きっと

 

 

 多分とても。

 とても好きだった。

 一緒にいる事も、話す事も、触れる事も。

 とても好きだった。

 

 

 きっと、眠いのだろう。

 飯島敬太は、大きなあくびを一つして、目を閉じた。

 授業中でさえ眠っている事が多いこの男が、体力を使った後は回復するために、すぐ眠りにつくなんて事、とっくに覚えてしまった。

 信史は、そのまま深い眠りに落ちていく敬太の髪に触れる。

 軟らかいわけではないが、ツヤのある、綺麗な黒髪。

 特にさらさらしているわけでも無いけれど、その髪を梳いていると、何故だか心地良くなる。

 そんな事さえお構い無しに、敬太は一人で寝付いてしまった。

(あーあ。また一人で寝ちまったよ)

 そう思いながらも、機嫌を損ねているわけではなくて。

 その、安らいだような寝顔が、とても好きだったから。

 せめてシャワーでも浴びてから寝れば良いのにとは思うのだが、敬太にとってそれはどうでも良い事らしい。

 信史が何度言っても、敬太はシャワーなど浴びる事無く眠ってしまう。

 汗と体液にまみれているのはお互い同じで。

 信史としては今すぐにもシャワーを浴びたいところなのだけれど。

 それでも、動けない。

 結局自分は、敬太の寝顔を見るのが好きなのだと思う。

 疲れて眠いのも、同じだったけれど。

 信史はずっと、敬太の寝顔を見つめていた。

 

 

 時間くらい経っただろうか。

 敬太は起きる気配すら見せず、信史のベッドの上でひたすら気持ち良さそうに眠っていた。

 その隣で、敬太の寝顔を見続けている信史。

 髪に触れても、肌を触っても、ピクリとも動かない敬太。

「飯島ぁ、そろそろ起きる気、ない?」

 寝顔を見ているのは好きだけれど、このまま放って置かれるのはつまらない。

 時間は無限にあるわけではないし、きっと敬太は、起きたらすぐに「帰る」と言い出すだろう。

 うめきもせず、静かに眠り続ける敬太は、まるで眠り姫のようで。

 思わず、その寝顔にキスをした。

 敬太の唇は温かくて。ずっと触れていたい気分になる。

 それでも、眠っている間に襲おうだなんて思いはしなくて。

「飯島、起きろよ。飯島……」

 耳元で囁き続けると、敬太の寝顔が歪んだ。

「……三村、うるさい……」

 起きた瞬間の第一声がそれですか。

 信史は思わず苦笑した。もともと、眠りを妨げられると不機嫌になるのだ。敬太は。眠っている時が一番幸せだなどと言い切る男だから。

 それを知っていて、起こしたのは自分。

「人のベッドで気持ち良さそうに寝るなよ。襲うぞ?」

「何、三村……飢えてんの?」

 寝る前にあれだけしたじゃんと敬太は言って、あくびを一つ。

 そのあくびを塞ぐように、信史は口付けた。

「ん……」

 しばらくそれに応えていて、敬太は呆れたように信史を見る。

「三村……俺、寝起きだからやばいんだって」

「分かってるって」

 信史はニヤリと笑って、敬太に覆い被さった。

 抱きつくように、上に乗っかってくる。

 敬太は目を閉じて、そのまま寝てしまおうかと思った。

 しかし信史はそれに気付いたのか、敬太の耳に歯を立てる。

「……っつ」

「寝んなよ、飯島」

 耳元で響く、信史の声。

 敬太は寝る事を諦めて、信史の背に手を回した。

 信史は敬太の耳を舌で舐めあげ、囁く。

「もう一回、しようぜ」

 こうなったらもう駄目だ。信史はきっと譲らない。

 敬太は信史の肩を掴んで、押し上げる。

「お前ってホント――」

「何?」

 仰向けになった敬太の上で、勝ち誇ったように笑う信史。

「相変わらず、凄い誘い方……」

 敬太は苦笑して、信史をベッドに押し倒した。

「当たり前だろ?俺はいつでも攻めの男なんだよ」

 嬉しそうに信史が笑う。

 多分、それだけでどうでも良くなってしまうんだと思った。

「お前、それ世間でなんて言うか知ってるか?」

「何」

「“誘い受け”」

 

 

 多分とても。

 とても大切だった。

 とてもとても、好きだった。

 だからずっと。

 ずっと一緒にいる事が、出来ると思っていた。

 ずっと、一緒にいると思っていた。

 きっと君が……

 

 

 ――君が、裏切りさえしなければ。

 

 

END.



…飯三…?飯島でしょうか、これ。飯島って、書いた事ないので分からないんですけど。
何故か眠るのが好きだというイメージが植え付けられているんですけど。
これ、相手杉村でもいけるんじゃないだろうか、なんて思ってしまいました(汗)
と言うか、とうとう三村受けにまで手を出したか…という感じですね…
受けでも攻めっぽい三村。難しかったです。とても。
しかも、大して面白くない話ですね…反省してきます…