、“彼”に会えなくなるという事、だった。 それを理解した瞬間、秋也は、声にならない叫び声を、あげた。 「三村っ!帰りにバスケしようぜ!」 放課後、HRが終わるやいなや、秋也は信史の席へやって来た。 信史は一瞬間を置いて。 「お前、病み上がりじゃなかったのか?」 「治ったから学校来てるんだろ。大丈夫だって」 そう言う秋也は、確かに元気すぎるほど元気に見えた。 「つぅか、俺はこれから部活でバスケするんだけどな? 何?その後付き合えって事?」 「そーゆー事っ!」 満面の笑みで頷く秋也の、考えを変える事はほぼ不可能。 信史はわざとらしく溜息をついて、鞄を肩に背負った。 「終わるまで何してるわけ」 「三村が部活やってるのを見てる、とか?」 「お前は俺の彼女か何かか」 信史は笑って、そのまま教室を出た。 その背中を、少し眩しそうに見つめてから、秋也は叫ぶ。 「音楽室にいるから!」 ひらひらと、右手を振る信史を見送って、秋也は笑った。 大丈夫。 誰も、知らない。 慶時でさえも。 誰もいない音楽室で、秋也は窓からグラウンドを見下ろした。 吹奏楽部の練習は、今日はないらしい。 それを知っていて、ここに来たのだけれど。 「み、む、ら」 唄うように、彼の名を呼ぶ。 それだけで、心が幸せで満ちて行くようだった。 クスっと、秋也は笑って。 グラウンドで走り回る運動部の姿を見ながら、鼻歌を唄った。 ダムッ バスケットボールが弾む音が、体育館に、響く。 部活後で疲れているはずの信史は、汗だくになりながら。 それでも、楽しそうで。 「次に決めた方がジュース1本!!」 そう言いながら、華麗にシュートを決めて見せた。 「ちょっと待てよ、三村!今のナシだろ!!」 「聞く耳持ちません」 「『次に決めた方がジュース1本奢る』とかならオッケー」 「どんなルールだよ」 そんな、くだらない事を言い合う時間。 「じゃあ、次に決めた方が、相手の秘密を聞ける、とか」 「七原、ガキくせぇ」 「何だよ!」 「ヒミツねぇ〜。俺にヒミツなんてありませんよ?」 「嘘つけ!」 「七原にはあるのか?」 信史の言葉に、秋也は一瞬ぎくりとした表情を浮かべた。 「何、その顔は。俺に言えない秘密があるわけだ?」 じっと、信史の目を見て。 秋也は、呼吸を落ち着かせた。 「――あるよ」 秘密。 頭に浮かぶ、ひとつの事を。 口にしてしまおうかと、一瞬迷って。 「俺、三村が好きなんだ」 そう言った瞬間、空気の流れが変わったようだった。 驚いたような顔をした信史が。 ふわっとした、優しい笑顔を作って。 「知ってるよ」 と。 秋也は驚いたような顔をした後、同じように笑った。 「やっぱり、バレてたか」 じっと。 見つめ合う時間が、永久に続くかと思うほど。 苦しさに似た、心地良さ。 「……」 言葉に出来ないものが、溢れるかと思った瞬間。 信史と秋也は、同時に吹き出した。 「あっはははは。マジおかしー!」 「んだよ、七原!せっかくノッてやったのに!」 「三村のあの顔!」 「ホント、七原もなかなかやるよな」 2人で、笑い転げて。 寝転んで、体育館の天井を見上げた。 「……せ、だなぁ……」 「ん?」 聞き取れなかった秋也の言葉を、信史は聞き返したけれど。 「ん、何でもない」 秋也はそう言って、目を閉じた。 この空間が、何よりも大切に思えた。 次の日、秋也が学校を休んで。 無理をしたせいで、風邪をぶり返したのかと信史が思っていたら。 クラスの女子の悲鳴が聞こえてきた。 「朝から何ごと……」 近くにいた豊に、話し掛けた瞬間。 「七原くんがっ……!!」 信史は、理解の出来ない言葉を、耳にした。 「シューヤが!?」 豊が叫んで。 教室の至る所で、驚きの声と、泣き喚く、声が。 信史はそれらの光景を眺めながら、どこかぼーっとしたように、豊の名を呼んだ。 「……豊」 「シンジっ……!!」 目に涙を溜めた、豊の顔をまともに見る事もないまま。 信史は。 「……あいつら、今、なんて言ったんだ」 「シンジ、シューヤがっ、シューヤが……!!」 「死んだ、ってッ……!!」 口にした瞬間、壊れたように豊は泣き崩れた。 それさえも、非現実的なものに見えて。 信史は何も、口にする事が出来なかった。 だって、昨日。 彼はここにいたし、いつものように笑って。 帰りに一緒にバスケを。 くだらない事を言い合って、それで。 『俺、三村が好きなんだ』 違う。 あれは冗談だと。 だから。 笑って。 一緒に。 体育館の天井を―― 『幸せ、だなぁ』 ――七原!! 走り出していた。 信じる事が、出来なかった。 向かう所なんてただひとつで。 走りながら、どうしても。 彼の笑顔が、ちらついて。 『俺、三村が……』 突然死んだなんて、そんな事、受け入れられるはずがない。 嘘だろう? だって何で、お前が死ななきゃならないんだ。 どうして! そこは、悲しみに満ちた、空間だった。 息を切らす、信史を。 黙ったまま迎える良子先生、が。 痛々しいほどに目を腫らしていて。 「秋也くん、昨日が最後だって、知って、いたの……」 そう、彼女に言われて。 理解が、出来ずに。 『三村が、好きなんだ』 冗談? 違う。 知ってる。 知ってた。 知ってたのにはぐらかした。 最後だったのに。 あれが最後のチャンスだったのに。 どうして。 どうしてだ、七原……! 彼の部屋に、彼はいたけれど。 「七原……何でなんだ?」 彼は、もう、何も口にする事はなかった。 最後だったのに、何故。 冗談なんかで、流したんだ。 深い、傷を残していこう。 あなたが、いつまでも俺を忘れないように。 俺が死んでも、ずっと、後味の悪さを味わってくれるように。 それだけが。 俺の生きた証なのだから。 それが。 大好きなあなたに、俺が残せる最後の…… END. 30000HITのテトさまからのリク、『病魔に侵された七原で37』でした。 かなり素敵なリクを頂いたのですが、私なりにアレンジしよう!と意気込んで…これ…(汗) この、不治の病ネタはいつかやろうと思っていて、考えていたもののひとつに、「七原が死ぬと見せかけて三村が死ぬ」というオチがありまして。 いくらなんでもそれはねぇだろう、と… で、七原を少々黒くしてみたわけですが。 い、いかがでしょうか…(びくびく) 個人的には、七原がグラウンドを見下ろして鼻歌を唄うシーンは好きだったり。 ちなみに、「最後の……」の後には何が続くか、それはご想像にお任せするという形で… こんなものでよろしければ、テトさんに捧げます♪ ありがとうございました〜! |